菅直人新内閣は8日午後、官房長官に就任する仙石由人衆院議員が新閣僚の名簿を発表。同日夜、皇居で任命・認証式を行い、正式に発足した。前日の7日、決定した枝野幸男幹事長、玄葉光一郎政調会長ら執行部人事と併せて、7月の参院選で勝利し、反転上昇した支持率を武器に参院での与党過半数確保を目指す。
菅首相は8日朝の民主党役員会で「当面の課題は国会対応と、参院選にいかに勝ち抜くかだ」と述べた。これは16日までの会期を延長して国民新党と合意している郵政改革法案を今国会で成立させるのか、それとも菅首相への期待感が民主党への追い風となっているいま、延長抜きで7月11日投票の参院選に突入するのか、フリーハンドを握ることを示唆した。
同日午後の記者会見で、菅首相は財政再建が新政権にとって「最大の課題」との認識を示し、消費税引き上げを含めた与野党の税・財政論議の必要性を訴えた。さらに「経済、財政、社会保障を立て直し、強い経済、強い財政、強い社会保障を一体として実現する」と決意を語り、鳩山前首相の躓きとなった沖縄普天間基地の移設問題について「日米同盟を基軸に外交を進める」として、先の日米共同声明に沿って作業を進める考えを強調した。
菅首相は持論の「最少不幸社会の実現」を強調し、新内閣のネーミングについて「奇兵隊内閣」と述べ、明治維新の雄、高杉晋作にあやかる考えを示した。
▽11人が再任
仙石由人官房長官(64)が発表した新内閣の顔触れは、17人の閣僚のうち6人が新任ないし横滑り。11人が鳩山前政権からの再任となった。
初入閣は玄葉光一郎政調会長(46)が公務委員制度・少子化「新しい公共」男女共同参画担当、蓮舫・行政刷新担当(42)、野田佳彦財務相(53)、荒井聡・国家戦略担当相兼経済財政・消費者・食品担当(64)、山田正彦農水相(68)の計5人。そして仙石官房長官は国家戦略担当相からの横滑りである。
再任は普天間問題にあたる岡田克也外相(56)と北沢俊美防衛相(72)、原口一博総務相(50)、千葉景子法相(62)、川端達夫文部科学相(65)、直嶋正行経済産業相(64)、長妻昭・厚生労働相(49)、前原誠司国土交通相(48)、小沢鋭仁・環境相(56)、中井洽・国家公安委員長(67)の計11人に上った。
▽小沢シンパにも配慮
前日の7日、両院議員総会で枝野幸男幹事長(46)を目玉とする執行部の人事を承認した。顔触れは枝野氏のほか、玄葉光一郎政調会長(閣僚兼務)、樽床伸二国対委員長(50)、安住淳選挙対策委員長、小宮山洋子財務委員長、さらに参院選対策本部代理に石井一氏、山岡賢次広報委員長を任命、両者とも副代表を兼ねる。幹事長代理に昇格させた細野豪志氏と並んで、いずれも小沢一郎前幹事長に近く小沢グループへの配慮と見られる。
さらに参院選を目前にした参院執行部は幹部をことごとく留任させた。輿石東・議員会長、高嶋良充幹事長、平田健二国対委員長らである。
8日の組閣に伴い、首相補佐官人事も実施、新たに阿久津幸彦、寺田学の両衆議院を補充。鳩山内閣で補佐官を務めた逢坂誠二衆院議員、小川勝也参院議員は再任された。
▽小沢氏、全国を回る意向
会期末のもう一つの懸案は野党側が強く求める小沢一郎前幹事長の衆院政倫審での説明問題である。既に枝野幹事長は7日、小沢氏は幹事長辞任によって説明責任を果たしたとの解釈を示唆。菅首相も8日、この問題の処理を枝野幹事長に任せる発言をした。菅、枝野両氏とも就任後未だに小沢氏との会談を拒否された状態で、とても菅首相らから小沢氏に政倫審出席を要請できる状態にない。
ただ、この問題を小沢辞任と脱小沢人事によってすり抜ければ、野党側特に自民党は激しく批判し、有権者に宣伝するだろう。菅首相にとって、頭痛のタネだ。
その小沢氏は7日の両院議員総会に欠席し、怒りを示した。小沢氏の心境は検察当局の二度にわたる事情聴取でも「不起訴」を勝ち取ったのに、なぜ幹事長を辞任する必要があるのか、という不満の固まりである。
菅氏が新首相に指名された4日夜、支持グループの中堅・若手議員約50人を都内のレストランに集め「もう幹事長でなくなったが、これからもやるぞ」と宣言した。ひとりひとりに選挙区ごとの参院選対策を伝授し、特に自らが候補として擁立した候補のてこ入れに全国を飛び回る、という。小沢氏が9月末に予定される民主党代表選に照準を当てているとの観測がもっぱらだ。(了)