放射性ヨウ素による甲状腺がんリスクは、ヨウ素の半減期が短いことを理由に、実態究明は一向に進まず、住民の不安感が募っている。甲状腺はノド仏の下にあり、ヨウ素を取り込む性質があって、特に子供への影響が大きいという。ところが、原発事故後の混乱もあって、被災地住民の詳しい測定が遅れている。チェルノブイリ原発事故後、国際原子力機関は「甲状腺被曝の影響を防ぐヨウ素剤」を飲む目安を100㍉シーベルトから50㍉シーベルトに下げたが、当局の対応は鈍いように感じた。
甲状腺被曝最大87㍉シーベルト
朝日新聞3月9日付朝刊は、「甲状腺被曝最大87㍉シーベルト、5人が50㍉超」と1面トップで特報した。弘前大学被曝医療総合研究所の床次眞司教授らが原発事故1ヵ月後の6日間、福島・浪江町らの住民67人の甲状腺内部被曝を詳細に計測した結果である。約半数が10㍉シーベルト以下だったが、5人が50㍉シーベルトを超えており、国が昨年3月実施した測定(最高値35㍉)より高い数値が気がかりである。
「週刊文春」3月1日号が「郡山4歳児と7歳児に『甲状腺がん』の疑い」を特報したことを、本欄(2月27日付)で取り上げたが、今回の弘前大測定は対象者が多く、今後の予防対策の促進を求めた調査ととして、その意義は大きい。
成人の検査も実施する必要
甲状腺がんの発生は、被曝から5年以上たってからが多いという。広島大原爆放射線医科学研究所の細井義雄教授は「最近のチェルノブイリの疫学調査では、40歳以上でも被曝により甲状腺がんのリスクが高まるという報告も出ている。成人への検査も検討が必要だ」と指摘している。
鈴木元・国際医療福祉大クリニック院長は「部分的なデータが色々と出てきており、被爆の実態を評価し直すことが必要だ。本来なら事故直後に精度の高い甲状腺被曝の検査をすべきだった。それができなかった一因は、曖昧な国の責任体制にあった。検査体制を見直す必要がある」と警告していたが、その通りである。福島県は、事故当時18歳以下の36万人を対象に生涯、甲状腺検査を行う方針を打ち出したが、成人検査も極力実施してもらいたい。
データに基づき、患者サイドの治療を
放射線被曝については、危険視するか逆に楽観視するかで、専門家の見方が極端に異なっている。素人が判断できないのは当たり前だろう。
「今まで我々が蓄積した広島・長崎やチェルノブイリの知識からは想像がつかないことが起こっている可能性がある。従来の常識から外れるからあり得ないと決め付けずに、実測した数値に照らして物事を考えたい。医者の真実は患者の側にある。甲状腺エコーは1日でも早い方がいい」(内科医)との言葉は尤もである。
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