「(第18回)福島県民健康調査検討委員会」記事について

(「第17回「福島県民健康調査検討委員会」結果について(2015年2月12日)」より)

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まず,津田敏秀岡山大学大学院教授(疫学・公衆衛生学)が今月号の岩波月刊誌『科学』(2015年2月)に掲載した論文「2014年12月25日福島県「県民健康調査」検討委員会発表の甲状腺ガンデータの分析結果」の最初の一部分を引用する。

 

「「先行検査」という呼び方は,甲状腺ガンが特に多発していない状況での超音波検診による甲状腺ガンの有病割合を知るという意味が込められているようである。しかしこれまで本誌において指摘してきたように,福島県内で2002(平成14)年4月2日から2011(平成23)年4月1日までに生まれた住民における甲状腺ガンの著しい多発に関しては, もはや疑いようがない。したがって,多発がないことを前提にして「ベースライン」レベルの検診有病割合を知るという意味が込められた,この「先行検査」という呼び方は必ずしも適切なものとはいえない。前回も指摘したように,アメリカ疾病管理予防センター(CDC)は,甲状腺ガンの最短潜伏期間は2.5年と述べ,子どもの場合は,アメリカ科学アカデミー(NAS)の文献にもとづいて最短潜伏期間は1年と述べている。さらにチェルノブイリ原発事故の1年後からの甲状腺ガン症例の統計的に有意な増加はベラルーシ側でもウクライナ側においても観察され,2年後3年後も累積されていた。したがって,この先行検査は,本来は本格検査I巡目と呼ぶべきであろう。」

 

まったく津田教授のおっしゃる通りである。「この「先行検査」という呼び方は必ずしも適切なものとはいえない」との津田教授の表現は,ずいぶん控え目であり,実際は,被ばく被害を小さく見せたい放射線ムラのいつものインチキ行為の一環だと言って差し支えないだろう。何故なら,過去において,広島・長崎の原爆投下後の被ばく被害者の調査で,当時の「原爆傷害調査委員会(ABCC)」(現「放射線影響研究所(RERF)」)が同じようなことをしているからだ(広島の爆心地より2.5km圏のその外側にいた住民を「原爆被害のなかったベースライン(標準)の住民」として扱い,爆心地住民をそれと比較することで,被ばく被害の度合い評価を(軽くなる方に)「底上げ」していた)。私たちは,放射線ムラの仕業に対しては,常に批判的な目を持たないと,必ずだまされてしまうと考えておいた方がいい。

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<2>「委員会は1巡目で見逃した可能性などを指摘し、放射線の影響に否定的な見解を示した」

 

(田中一郎コメント)

これが事実だというのなら、こんな書き方をしていていいのか。福島県立医科大学教授で、子どもたちの甲状腺検査の総責任者的な立場にある鈴木真一教授は、この件について、第1回目の検査に間違いがなかったかどうか、1件1件、映像を見ながら、検査にあたった全員で確認したが、見逃しなどは確認できなかった、1巡目の検査結果判定は間違いなかった、と記者会見で断言している。にもかかわらず、「福島県民健康調査検討委員会」が、このように説明するのであれば、①鈴木真一以下、福島県立医科大学の甲状腺検査担当医師たちは、この「過ち」の責任を取って、この検査から退場すべきであろうし、②そうではないというのなら、「福島県民健康調査検討委員会」が1巡目の検査医師の「判定ミス」をでっち上げてまでも、2巡目での甲状腺ガン発見の重大性を貶めようとしていることになるではないか。 いずれにせよ、ことは重大である。しかし、この記事を書いた共同通信の記者は(そしてこの記事を垂れ流した東京新聞は)、事の重大性を全く理解していないのではないか。新聞ジャーナリズムとして「恥」だと思っていただきたい。

 

<3>「検査対象は一巡回が事故当時十八歳以下の約三十七万人で、二巡回は事故後一年間に生まれた子どもを加えた約三十八万五千人」

 

(田中一郎コメント)

書かれていることは事実だが、こんなことでいいのか、と何故、疑問を呈しないのか。二巡回は「事故後一年間に生まれた子どもを加えた」ではなく「事故後生まれたすべての子どもを加えた」でなければいけないはずだ。何故なら、福島県は事故後猛烈な放射能汚染状況下にあり、事故後生まれた子供たちは、その放射線感受性が最も高い時期に、危険極まりない恒常的な低線量被曝(外部被曝・内部被曝)にさらされ続けてきているからだ。そして、甲状腺ガンの原因となるのは、放射性ヨウ素131による初期被ばくだけではなく、さまざまな放射性物質による恒常的な低線量被曝の積み重ねによっても発症する。放射性セシウムや放射性ストロンチウムだって危ないし、そもそも放射性ヨウ素には半減期の短い「131」だけでなく、半減期が1560万年もある「129」もあって、量は「131」ほどではないにしろ、福島第1原発事故で大量に環境にばら撒かれてしまったことは間違いない。しかし、そうした疑問や批判的観点は、この記事を書いた記者には、どうもなさそうである。この程度の問題意識も持たずに、福島第1原発事故に伴う放射線被曝関連の記事を書くな、取材もするな、と申し上げておきたい。