「経済民主主義」による企業統治をめざして―― トマ・ピケティと斎藤幸平の思考の違いについて ――

 日本でも、コロナ禍で企業の不正や不祥事、格差・差別、各種のハラスメントなど労働社会問題が相次ぐ中、こうした事態を払拭するための企業統治の改革論議が大きなうねりをみせている。とりわけ市場万能と資本優位の新自由主義のもとで、格差社会を超える議論が活発だ。
 本稿では、主として「人新世の資本論」で話題を呼んだ斎藤幸平と、フランスの社会経済学者であるトマ・ピケティの思考の違いを論じたい。
 一口で、斎藤幸平論の特徴は、現代資本主義の超克の社会経済体制として、「脱成長のコミュニズム」を提起していることである。具体的には、(1)生活の基礎・公共インフラ(水・電気、ガス事業及び教育・医療・介護など)をコモン(共通財産)として、社会的所有・共同管理を行う。このプロジェクト・ガバナンス強化を図るために、市民代表や労働者代表らが非常勤理事として参加する制度を法定化する。
 また、(2)中国やロシアなどの官僚制国家資本主義に反対し、国有国営企業と私企業のコルホーズ化、労働者の自治管理「ワーカーズ・コープ(労働者協同組合)」を(1)を除く、全産業に拡大導入する。このため、(3)現在のオーナー経営者や株主支配企業が利益の最大化を求めて競う上場市場と株式会社の機能停止、廃止を進める志向だ。
 これに対して、ピケティの試案では、前記(1)に関して、非営利法人組織の社会的所有・自主管理(Autogestion)を実施する。そのために、同法人組織における出資者(株主)の理事会(取締役会)での議決権を1/3に制限。(2)と(3)においては、社会的市場経済の存続・発展は公認しており、企業(営利法人組織)における労使共同決定制度(Cogestion)の法制化を推進する考えである。基本的に従業員10人以上の民間企業に対して、ワーカーズ・コープではなく、労資完全同権の1/2共同決定制度を全面適用する構えだ。
 即ち、ピケティの社会思想はドイツやスロベニアなどで進められている「経済民主主義」(企業収益への従業員参加の促進と経営民主化=労働者代表制と労使共同決定制度)による企業統治法制度に由来している。そして、あくまでグローバルな見地から全ての企業・職場の社会正義・民主主義強化、格差の是正、地球環境の保全という普遍的価値観に基づく<参加型社会主義>モデルを提供していることは間違いない。

 一方、米国においても民主党左派の理論家であるジョージ・タイラー上院議員が企業の労使共同決定制度の優位性を提言している。米国は取締役会(二元制=監査役会)に従業員代表・労働組合を経営参画させているEU企業(グループ)のコーポレートガバナンスから、大いに学ぶだと強調。この制度を活用して生産性の向上分(利益)の大部分を労働分配している”ワーク・エンゲージメント(働きがい)”の効果を挙げた。米国企業が株主還元を優先し、労働者に対して改善された労働生産性の付加価値のうち13%しか配分されていない現状格差を衝いているわけだ。米国では、このタイラー・ビジョンの実現はまだ政治的にマイノリティ、初期段階にあると言え、今後の発展を期待したい。

 日本型共同決定制の実現を
 日本も学ぼう。全ての労働者のために、「新しい資本主義」・「ステークホルダー資本主義」を超える労働者経営参画の企業統治(コ-ポレートガバナンス)改革をはじめ、「日本型共同決定制」の法制化による新たな勤労福祉社会の実現をめざして!

【参考・引用文献】
  高木雄郷『日本型共同決定制の構想』(2022, 明石書店)
  トマ・ピケティ『資本とイデオロギー』(2019, piketty.pse.ens.fr/ideology)
  斎藤幸平『人新世の「資本論」』(2020, 集英社)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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