「まさかの」イギリスEU離脱であった。
しかしよくよく考えてみると、「まさか」というわれわれの感覚は、問題の切迫を見落としていたからだと気づく。
残留派は「EU離脱の経済的リスク」という「経済論理」で半ば説得し、半ば脅かしたが、離脱派の「EUからの移民流入がわれわれの生活を脅かしている」という「生活感情」に勝てなかった。EUから[とくに冷戦体制崩壊後EUの東方拡大で]流入した移民労働者が最低賃金以下の低賃金で懸命にはたらき、自分たちの職を奪っている、これは何とかしてくれ、という感情が離脱投票になった。
昨年9月の労働党党首選は、「鉄道再国有化、高所得者層への課税強化、核兵器廃絶」などを主張したコービン氏を党首に選出した。労働党はEU残留支持を決めたが、コービン党首の残留支持は、控えめであった。アメリカ民主党のサンダース氏と同じく、格差の解消を強く主張するコービン氏にとって、離脱派の感情を無視できなかったのではないか。(コービン党首では労働党はだめになると批判したブレア元首相は保守党のメジャー元首相と連れだって残留支持を訴えた)。
すでにフランス、イタリア、アメリカの大統領選挙・市長選挙で、移民排斥派が勢いを増していたが、今回の英EU離脱で、「移民問題」が欧米先進諸国にとって体制を揺るがす深刻な問題であることが示された。
「移民問題」は、じつは欧米だけの問題ではない。日本にはアジア諸国から安い労働力が自由に流入する制度はない。しかし、反対に、日本の製造業企業が安い労働力を求めてアジア諸国へこぞって流出している。日本の労働者は、海外工場の低賃金労働者と競争させられて、実質賃金が年年低下している。非正規雇用が増えている。
「移民問題」とは「格差問題」だ。
トランプ氏が「まさか」共和党の大統領候補者になるとは,われわれは考えなかった。
サンダース氏が「まさか」ここまで善戦するとは,考えなかった。
EU離脱派が「まさか」勝つとは、考えなかった。
でも「まさか」が現実となった。
イギリスのEU離脱は、EUに何を突きつけるか?ギリシャ財政危機で顕在化した「通貨統合の中途半端性」である。独仏が非戦の政治理念を貫こうとしたら、EUの政治統合を加速化するしかない。さもないと、イギリスの離脱に続く国が出てくるかもしれない。
イギリスの離脱があり得ると予測した英フィナンシャル・タイムスは、投票前の6月13日「ブレグジット(イギリスのEU離脱)が決まれば、英国を穏便に離脱させろ」というWolfgang Münchau記者の署名記事を載せた。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47108
その中で「ブレグジットは経済的な悪影響を伴うが、残留陣営が言っているほど劇的なものにはならないと筆者は考える」と、経済的影響をことさら小さく評価した。
そしてもっとも懸念されるイギリスの金融センターとしての地位の低下についても「もしシティー(ロンドン金融街)がビジネスを多少失ったとしても、それは必ずしも経済全体にとって悪いことではないだろう」とした。
はたしてそうだろうか?
シティの凋落は、英米金融資本主義を軸とするグローバル資本主義の凋落だと、筆者には思える。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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