福岡市の市民グループが進めていた福島支援ショップが開店中止に追い込まれたニュースは、新聞、テレビで報じられて全国に知れ渡った。「福島からのトラックは放射能をばらまく 」などといったメールが相次ぎ、店舗を貸すオーナーが運営する市民グループに 出店をやめてほしい と断ったためだ。実はこのプロジェクト、筆者を含む仲間と福島県の農村女性グループが共同で取り組んでいる福島の農と食を再生をめざすささやかな実践に、北九州で有機農産物の生産と流通をおこなっている市民資本の事業体九州産直クラブが共鳴、市民に呼び掛け「ふくしまショッププロジェクト」を立ち上げて進めてきたものだ。福島差別の渦中に当事者の一人として身を置いてみて、その陰湿さに驚嘆すると同時に、こうしたことを許す日本の社会に暗然となった。
原発事故は地域に住む人からあらゆるものを奪ったが、なかでも土に生きる農民と海に生きる漁民は生存の基盤そのものが揺さぶられた。農業記者としてそんな現実の中に飛び込み、何かできないかと探っているときに出会ったのが福島第一原発から50キロ圏のところにある三春町の農業女性であった。三春町でJA女性部を中心に農村女性運動に取り組んでいる会沢テルさんと農村女性問題に長年取り組んでいるジャーナリストの西沢江美子さんの手引きで、首都圏のNGOや市民が三春と出会い、さらに輪は九州で有機農産物の生産・流通に取り組む九州産直クラブ、関西で活発な労働運動を展開、今年度の賃上げ分を全額東日本の震災復興支援の投じることを決めて活動している生コン関連の労働組合に広がった。
震災と原発事故は、これまで農村の女性がコツコツと積み上げてきた、自立への試み、有機栽培や産直や直売、加工の実践を壊してしまった。三春町でも、村の女性たちは小規模な直売と加工を熱心に取り組み、国民年金プラスこの収入で暮らしを立てていた。直売・加工の崩壊はそのまま生活の崩壊につながる。いま女性たちはもう一度再生に向けて取り組みたいと歩きはじめている。大市場に向けての大きなシステムづくりではなく、そうした小さな仕組みの再生を応援したいと考えたのだ。
いくつもの新しい提案が動き出している。自分たちの生産した農産物を加工するに当たり、女性グループでは加工のエネルギーを自然エネルギーでやる方向が出されている。原発被災地の足元から、草の根の脱原発の実践がつくられようとしている。
問題は生産し、販売される農産物の安全性である。食べる側の人以上に作る側の女性 たちはそれを心配し、不安にさいなまれている。行政や農協の検査を十分活用しながら、それに加えて作る側と食べる側が共同で自主検査を行い、お互いの納得の上でだめなものは捨てることを含め、この問題を乗り越えていくことが話し合われている。
こうして動き出した第一弾が福岡市における「ふくしまショッププロジェクト」である。福岡市内の繁華街の商業施設「マリノア福岡」のいっかくにある農産物直売所「九州のムラ市場」のなかに9月17日開店をめざし、準備を進めていた。福岡市内の福島県人会や福島から避難してきている人たちがボランティアで応援する体制も作られつつあった。出店する品目は、原発事故以前の昨年収穫したもち米で作ったもちや梅干し、みそなど農家の女性たちが手作りした農産加工品で出発することになっていた。
このことが報道されたとたんに、店舗スペースを貸した企業と運営主体の九州産直クラブにメールや電話での非難の声が寄せられた。メールは十数通が寄せられたが、いずれも強い調子で福祉な支援ショップを非難するものだった。「九州に福島の物を持ち込むな」「地域に汚染が広がる」「福島のトラックが来るだけで放射能がばらまかれる」「出店をやめないなら不買運動をやる」といったものだ。
店舗の側は他の店に迷惑がかかると困ると、「ふくしまショッププロジェクト」に出店を断り、プロジェクトの側も断念せざるを得なくなった。九州産直クラブ代表で、同プロジェクトを推進してきた吉田登志夫さんは、9月8日の記者会見で、風評被害の怖さを改めて知ったと語ると同時に、「ふくしまショッププロジェクト」を断念したわけではなく、仕切り直しをして進めていくと語った。若いスタッフも、こんなことにくじけないで、腰を落ち着けてじっくりやります、と話していた。
また三春町の女性グループも、「地域で生きて、原発のない社会をめざすためにも、農の営みをあきらめないで、地道に、応援してくれる方々とともに歩みたい」と話している。
日刊ベリタ(2011年09月11日)より、著者の許可を得て転載
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