第22回参院選があす(6月24日)公示される。投開票日は7月11日。この参院選で民主党が単独で「60議席」を獲得すれば菅直人政権は非改選組と合わせて、単独で過半数122議席に達し、政権は一応安定する。
しかし菅首相本人は22日の9党首討論会で獲得議席目標を「改選54議席プラスアルファ」と表明、ハードルを下げた。鳩山由紀夫前首相は退陣表明(6月2日)前に「60議席以上」と民主党の単独過半数獲得を掲げており、菅首相はあえて目標議席を6議席も下げて参院選に臨む。
鳩山前首相が退陣表明する直前の内閣支持率は19・6%という低さにまで落ち込んでいたが、菅首相に交代するとV字型に反転上昇し、6月8、9日実施の初世論調査で61・5%にまで回復した。(いずれも共同通信)
これに勇気を与えられた菅首相は16日までの通常国会を会期延長せずに閉幕し、一路、参院選に目標を集中する戦略に転じた。
だが、共同通信が別の手法で投開票まで計3回実施するトレンド調査では、第一回目(12、13両日)の64・8%が一週間後の第2回トレンド調査(19、20日)では58・8%と、6・0%も下落した。この間に菅首相は17日の記者会見で、自民党選挙公約にある「消費税10%」について「10%を参考にする」と発言、政権与党の党首として「10%を参考に議論は公約だ」とも述べた。
こうした菅首相の消費税引き上げ発言が、トレンド調査に表れた内閣支持率をわずか1週間で6ポイント引き下げたものと見られる。菅首相の「低目の議席目標」も消費税発言が支持率を「微減」させることを読み込んだうえで、あえて打ち出したとの見方もある。
▽改選、非改選で122以上狙う
22日までの共同通信集計では、24日公示の参院選に約440人が立候補を準備し、前回2007年参院選の377人を上回るのは確実だ。
参院議員の定数は242で改選数は121(選挙区73、比例代表48)である。民主・国民新の連立与党は非改選と合わせて過半数の122を確保し、発足後間もない菅政権の基盤安定化を狙う。
立候補予定者の数は、選挙区252人、比例代表187人。このうち2大政党からは民主106人、自民84人が出馬する見込みだ。このほか公明、共産、国民新各党など政党要件を満たす7政党が候補者を擁立する。さらに新党が乱立するうえ、民主党は改選数2以上の選挙区で複数立候補を立てる原則を変えず、選挙区を中心に激戦は必至だ。
▽現有過半数ぎりぎりを確保
参院事務局によれば、改選と非改選を合わせた選挙前の各党・会派の人数は次の通りだ。
民主党・新緑風会・国民新・日本122▽自民党71▽公明党21▽共産党7▽新党改革6▽社会民主党・護憲連合5▽たちあがれ日本2▽無所属7▽欠員1である。すなわち民主党と国民新党・日本による連立与党は参院選前の時点で既に過半数ぎりぎりに達しているのだ。
このうち、今回は選挙の洗礼を受けない非改選組の議席数は、民主党・新緑風会・国民新・日本66▽自民33▽公明10▽共産3▽新党改革1▽社民党・護憲連合2▽たちあがれ日本1▽無所属5である。欠員の1は若林正俊元農水相の議員辞職で生じたもので、参院選後の補欠選で選出される。
▽みんなの党を警戒か
焦点の民主党は非改選が62だから、今度の選挙で単独で「60」を獲得すれば、民主党だけで参院の過半数を確保できる。これこそ菅民主党への信認の基準となるラインのはずだが、菅首相はあえて「54プラスアルファ」という、かなり低目の目標を22日の9党首討論で掲げた。
一つには昨年衆院選前に旗揚げした「みんなの党」が他の少数政党の中でやや突出した支持率を得ていることから、仮に自民、公明両党が減らない場合、いまは参院ゼロの「みんな」が参院で新たに数議席を獲得し、その分、民主党や国民新党など与党が「へこむ」ことを計算に入れた議席目標なのかもしれない。
▽3月末までに民主党案
ここで、6月21日に行われた菅首相の首相官邸記者会見での消費税発言を振り返ってみよう。
「早期にこの問題(消費税引き上げ)について超党派で議論を始めたい。その場合に参考にすべきこととして自民党が提案している10%を一つの参考にしたいと申し上げた」
「そのこと自体は公約と受け止めていただいて結構だ。それを議論するという努力は、当然のこととして参院選後にはやってくる。じゃあ、それまで何もしないでいるのかということになれば、2010年度内(2011年3月末まで)には、この問題についての一つの考え方を、民主党としてまとめておきたい」
「ですから、何かこの選挙が終わったらすぐ消費税を引き上げるような、そういう間違ったメッセージがもし国民の皆さんに伝わっているのなら、それは全くの間違いだ。まず、参院選が終わった段階から本格的な議論をスタートさせたい。それを公約というなら、まさに公約と捉えていただいても結構だ」
「超党派の議論がどうなるか、さらに逆進性を緩和するためには、複数税率を入れようと思えばインボイスの準備が必要になる。還付という形をとろうと思えば、やはり番号の導入が必要になる」
「それを最終的に設計し、実現するまでにはやはり2年とか3年という時間が必要になる。よほど早くても、少なくともこれから2、3年、あるいはもう少しかかるのではないかと思っている」
▽与党過半数なら走り出す?
この記者会見が分かりにくいのは、菅首相が来年3月末までには民主党案をまとめる、といいながら、実現までに「少なくともこれから2、3年、あるいはもう少しかかる」と述べていることだ。これから「3年」かかるのなら、鳩山前首相が昨年9月の政権交代時から繰り返し述べてきた「消費税引き上げはこれから4年間はやらない」という発言と「時間的」にほとんど変わらない。
恐らく菅首相は「超党派の議論開始」と「10%の自民党案を参考にする」と一歩、踏み込みながらも、7月参院選で大きな傷を負うことを避けようとしている。
参院選で連立与党が過半数を確保できれば、「奇兵隊」首相はにわかに走り出しそうな気配である。(了)