2018年3月26日・月曜日。早朝の成田発済州島行きの大韓航空機で韓国に出立する。4泊5日。月曜の朝から金曜の夕刻まで、今週は最も近い異国を旅する。
日本平和委員会が企画した「韓国ピースツアー『4・3事件」から70年」。総勢24名の団体旅行。主な訪問地は、済州島、大邱・陜川(ハプチョン)・星州(ソンジュ)・古里(こり)、そして釜山。ソウルには行かない。名所旧跡・観光地にも近づかない。ショッピングもエンタテインメントも予定されていない。ひたすら、現地の戦争の爪痕を見て歩き、平和運動との交流だけが予定されている。
ということで、今週の月曜から金曜日までの5日間、憲法日記を書く暇はない。手許にパソコンもない。そこで、今日から5日間は、全て事前に書きためた「予定記事」の掲載である。
ある晩、親しい吉田博徳さんからお電話をいただいた。韓国へのツァーに参加しないかというお誘い。聞けば、2名一室での同宿相手がキャンセルになった。1人部屋では、せっかくの旅行が寂しくなる。同宿者として、ご一緒しないかというありがたいお誘い。これは、断れない。日程を調整して参加申込みをした。
吉田さんは、去年まで日朝協会都連会長の任にあった人。韓国訪問は、50回にも及ぶという。韓国語も達者だ。こんな便利な同宿者はほかにない。いろんなことを教えてもらえる。
吉田さんは、1921年4月28日生まれで、現在96才。もうすぐ97才になる。が、年齢を感じさせないその矍鑠ぶりは人間離れしている。身体も達者だし、好奇心が旺盛。昨年は、ロシア革命100周年の故地を尋ねる旅にお誘いを受けたが、日程調整できなかった。今度は、4泊5日の同宿で、長寿と元気の秘密を探る機会でもある。
私は、韓国訪問は2度目。前回は、日民協の韓国司法制度調査の旅だった。メインは、韓国憲法裁判所の訪問。気候と天候に恵まれた心地よい旅行だったが、このときも吉田さんとご一緒だった。
中国旅行は漢字の世界、漢字なら読める。しかし、まったく読めないハングルの世界は、勝手が違って戸惑うここと甚だしい。それでも、韓国の町と人々が作り出している雰囲気は、穏やかで好ましいものだった。
ところで、本日(3月26日)のテーマは、「日本占領下の済州島の歴史とゆかりの地訪問」。アルト飛行場跡(南京爆撃の際に使われた飛行場跡)、松岳山(旧日本軍の地下壕跡)、特攻艇「震洋」の格納庫跡、などを訪ねる。
まったく知らなかったが、済州島南部に辺野古同様の海軍基地建設が強行されており、激しい抵抗運動があるという。現地を見ての感想は、帰国後に書き綴ることとしよう。
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緊急声明 自民党改憲案の問題点と危険性
はじめに
昨日3月25日、自民党大会が開催され、憲法改正の基本的な方向性が確認された。もともと同党は、この大会で党としての改憲案をとりまとめ、今年中の改憲発議にはずみをつける思惑であった。ところが、財務省による森友学園への国有地売却にかかわる決裁文書の「改ざん」問題や、「働き方改革」法案における誤ったデータを根拠とした裁量労働制拡大部分の撤回、自民党議員が介入してなされた公立中学校での前川喜平氏の講演会に関する文部科学省の調査など、国民主権と議会制民主主義の根幹を揺るがす安倍政権の失態が相次ぐ中、確定案の策定までには至らなかった。しかし、昨日の自民党大会で明らかにされた改憲の基本的な方向性について、それらの問題点と危険性を指摘して世に問うことは、法律家としての使命であると考え、以下、表明する。
1.どれも現行規定を死文化させる9条改憲
自民党の「憲法に自衛隊を明記する」改憲案は、この間、①9条1項と2項を維持し「自衛隊」を明記、②9条1項と2項を維持し「自衛権」を明記、③2項を削除し「通常の軍隊」を保持の3案が検討されてきた。3月22日の同党憲法改正推進本部の全体会合では、具体的な条文案は①の方向で党大会後にとりまとめる方針となり、その作成は本部長に一任された。しかし、これらは、いずれも現行の9条2項を死文化させ、1項を変質させるものである。②がいう「自衛権」には集団的自衛権が当然に含まれる。③の「2項削除、軍隊保持」は現行9条を明示的に否定するものである。①の場合でも、「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な(自衛の)措置をとる」と憲法に明記される自衛隊は、今でも違憲性が疑われている安保法制による活動が合憲化されるばかりか、それを超える海外での武力行使さえも可能となる。こうして、9条2項は維持されても、「後法は前法に優る(を破る)」との法の一般原則に従って、9条の2により実質的に死文化する。
いずれの案を採用しても、安倍首相が言うような「自衛隊の任務・権限は変わらない」、「自衛隊違憲論争がなくなる」などということはありえず、むしろ現行9条の下では政府自体も否定している「集団的自衛権の全面的な行使」や「海外での武力行使」が可能となる。自民党の9条改憲案は、現行憲法とその下で制定された安保法制ではできないことを可能にするためのものにほかならず、このことを決してあいまいにしてはならない。
