「戦争する国絶対反対」。豪雨の中に立ち尽くす人たちのコールが、雨雲に煙る国会議事堂の周辺にこだました。9月19日は、安倍政権が野党の反対を押し切って、自衛隊の集団的自衛権行使を認める安全保障関連法を成立させてから1年。この日、同法の廃止を求める行動が全国四百数十カ所で行われ、国会正門前では約2万3千人(主催者発表)が参加する集会があった。同法に反対する運動がなお根強いことが浮き彫りになった。
国会正門前で開かれた集会は「強行採決から1年 戦争法廃止!国会正門前行動」。主催は昨年から安全保障関連法反対運動を主導してきた「戦争をさせない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」。労働団体、平和運動団体、市民団体などで構成する組織だ。
集会は午後3時30分、コールで始まった。演台のマイクに立った女性が叫ぶと、参加者全員がそれに合わせて国会議事堂に向かって声をあげた。
「戦争する国絶対反対」「戦争法は絶対廃止」「戦争法は憲法違反」「みんなの力で憲法守ろう」「憲法守ろう命が大事」「憲法守ろう平和が一番」・・・。「戦争法」とは安全保障関連法のことである。
次いで、野党4党の各代表あいさつ。
民進党の岡田克也・前代表は「安全保障関連法が成立してから1年だったが、これが憲法違反の法律であることは何ら変わりがない。これを廃止に追い込んでゆきたい。憲法の平和主義を侵害するのは集団的自衛権の行使だ。我々は憲法の平和主義の基に結集しよう。参院選では野党が結集したため、32の1人区のうち11の選挙区で自民に勝利できた。来る衆院選でも市民を中軸にした野党の結束を図りたい。この国がおかしな方向に行かないよう努力することを誓う」と述べた。
共産党の志位和夫委員長は「昨年の戦争法強行成立は暴挙であった。断じて許すわけにはいかない。それから1年。市民の力が日本の政治を変えてきた。参院選では、市民に背中を押されて、野党は32の1人区の全てに統一候補を立てることができ、11の選挙区で自民に勝った。来る衆院選は第2ラウンド。ここでも野党間で協力しようということはすでに党首会談や幹事長・書記局長会談で決まっている。やるかやらないかではなく、いかにやるかだ」と述べた。
社民党の福島瑞穂・副党首は、沖縄で、県民の総意を無視して米軍普天間飛行場の辺野古への移設工事と、東村高江で日米両政府が進めるヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設工事が強行されている事実を報告し、「これは基地強化と新基地建設にほかならない。沖縄県民の平和的生存権を踏みにじるもので、断じて容認できない」と述べた。
その後、戦争をさせない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会の構成団体、学者の会、弁護士団体の各代表、元自衛官らのスピーチがあったが、いずれも安全保障関連法の廃止を求め、そのための市民側の運動の強化を訴えた。その関連で、民進党のこれからの活動方針に懸念を表明した発言もあった。民進党の代表選挙で、野党共闘に否定的な意見が出たことを意識したものと思われた。「共闘問題で民進党は迷走している」と話した学者もいた。
そうした懸念を反映したのだろう。参加者が掲げるブラカードに「野党は共闘 民進党は市民の声を聞け!」というのがあった。また、スピーチの間に繰り返されたコールにも「野党は共闘 市民も共闘」「市民と野党は共闘共闘」というのがあり、その時はひときわ参加者の声が高くなった。
野党共闘を訴えるプラカードも目についた
政党代表のあいさつや各団体代表のスピーチで強調されたのは、安全保障関連法に基づいて自衛隊に課される新しい任務への懸念だった。具体的には、アフリカの南スーダンの国連平和維持活動(PKO)として11月にも派遣される予定の陸上自衛隊に新たな任務が付与されるのではないか、との懸念だ。すなわち、「駆けつけ警護」への疑念である。
スピーカーの何人かは「安全保障関連法によって任務遂行のための武器使用が可能になることで、殺し殺されるという事態が想定される」と述べた。志位共産党委員長と元自衛官は「南スーダンはいわば内戦状態にある。そんなところに自衛隊員を派遣していいのか。もし死者がでたら政府は何と説明するのか」と訴えた。参加者が唱和するコールでも「南スーダン派兵は危険」「駆けつけ警護は憲法違反」「自衛隊員の命を守れ」などのコールが飛び交った。
集会の参加者は中高年が多かった。SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)が解散したためか、学生や若者はあまり見かけなかった。
午後4時過ぎ。雨足が激しくなった。でも、国会正門前から立ち去る人はほとんどなかった。傘をさしてじっと立ち止まったまま、身じろぎもせずスピーチに耳を傾ける。その真剣な顔、顔 、顔・・・。そこには、組織に指示されたり、動員されたりしてやってきたというのでなく、1人で、しかも自らの固い意思で参加してきた人間の姿があった。雨の中、そうした人びとの間をかき分けて歩きながら、私は思った。「安全保障関連法に反対する運動はすぐしぼんでしまうことはないだろう。むしろ息長く続くのではないか」と。
雨の中、国会周辺につめかけた人たち
子ども連れの集会参加者も
参加者が掲げるプラカード
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