反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(代表委員、慶應義塾大学名誉教授・白井厚、ジャーナリスト・田畑光永の各氏ら)は12月3日 、今年度の第19回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。
基金運営委員会によると、基金賞の選考は、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、佐藤博昭(日本大学芸術学部映画学科講師)、清水浩之(映画祭コーディネーター)、高原孝生(明治学院大学教授)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、森田邦彦(翻訳家)、由井晶子(元沖縄タイムス編集局長)の7人によって行われ、候補作品74点(活字部門39点、映像部門35点)の中から次の8点を授賞作に選んだ。
◆基金賞=大賞(1点)
東京新聞憲法取材班の「憲法に関する一連の連載企画」
◆奨励賞(6点)
★朝日新聞オピニオン編集部、磯村健太郎・山口栄二両記者の「原発と裁判官 なぜ 司法は 『メルトダウン』を許したのか」(朝日新聞出版)
★沖縄タイムス社「基地で働く」取材班の連載「基地で働く 軍作業員の戦後」
★長崎放送の「静かな声」<2013・5・30放映>
★共同通信社記者、舟越美夏さんの「人はなぜ人を殺したのか」(毎日新聞社)
★フォトジャーナリスト、山本宗補さんの写真集「戦後はまだ…刻まれた加害と被害の記憶」(彩流社)
★労働者と市民のためのメディア「レイバーネットTV」
◆特別賞・持続する志賞(1点)
熊本日日新聞社のキャンペーン「水俣病は終わっていない」
基金運営委によると、今年度は候補作品が前年度より5点多く、しかも、大作や力作が多かった。ただ、今年度はフリーのライターとか写真家といった個人で活動している人の作品よりも、新聞社とかテレビ局といった企業内で働くジャーナリストやディレクターの作品に優れたものが多く、審査委員からは「社会がますます複雑化し、災害も大規模化してきたため、取材・報道に組織力が求められる時代になったということだろうか」との感想が述べられた。
大賞にあたる基金賞には、東京新聞憲法取材班の「憲法に関する一連の連載企画」が全員一致で選ばれた。
2012年暮れに発足した安倍政権は、日本国憲法改定に意欲を燃やし、そのための準備を着々と進めている。新聞の中には、これに強い危機感を覚え、改定反対のキャンペーンを始めたところが出始めまたが、中でも東京新聞のキャンペーンが目立つ。とくに今年に入ってからの「検証・自民党改憲草案――その先に見えるもの」「憲法と、」といった連続的な連載が審査委員の関心を呼んだ。そして、審査委員からは「これらの連載をみると、東京新聞がいかに頑張っているがよく分かる」「とにかく圧倒された」「紙面にみなぎる熱気に感銘を受けた」「他紙をやめて東京新聞を購読しようかと思った」といった賛辞が相次いだ。
奨励賞には6点が選ばれた。活字部門で4点、映像部門で2点という内訳だった。
まず、活字部門だが、朝日新聞オピニオン編集部、磯村健太郎・山口栄二両記者の「原発と裁判官 なぜ司法は『メルトダウン』を許したのか」は、これまで原発訴訟を担当してきた裁判官にインタビューし、司法が原発にどうかかわってきたかを明らかにしたもの。裁判官は、これまで自らが担当した原発訴訟を語ることはほとんどなかった。それだけに、選考委員会では「ガードの堅い裁判官に語らせようとした両記者の執念は特筆に値する」「現在行われている原発訴訟の裁判官、原告、弁護士に多くの示唆を与える内容だ」と評価された。
沖縄タイムス社「基地で働く」取材班の連載「基地で働く 軍作業員の戦後」は、米軍基地で働いてきた人たちに、その経験を語らせた重量感ある企画。基地での労働を通じて沖縄の人たちが米軍から受けてきた差別や人権侵害、基地労働がもたらす危険が余すところなく明らかにされており、選考委では「沖縄戦後史の空白を埋める貴重な証言集」とされた。
共同通信社記者、舟越美夏さんの「人はなぜ人を殺したのか」は、著者が2001年から02年までカンボジアのプノンペン支局に勤務した際、ポル・ポト派元幹部のほとんどに会い、インタビューした記録である。ボル・ポトを除く最高幹部への長時間インタビューに成功した外国人記者は他にはいない、とされており、舟越さんはインタビューを通じて彼等になぜあれほどの大虐殺を行ったかを鋭く迫っている。読後感はまことに重く、読者は、戦争とは何か、大国と小国の関係といった問題について深く考えさせられる。選考委では「取材力と表現力に優れており、大賞にふさわしい」という意見があった。
フォトジャーナリスト、山本宗補さんの写真集「戦後はまだ…刻まれた加害と被害の記憶」は、8年の歳月をかけて取材した、国内外の戦争体験者70人の肖像写真と証言を収録したもの。原爆被爆者、シベリア抑留者、戦争孤児、中国残留婦人、特攻隊員、抗日ゲリラ、従軍慰安婦、BC級戦犯……。その証言は生々しく、選考委では「敗戦から68年を迎えたが、戦争はまだ終わっていないという思いを強くする」「写真に訴える力がある」「戦争の記憶が薄れつつある今、こうした記録は極めて貴重」とされた。
熊本日日新聞社のキャンペーン「水俣病は終わっていない」には特別賞の「持続する志賞」が贈られることになった。「公害の原点」とされる水俣病が公式に確認されてから57年が経過したが、その被害の全容はまだ明らかにされず、今なお救済されない被害者が多数いるとされる。同社は、キャンペーンを通じてこうしたことを訴え続けており、選考委は「地元紙として長期にわたって水俣病問題を粘り強くフォローし続けていることに敬意を表したい」「地元住民の視点で問題を見ているのも称賛に値する」と評価した。
映像部門では、政治や経済などさまざまな面で日本の「空気」が大きく変わり、前途多難が予想される時代になったことを踏まえて、これから「求められる」であろう映像表現を予感させた2作が奨励賞に選ばれた。
まず、長崎放送制作のドキュメンタリー「静かな声」(ディレクター・岩本彩さん)は、長年、被爆体験の語り部を務めてきた松添博さんを主人公に、戦争当時の記憶を次の世代にどう継承できるかを改めて考えさせる秀作とされた。80歳を過ぎた松添さんは咽頭がんのため声を失った後も人工咽頭を使って子どもたちに語り続けようと、懸命に発声練習を続ける。その姿を、松添さんの孫の世代にあたる作者が静かに見つめ、やがて伴走するかのように「68年後の世界」を映像で発見していく展開が見事、とされた。
「レイバーネットTV」(製作・レイバーネットTV)は、労働者と市民のためのテレビ番組だ。2010年5月にスタート、毎月2回の生放送。各回の特集コーナーではゲストを招き、労働問題をはじめ政治、経済、外交、教育など、幅広いテーマで討論を行っている。既存のテレビ局では奥歯にモノのはさまったようなコメントしかしない話題を、あえて積極的に討論してゆく面白さが評価された。選考委では、今後、視聴者が増え、番組内容もさらに充実すれば、テレビ局にも刺激を与える存在になるのでは、と期待する声があった。
女性ライターに贈られる荒井なみ子賞は該当作がなく、本年も見送りとなった。
賞贈呈式は12月14日(土)午後1時から、東京都新宿区の日本青年館301会議室(JR中央・総武線千駄ヶ谷駅、地下鉄銀座線外苑前駅、都営地下鉄国立競技場駅下車)で行われる。基金運営委によると、だれでも参加でき、参加費は3000円。
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