2.いつでも武力攻撃時に適用可能な緊急事態条項
自民党の「緊急事態条項」に関する改憲案は、「大地震その他の異常かつ大規模な災害」の際の内閣による政令制定権(非常事態権限)と国会議員の任期延長について定めている。しかし、大地震などの自然災害に対応するための措置権限であれば、すでに災害対策基本法や大規模地震対策特別措置法などによって規定されており、憲法で、内閣に立法権を委ねることなどあってはならない。
また、この「緊急事態条項」は、自然災害にとどまらず、軍事的な緊急事態における内閣の権限拡大と人権の大幅な制限に適用される危険性がある。現に下位法たる「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」(国民保護法)では、武力攻撃によって生じた災害を「武力攻撃災害」と呼んでいる。自民党の改憲案における「その他の異常かつ大規模な災害」からこの「武力攻撃災害」が除外される保証は今のところ見当たらない。
3.選挙制度の基本原則を破壊する「合区解消」改憲案
自民党の憲法47条改正案では、参議院選挙での「合区」解消や、衆議院選挙での小選挙区間の「一票の価値の平等」の要件緩和が画策されている。しかし、これらは、憲法14条、44条に基づく「選挙権の平等」や、憲法43条が規定する衆参両院議員の「全国民の代表」性という、国民主権の下での選挙制度における基本原則を著しく損なうものである。
これらの原則に則りながら、国会議員と有権者との間の近接性の確保や選挙区割における行政区画や地域的な一体性に配慮することは、議員の総定数の見直しや選挙制度の抜本的な改革によって可能なはずであり、それは憲法改正ではなく法律改正で実現できる。以上の理由から、自民党の47条改憲案は、憲法の基本原則に背馳するとともに、かつ法律改正で可能なことを無理に憲法改正事項とするものである。
4.教育の充実につながらない26条改憲案
もともと「高等教育を含む教育の無償化」という謳い文句で提起された26条改憲案は、いつのまにか「教育環境の整備」に向けた国の努力義務規定に変質した。「高等教育を含む教育の無償化」それ自体は、国際人権A規約を批准した際に13条2Cにつけた留保を撤回した今では、国会と内閣がその気にさえなれば、憲法改正によらずとも法律や予算措置で可能であり、そのような施策の実現を強く望む。
他方、今回の自民党の26条改憲案では、教育が「国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものである」と規定することで、国民の教育を受ける権利を定めた現行26条に対して、国家の教育権限を強調するものとなっている。前述の学校主催の講演会に対する文科省の調査などに鑑みて、自民党の改憲案は、教育に対する政治介入、国家統制の拡大を招く危険性があり、かつそれを意図したものと読まざるを得ない。
結語
以上、今回の自民党大会を通して明らかになった同党の改憲の基本的な方向性は、いずれもが、改憲の必要性・合理性を欠くうえに、日本国憲法の平和主義、国民主権、議会制民主主義、基本的人権の尊重などの基本原理を変質させ、破壊する性格の強いものである。こうした改憲案が現実のものになれば、「現在及び将来の国民に対し」て「信託」された日本国憲法の基本的な価値は大きく損なわれる。そのような改憲を断じて許してはならない。
私たち法律家6団体は、これらの案が基となる改憲発議を許さないための大きな国民世論を「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」が提起する3000万人署名の早期達成によって作り上げること、そのために全力を尽くすことを、現在及び将来の国民に対する法律家の責任として、ここに声明する。
2018年3月26日
改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター 共同代表理事 宮里 邦雄
自 由 法 曹 団 団 長 船尾 徹
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議 長 北村 栄
日本国際法律家協会 会 長 大熊 政一
日本反核法律家協会 会 長 佐々木猛也
日本民主法律家協会 理 事 長 右崎 正博
(2018年3月26日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2018.3.26より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=10117
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion7512:180327〕