「米国-NATOはシリア不安定化の引き金を引こうとしている」(トニー・カルタルッチ:翻訳とコメント 童子丸開)

シリア軍事介入を熱望する者たちによる
最も残虐な大嘘

 
 日本ではあくまで原発を推進しようとする勢力が、私の住むスペインでは銀行家とそれに結びついた政治集団の利権をあくまで確保しようとする勢力が、そして中東を見ると、NATOによるシリアへの軍事介入をあくまで実行しようとする勢力が、実に残忍で実に巨大で実にしつこい大嘘をつき続けています。権力を握る者たちはどれほどに嘘をついても罰せられることがないため、どのような残虐行為を犯してそれを他人に擦り付けても、どれほど私的で無責任な行動で国家を破滅に導こうとも、どれほど人間の生活と命を破壊に導こうと、良心の最後のかけらをも投げ捨てて、利権あさりと破壊と嘘にまい進するものなのでしょう。
 2012年5月26日、シリアとレバノンの国境近くにあるホウラ(Houla)で、大勢の子どもと女性を含む90人もの人々が惨殺される事件が起こりました。
 これについての日本の報道(インターネット版)をご覧ください。
 まずNHKです。『アサド政権の虐殺か 遺体多数確認(5月27日 5時14分)
 次は読売新聞です。『
シリア政府軍が武力行使、市民ら88人死亡
 そして朝日新聞は、『シリアで90人以上死亡 反体制派「政権側の攻撃」
 
 どの報道機関も、一見してこの惨殺事件がシリア政府軍によって起こされたと受け止められる報道をしています。特に読売新聞はひどいですね。スペインのテレビは新聞でも、「誰の犯行なのか」は述べていないものの、やはりシリア政府軍によるものであるかのような誘導が露骨になされていました。
 一方でシリア政府の反応はロシア国営RTニュースで次のように書かれています。
『シリア外務省のスポークスマンであるジハド・マクディスは、シリアは「嘘の津波」の犠牲者であると語った。「我々はこの虐殺に対する政府軍の責任をきっぱりと否定する」と、マクディスは土曜日にダマスカスで行われた記者会見で語った。彼は、反政府勢力のガンマンがこの襲撃の背後にいると付け加えた。』
  

 この事件について、グローバル・リサーチ誌に寄せられたトニー・カルタルッチの記事を、私(童子丸開)の拙訳ですが、お読みください。なお、訳文中のリンク先では、日本の報道機関では一切知らされることのない(欧州のテレビでは放映していた)事件現場の映像を見ることができます。非常に残酷な写真ですが、チェルノブイリ事故で犠牲になった子どもたちと同様に、これが世界の現実なのです。その点をご了解ください。

  またこれに関連して次の記事もご参照ください。
ボスニアからシリアへ:歴史は繰り返されつつあるのか?
血塗られたダマスカスへの道:主権国家を襲うトリプル同盟の戦争
シリア紛争を煽り立てるメディア報道の6つの手口
シリアを巡る《大嘘の大名行列》 

【追加情報】
 英国国営BBCニュースがまたやってくれました。イラクの映像を「シリア大虐殺の写真」として報道したのです。(櫻井春彦さんから教えていただきました。)
“BBC News uses ‘Iraq photo to illustrate Syrian massacre'”
<http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/middleeast/syria/9293620/BBC-News-uses-Iraq-photo-to-illustrate-Syrian-massacre.html>
(参考)
<http://www.marcodilauro.com/features/iraq-war/#num=content-442&id=album-16>

 BBCは昨年のリビア攻撃の際にも「グリーン・スクウェアーだ」といってインドの映像を流すという、ウルトラ低レベルのプロパガンダを披露しています。
http://www.youtube.com/watch?v=R_-lzI8I0_0
(参照)でっち上げ:メディアはどのように世界を戦争に向けて操るのか

 

(2012年5月28日 バルセロナにて 童子丸開) 

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米国-NATOはシリア不安定化の引き金を引こうとしている
殺人部隊がシリアの街を破壊 ― 西側は「行動」を呼びかける
西側が再び不安定化を激化させるにつれ、報道はすでに矛盾を起こしつつある

トニー・カルタルッチ著
グローバル・リサーチ 2012年5月26日

 シリアのホムス北西部にあるホウラはレバノンとの国境に近く、武装過激派や現金や武器が何ヶ月も前から自由に流れ込んできていると認められている場所なのだが、そこに国連監視団が到着する以前ですら、米国、英国、フランスは、この中東の国へのさらなる手出しを正当化しようとする中で、「国際社会」に対してシリア政府に反対して行動するように呼びかけていた。

