「菅首相、6月退陣を決断か―週内にも両院議員総会」

著者: 瀬戸栄一 せとえいいち : 政治ジャーナリスト
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 菅首相が今週中にも開かれる民主党両院議員総会で、改めて6月中の退陣を表明する公算が大きくなった。2011年度予算をはじめ第1次補正予算、さらには夏にかけて編成される第2次補正予算案を執行するうえで、国債発行の前提となる公債特例法案の成立を野党側が受け入れることを条件にした決断である。民主党はこれを受けて後継の代表―首相選びに入るが、前原誠司前外相か野田佳彦現財務相が有力視される。
 6月2日の民主党代議士会でのあいさつで、菅首相は大震災復旧―復興について「一定のめど」がつけば若手に責任を引き継ぐと述べ、引き続く衆院本会議で民主党議員はこの発言を辞意表明と解釈し、不信任決議案を大差で否決した。ところが同日夜の記者会見で、首相は「一定のめど」の中には福島原発事故の冷温停止も含まれるとの考えを示唆、来年1月ごろの退陣を想定していると受け止められ、野党側はもちろん、首相周辺を含む民主党議員にも衝撃を与えた。
 原発の冷温停止までを「一定のめど」とすれば、退陣表明して不信任可決を逃れた首相が、さらに半年間、首相の座に居続けることになる。それまでの間、自民党はじめ野党が事実上、国会審議や政策協議に応じず、国会がストップ状態に陥るからだ。鳩山前首相は菅首相を「ペテン師」と罵倒し、民主党内は再びあと半年間の在任を認める岡田克也幹事長らと、鳩山、小沢一郎支持勢力のみならず中間グループらとの間の亀裂が深まり、菅首相への信頼感がさらに薄らいだ。

 ▽いったんは来年初めの退陣も
 退陣表明を示唆し内閣不信任案の可決を回避した首相が、衆院本会議が終わった直後に、少なくともあと半年間の続投をした例は過去に見当たらない。参院で過半数を持つ野党がこれを許すはずもなく、事実、第2次補正予算編成や特例国債発行法案は野党側のサボタージュにあって時期的なメドもつかない情勢となった。それどころか、いったんメルトダウンした福島第一原発の「冷温停止」がいつまでに実現するのか、被曝した作業員の人数が増えるなど、予測がつかない見通しが日に日に強まった。
 あくまで首相の座に留まることを最優先する菅首相は「一定のめど」からさりげなく原発事故関連をはずし「第2次補正予算編成のめど」に切り替え、今年8月中の退陣の前約束によって民主党内や野党側の反発をかわそうとした。こうした「めど」を枝野幸男官房長官らが受け入れ、8月退陣説で鎮静化しようと試みた。

 ▽仙谷―大島ラインでレール敷く
 だが、これを無視したのが、仙谷由人前官房長官らである。すでに菅首相は政治的にレームダック(足の不自由なアヒル)化しているとみた仙谷氏は、自民党内で発言力を持つ大島理森副総裁らと頻繁に会談し、意思疎通を図った。菅首相が在任期間を延ばそうとすればするほど国会は動かなくなり、結果として大震災の復旧・復興の見通しはずるずると先延ばしになる、と読んだ。
 仙谷氏は菅首相の意向をいちいち確かめることなく、大島副総裁らとの意思疎通を図り、6月末退陣へのレールを敷いた。それまで菅首相の意向をおもんぱかって、在任先延ばしの国会答弁を受け入れてきた岡田幹事長や安住国対委員長、枝野官房長官らは仙谷ペースの激しい動きに巻き込まれ、6月退陣を事実上、認め始めた。仙谷氏の「宿敵」小沢一郎元代表も裁判を秋に控え、発言を控えた。

 ▽抑えきれない仙谷氏
 この間、菅首相は「めど」の中身を「2次補正編成」から「2次補正の可決」にさりげなく変えたりして「抵抗」を試みたが、もはや仙谷氏は自民党の中枢と一体化して行動しており、抑え切れなくなった。
 菅首相が在任長期化につながる発言をすればするほど、重要法案の国会審議は停滞し、震災復旧―復興そのものも先へ先へと遅れる実態がはっきりしてきた。菅首相の期待はそうした流れが自民党など野党批判に転じることだったが、やはり復旧が遅れれば批判の矛先は首相官邸と与党に向かう。

 ▽野田、前原氏らが浮上
 そうこうするうちにポスト菅の代表・首相候補の名前が公然とマスコミに飛び交い、これを鎮静化するためには、菅首相の早期退陣しかないことがだれの目にもはっきりしてきた。
 党内外に敵の少ない野田佳彦財務相が公認候補に大きくクローズアップされた。半面、財務官僚の全面支持を受ける消費税積極論への肯定につながるとの批判も根強く、メリハリの利いた発言力と米政府の信頼が強い前原前外相に収斂する可能性も小さくない。前原氏については在日韓国人からの25万円の献金発覚での外相辞任という傷痕がブレーキになるが、総額わずか25万円という規模の小ささが免罪符になるとの見方もある。
 いずれにせよ、ここまでくると、菅首相がさらに「粘る」政治的正統性すら乏しくなった。13日の亀井静香国民新党党首との与党首脳会談で、亀井氏がさらなる在任延長と国会大幅延長論で菅首相を激励したものの、会談開始前の菅首相のやつれた無表情が目立った。隣に座る安住国対委員長は「国債発行特例法案の成立が退陣のめど」と前日の日曜テレビ討論で公然と述べたばかりだからだ。(了)

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