以上のタイトルは、昨日(5月16日)日弁連会長に宛てた法律家8団体の抗議書のタイトルそのものである。相当に厳しいトーン。私は、この抗議に全面的賛成の立場だ。
まずはこの抗議の全文をお読みいただき、事態の深刻さをご理解いただきたい。
日本弁護士連合会 会長中本和洋殿
2016年5月16日
私たちは,参議院で審議中の刑事訴訟法等改正法案は,司法取引や盗聴の大幅拡大,「部分録画」を許す取調べ録音録画など,冤罪防止どころか新たな冤罪を作り出す危険が高く,捜査権限の拡大強化と国民監視を図るだけの制度を法制化するものだとして,本法案の廃案を求めて運動を続けてきました。
本法案は今週5月19日(木)にも採決予定と言われていますが,審議すればするほど本法案の人権侵害性が明らかになり,審議は全く尽くされていません。
このような法案を数の力で成立させることは絶対に許されません。
私たちは,日弁連が,17年前には現行盗聴法の成立に強く反対したにもかかわらず,本法案について推進の立場をとったことを誠に残念に思ってきました。日弁連が本法案を推進する最大の理由は,「取調べの可視化」が法制化されることにあったと思います。日弁連は,この「可視化」がどれほど不十分なものであっても,法制化されること自体が冤罪防止のための「一歩前進」であるとして,盗聴拡大や司法取引の導入と引き換えにしても余りある価値があると考えてきたはずです。
ところが4月8日の今市事件の宇都宮地裁判決は,本法案の先取りのような形で取調べの録音録画が行われたことにより,被告人の有罪判決が導かれるという重大な事態を露呈しました。暴力を振るわれ,「殺してゴメンナサイと50回言わされた」などの自白強要場面は録画されず,屈服して自白した場面が録画されて公判廷で再生されることにより,映像の強烈なインパクトによって,自白の「任意性」が容易に導かれただけでなく,実質証拠としても機能して有罪判決に至ったのです。裁判員たちは,録画がなければ有罪判断はできなかったと語っています。本法案の録画対象事件の少なさや大幅な例外規定をもって「抜け穴だらけの可視化」,「いいとこ録り」などと批判してきた私たちも,現実の裁判を目のあたりにして,これほど酷いことになるとは思わなかったと青ざめています。冤罪被害者たちは,本法案の恐ろしさを肌で感じ,必死で反対しています。
それだけでなく,今市事件に関連する国会質疑においては,本法案の重大な「欠陥」が明らかになりました。
今市事件では,2月に商標法違反で起訴され,起訴後の勾留中に殺人罪の取調べが行われ,6月に殺人罪で再逮捕されています。この3か月半にわたる起訴後勾留中の取調べにおいて自白が強要されましたが,その部分は録画されていません。そして,参議院法務委員会で林刑事局長は,別件で起訴後の勾留中の「被告人」に対する本件の取調べは,「被疑者」(法案301条の2第4項)の取調べではないから,録音録画義務がないと明言したのです。
これでは,本法案が成立したならば,別件での起訴後勾留を利用して,いくらでも録画なして自白を強要し,自白に追い込んだところで本件で逮捕することが可能になってしまいます。
日弁連は,本法案は,取調べの「全過程可視化」を実現するものだと主張し続けてきましたが,政府の解釈によって,「全過程可視化」など全く実現しないことが,はっきりと明らかになったのです。
法案の採決が迫った5月12日,日弁連の刑事法制委員会が,上記の一点に絞り,日弁連は,法務省等に対し,起訴後勾留中の取調べについても録音録画義務があることを明確にする法案への修正を求めるべきだとの意見書を出しました。ところが,日弁連の正副会長会議は,この意見を受け入れず,政府の解釈が間違っているとして,法案修正を求めない結論になったとのことです。
私たちは,この日弁連の結論に強く抗議します。
政府がはっきりと「録音録画義務なし」との解釈を明言しているのですから,法案が成立すればその解釈どおりに実務は動くでしょう。何か月も,やりたい放題,録画なしで自白を強要でき,自白に追い込まれて「スラスラ」自白している場面だけ録画する。このような法案の成立を,日弁連が黙って見ていることが許されるのでしょうか。
「全過程可視化」はどこに行ったのでしょうか。
法案はまだ成立していないのです。
政府見解に抗議し,法案の修正を求めるのは当然のことでしょう。
それがダメなら、今からでも日弁連として法案に毅然として反対して下さい。
「日弁連が冤罪に加担した」と言われないために。
日弁連が冤罪被害者と国民の信頼を取り戻すために。
社会文化法律センター
自由法曹団
青年法律家協会弁護士学者合同部会
日本国際法律家協会
日本民主法律家協会
盗聴・密告・冤罪NO!実行委員会
盗聴法廃止ネット
盗聴法の拡大と司法取引の導入に反対する刑事法研究者の会
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同じく8団体が、同じ日に民進党にも要請書を提出している。その、タイトルだけをお読みいただきたい。これで、本文はあらかた推察がつく。
冤罪防止を目的としたはずの刑事訴訟法等「改正」法案は、冤罪拡大の「大改悪」法案であることが、参院質疑の政府答弁で改めて明らかに!!
今市事件裁判判決(本年4月8日)を通して、「一歩前進」とされてきた取調べの可視化(録音・録画)が、「むしろ冤罪・誤判を誘導するという危険性」をメディアも報道!
私たちは、民進党が5月19日採決容認方針を撤回し、徹底かつ十分な審議を貫くことを強く求めます!
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法律家8団体がこぞって、刑事訴訟法等『改正』法案は、実は「冤罪・誤判誘発法」となる危険性を指摘しているのだ。そして、その指摘の内容は極めて具体的だ。今市事件の取り調べ経過と部分可視化による判決で、その危険は顕在化している、と警告し猛反対している。
今市事件の教訓は次のようなものだ。被告人は、まず「偽ブランド品のバッグを所持していた」という商標法違反の別件で逮捕され起訴された。起訴のあとは、取り調べに応じる義務はないとされているが、それはタテマエだけのこと。現実には本件の殺人事件について、ぎゅうぎゅう取り調べを受けた。このときに、自白強要があったが、この場面は録画されなかった。屈服して自白した場面だけが録画されて公判廷で再生されることになったのだ。「この,自白映像の強烈なインパクトによって,自白の『任意性』が容易に導かれただけでなく,実質証拠としても機能して有罪判決に至った」。裁判員たちは、「この映像がなければ有罪判決は出せなかった」と言っている。部分可視化がもたらした有罪判決であり、冤罪である可能性が限りなく高い。
しかも、この取り調べの「部分可視化」について、参議院法務委員会で法務省の刑事局長は,このような「別件で起訴後の勾留中の「被告人」に対する本件の取調べは録音録画義務がない」と明言している。つまりは、現法案が成立すれば今市方式が是認されるのだ。
日弁連は、「部分可視化でも一歩前進」の立場、また「刑事局長答弁は法(案)の解釈を間違えている」という立場でもある。これに対して、8団体意見は「このような制度化された部分可視化は冤罪を誘発する」、「立法担当者が明言する取り調べ運用は必ず実務となる」という批判。
信頼されている日弁連が間違うとことだ。朝日も毎日も批判をしにくい。むしろ、赤旗のほかでは、産経がきちんと問題点を報道するという奇妙なことが起こっている。
明後日、5月19日(木)にも参議院での委員会採決強行があるかも知れない緊迫の状況。ぜひ反対の声に応じていただきたい。
(2016年5月17日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2016.05.17より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=6892
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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