鳩山由紀夫首相が2日午前、退陣を表明した。実力者の小沢一郎民主党幹事長も同時に辞任した。後継首相には菅直人副総理兼財務相がいち早く意欲を示しており、後継者は4日に開かれる同党両院議員総会で新代表に選出され、衆院本会議で内閣総理大臣に指名される。
参院選は6月24日公示―7月11日投開票のスケジュールで実施される見通しだ。与党民主党にとって、もたもたと時間をかけて後継代表―首相を選んでいる余裕は許されず、鳩山首相の退陣表明のわずか2日後に後継選びが行なわれる急ピッチの展開となった。
鳩山首相が退陣を表明しても、政治とカネ問題で世論の辞任要求を突きつけられている小沢一郎幹事長が留任したのでは、民主党政権への支持は到底回復しない。このため、一連の退陣表明に至る調整の過程で、鳩山首相が小沢幹事長に辞任要求を突きつけた。そのいきさつを鳩山首相自身が退陣表明した両院議員総会で「暴露」した。
後継候補としていち早く行動を開始した菅直人副総理兼財務相は、鳩山氏とのコンビで民主党を立ち上げ、同時に自由党を率いていた小沢氏と民自合併工作をした間柄である。仮に菅氏が後継代表―首相に選ばれても幹事長人事の顔触れによっては、またしても新首相が背後から小沢前幹事長に操られる印象を与えかねない。
▽刺し違えを首相が再現
鳩山首相の退陣表明の究極の原因は、政治とカネ問題と、沖縄・普天間飛行場の移設問題で、社民党の連立離脱と沖縄県民の強い反発を招いたことだ。それが内閣支持率を発足からわずか8ヶ月余で、当初の70%台から19・1%にまで引き下げ、参院選を戦っている最中の参院民主党改選組や新人から「鳩山首相のままでは選挙にならない。民主党は惨敗確実だ」との悲鳴を噴出させた。そのいきさつは、鳩山首相自身が2日の退陣挨拶のなかで詳細に明らかにした。
さらに選挙戦を取り仕切る小沢幹事長からの圧力で政権の頂点から引き摺り下ろされたとの印象を与えることは鳩山首相には耐え難い。そこで「幹事長とのご相談で“私も引きます。しかし幹事長も恐縮ですが幹事長の職を引いていただきたい。そのことによってよりクリーンな民主党を作り上げることができる”と申し上げ、幹事長も分かったと言った」と自ら「刺し違え」のいきさつを、やり取りのセリフまで再現して明らかにした。
▽幹事長人事のバランス重要
菅直人副総理が2日後の両院議員総会までの間に、小沢氏の後任幹事長にだれを選ぶかも焦点となる。岡田克也外相や前原誠司国土交通相ら「非あるいは反小沢」閣僚らを菅氏が重用しなければ、菅氏の姿勢が最初から小沢氏側に「シフト」していると受け取られ、かえって民主党内の亀裂を深め、参院選あるいはその後の政権運営にとってマイナス要因となる。
▽枯れていない小沢氏
だが、小沢氏には検察当局の「不起訴処分」を勝ち取った自負があるうえ、わずか40日後に迫った参院選の立候補者擁立をはじめとする準備作業を自ら推進してきたとの自信も強烈だ。おまけに3年前の参院選と昨年8月30日の衆院選圧勝で、自らの周辺は150人を超える「小沢チルドレン」で埋め尽くしており、今回は辞任したとはいえ、小沢氏が「枯れた」心境にあるとは到底、思えない。
再三にわたる鳩山氏との秘密会談、さらに31日から1日にかけての国会内での鳩山氏と小沢、越石東参院議員会長らとの会談で、小沢氏は明らかに越石氏ら参院議員側に立ち、鳩山首相の辞任を説得したふしがある。これに対し、鳩山首相は「続投」の決意をなかなか変えず、協議は長引き、ようやく2日午前の退陣表明に漕ぎ着けた。
この間の小沢氏の不機嫌そのものの表情と定例記者会見の取り止めは、小沢氏がなお、党内の実力者として留まる執念を感じさせた。だからこそ、ついに退陣の腹を固めて表明した鳩山首相は、小沢氏との刺し違え辞任のいきさつを暴露したのだろう。
▽新政権は野党攻勢に直面
ともあれ、4日の民主党両院議員総会と衆院本会議での後継首相指名選挙まで、民主党のツートップ(鳩山―小沢)が辞めたからといって国会会期末(16日まで)が順調に推移するとの見通しは乏しい。民主党にとって参院選は死活的に重要で、だからこそツートップは心ならずも辞任したのだが、自民党はじめ野党にとっても後には引けない勝負どころである。
郵政民営化改正法案はじめ大量に積み残された重要法案をどうするのか、野党側が準備中の内閣不信任決議案と問責決議案(参院)をどうするのか、など重大な会期末の決断材料が残る。首相が交代したからこれらを棚上げする、などという選択を、参院選の決戦を目前に自民党などが取るのだろうか。
▽米側は待たない
さらに、「8月末までの決着」を明記した普天間移設先(辺野古)の工法などについて、日本の首相が交代したからといって米側は待ってくれるのだろうか。逆に鳩山首相が投げ出した約束の履行を、後継政権により強く迫る可能性があるのではなかろうか。
後継政権の担当者は鳩山首相よりも重い課題を負わされるのではないか。
鳩山首相は2日の退陣挨拶の冒頭で「国民の皆さん、昨年の暑い夏の戦い、その結果、日本の政治の歴史は大きく変わった。国民の皆さんの判断は決して間違っていなかった。私は確信している」と熱っぽく切り出した。政権交代の評価が定まるのはむしろこれからである。(了)