「王侯将相いずくんぞ種あらんや」「生きとし生けるもの、万世一系にあらざるはなし」

いつの時代の、どこでのことかは定かでない。こんな会話が聞こえてきた…ような気がする。

 ボクの主人は人でなしさ。朝から晩まで人をこき使ってさ。人の汗で、肥え太って、いばりくさっている。

 私のご主人様は、ちょっと格が違う。高貴なお生まれなんだ。私だって鼻が高い。私のことにまで目をかけて、優しい言葉をかけてくれるんだ。

 ボクは、生涯をかけて仕返しをしてやる。あいつにも、この世の中にも。

 あら、私は恩返しをしなくてはと思っているの。あの方にも、この国にも。

 バッカじゃないの。何をありがたがってんだ。主人が高貴な生まれだからって、使用人は使用人。身分の差が縮まる分けないだろう。

 でもね。高貴な方って、近くにいるだけでステキなの。なんてったって高貴なお方だもの。

 下賎なわれわれがいるから、一握りの人が高貴になるんだろう。誰かが、都合よく高貴と下賎を分けたんだ。

 そうじゃないと思う。高貴なお生まれは、神さまがお決めになったんだと思うけど。

 そんな差別を作るヒドイ神さまがいるものか。「王侯将相いずくんぞ種あらんや」だ。

 そうかな。ご主人様は神さまのご子孫なの。だから、オオミココロで、私たちを自分の子どものように可愛がってくださる。ありかたくて、涙がこぼれるわ。

 キミって、欺され易いタイプなんだね。ちょっと心配だな。

 それにね。ご主人様は、「万世一系」なんですってよ。すごいでしょ。なんてったって「万世一系」なんですもの。

 なあに、オケラだってミミズだって、生きとし生けるものは、みんな「万世一系」だよ。キミだって、先祖からつながって今のキミがいるから「万世一系」。

 ちょっと違うようにも思うけど。そういわれればそうかもね。

 高貴なお方にお仕えすると、待遇はいいのかな?

 いえ、別に。ただ、ありがたい「おことば」をときどきいただけるの。それが、とてもステキなの。なにがどうステキか説明には困るけど。みんながそう言うの。

 お宅のご主人、もうすぐ代替わりっていうじゃない。代替わりってなにするの?

 やっぱり神さまだから、儀式が必要なんですって。みんなのお金を集めて、うんとお金を使って、うんと人を集めて、ハデハデにやるみたいね。

 ボクの主人は、鉱山掘ったり、工場経営したりしてるけど、キミのところのご主人様って何をしている人なの?

 昔は、国を運営していたみたい。でも今は、そういう権限はなくなって、言われたとおりに、原稿を読みあげたり判を押したりすることがお仕事みたい。それと、手を振ったり、お祈りしたりするんですって。

 ふうん。それで、暮らしに困ることはないんだ。

 だって、万世一系で神さまですもの。神さまが暮らしに困るなんて、ちょっとおかしいでしょう。

 神さまだって、万世一系だって、役に立たなきゃ暮らしていけないのが今の時代だろう。はて、どんな役に立っているのかな。

 そこが、問題ね。ご主人様も考え込んで悩んでいるみたい。

人間は皆平等のはずじゃないか。高貴も下賎もあるものか。ボクの主人がボクに威張り散らすのも我慢ができない。何とかならないものかね。

(2019年3月16日)

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2019.3.16より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=12237

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