 フランスの新しい外相であるローラン・ファビウスは、シリアに対してとるべき更なる手段について協議するために、怪しげな「シリアの友人」一味に再び会談を呼びかけた。一方でフランスと英国はそのシリア反政府勢力への支援を増強しようと主張した。それはいまや無差別の爆弾攻撃を含むテロ攻撃の実行だということが明らかになっている。国連およびヒューマン・ライト・ウォッチの双方によれば、それには一般市民の誘拐や拷問や殺害が含まれている。

 西側のメディア機関は、遅れて現場にやってきた国連監視団によって「確認された」90人の死がシリア政府の砲撃によるものであると主張してきた。しかしながらそれは、死、特に子どもたちの死が殺人部隊が使う「ナイフ」によるものだったと主張する湾岸国家メディア(Kuwait News Agency)からの報道と矛盾している。反政府側からとシリア政府のSANAニュース・ネットワークの双方によって放映された映像は、殺害された家族の者たちの死体が大きな損傷の無い状態で横たわっている姿を見せてくれる。それは、湾岸国家のネットワークによって主張されているように、至近距離からの軽火器とおそらく刃物を併用した惨殺の結果である。SANAは、この虐殺が反政府勢力の殺人部隊によって行われたものだと主張し続ける。その主張はこの騒乱の期間で一貫している。ところが西側とその同盟者は、悪質になる一方の自分の仲間の反乱勢力による惨殺を誤魔化すために、矛盾だらけで変わり続ける説明をしてきた。
【訳者から:SANAサイトの他に、ホウラで殺害された子どもたちの写真はこちらで見ることができる。とうてい砲撃の犠牲者には見えない。】

 国連の監視団がシリアのホウラに到着するとほとんど同時に、いわゆる「自由シリア軍」は国連の和平提案を見限るだろうと宣言した。それは、国連の「和平調停」終了を呼びかけシリア政府転覆のための暴力の復活を求めるワシントンのシンクタンクの報告書で予告されていたとおりである。砲撃ではなく殺人部隊がホウラの90人の大多数の命を奪ったことは、誰がどの情報源を引用するかに関わらず、明らかなようだ。問われるべきは、この恐ろしい犯罪で「誰が得をするのか?」ということなのだ。密集した区域の複数家族を、まさに公開で皆殺しにしハンディカメラの映像を世界中に流すことが、いったい誰に利益をもたらすのか? 国連の監視団がこの暴力を理解するために現場に到着する以前に一足跳びに結論を出すことが、いったい誰に利益をもたらすのか?

 シリア反政府勢力はその過激な背景が次々と暴露されるにつれて戦術的にもモラル面でも説得力の面でも敗北しつつあり、ペンタゴン内の同盟者すら認めるアルカイダとのつながりと、膨れ上がりつつある虐殺の一覧が、リビアを陥れたと同様の社会崩壊の悲劇以外は無い未来にシリアを導いていくという確信をくじきつつあるのだろうか? あるいはシリア政府が、ネオコン勢力、巨大企業が出資するシンクタンク、NATOの悪巧み、そして米国-イスラエル-サウジアラビア合同の国を分裂させ破壊しようとする策謀を確実に拒絶し続けているのだろうか? そういったことは、2007年にセイモア・ハーシュの記事「The Redirection」によって明らかにされ文書化されたものであるのだが。
 
  明らかなことだが、シリア政府は、外国の利益と公然のつながりを持ち自らそれを認める分派主義の過激派集団に対する残虐に取り扱う政策によっては、あらゆるものを失うことになる。そして明らかにシリアの反政府勢力は、全面敗北かあるいは大量の武器供与とおそらくNATOの軍事的な協力を受けるかの間で揺れ動いているのだが、ホウラでシリア国民を残虐に扱い政府に罪をかぶせて、西側が何ヶ月もの間探し求めている開戦理由の悲劇をひねり出すならば、全てを手に入れることができたのだ。
 シリア反政府勢力と西側企業メディアの両方による一連の嘘がばれてしまった後で ― それは言うまでも無くイラクリビアの戦争を世界に売りつけるために使われた詐欺の類だが―西側によって(何時間かで)実に素早く結論付けられて持ち上げられた論調を疑ってみることは、不合理とはいえないのではないか? 「自由シリア軍」が国中で爆弾攻撃を行っていた最中には ― それは彼ら自らが犯行を認めたことだが―その同じ西側はのんべんだらりと座り込んでいたのだ。そのときにはどこに激憤や行動への呼びかけたあったというのか? 外国の受益者が資金を与える武装グループが意図的に一般市民を標的にしているのを国連は非難したか?

 ホウラの虐殺を見ればはっきりするが、我々は自分が新たな危機的状況に立っていると分かる。そこでは陰険な受益者どもが自ら計画して続けてきた暴力をストップさせるなどという理由で戦争を叫んでいるのだが、情報を得た客観的な世界中の人々がその流れを押し戻さなければならないのだ。
【翻訳ここまで】
 
 
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1952:120529〕