ヘーゲル「法権利の哲学」・国家論の章については、市民社会論に比して左翼やリベラル派の関心は概して高くはない。自らの思想の歩みを顧るとき、その原因は我々の関心の持ちようが、「国家の死滅」や「商品経済の廃棄」の方に強く傾いていたところに求められるように思う。「国家の死滅」や「商品経済の廃棄」が当代の課題として意識されすぎると、国家と市民社会との関係や国家構造の漸進的変革について論じるのは迂遠なこととみなされてしまう。しかし歴史的なパースペクティブから言えば、「国家の死滅」や「商品経済の廃棄」といった課題は、数百年、いや千年単位のタイムスパンで考えるべきことのように思われる。それをあたかも当代の喫緊の課題として掲げれば、ウルトララジカルなユートピア思想の罠にはまり込むことになるのではないか。ルカーチらの西欧マルク主義によって問題提起され、広松渉によって理論的な完成をみたといってよい「物象化論」――1970年前後のわれわれの世代にとって、それはそれは超魅惑的なものに映じた――の、隠されたユートピア的急進性について、こんにち再考察の必要があるのではなかろうか。裏返していえば、商品経済のもつ歴史的強靭性と合理性<希少資源の最適な分配のメカニズムとしての市場制度>に対して,心して取り掛かる必要があるということである。
宇沢弘文のコンセプトを借りれば、歴史の流れは、市場経済が社会的共通資本の非市場的領域を包摂し搾取する関係から、社会的共通資本の社会による共同管理のもとに市場経済を従属させ包摂する関係への漸進的転換ということになる。そこでは国家の死滅ではなく国家の改造が問題であり、それは同時に国家―市民社会の関係が支配-従属関係ではなく、国家の領域が徐々に市民社会の自己管理機能に組み込まれていく関係として構想されるであろう。
いずれにせよ、今日の国家の在り方を省察するに際し、個々の命題の当否を超えてヘーゲルの国家についての強靭な思索から学ぶべきことは多いいであろう。
記
1. テーマ:ヘーゲルの市民社会論
中央公論社「世界の名著」の「ヘーゲル・法の哲学」から
第三章 国家(§257~§360)を講読会形式で行ないます。今回は§261からです。
★国内では数少ないヘーゲル「法(権利)の哲学」の専門家であり、法政大学などで教鞭をとられた滝口清栄氏がチューターを務めます。
1. とき:2024年10月26日(土)午後1時半より
1. ところ:文京区立「本郷会館」Aルーム
――地下鉄丸ノ内線 本郷三丁目駅下車5分 文京区本郷2-21-7 Tel:3817-6618
1.参加費:500円
1. 連絡先:野上俊明 E-mail:12nogami@gmail.com Tel:080-4082-7550
参加ご希望の方は、必ずご連絡ください。
※研究会終了後、近くの中華料理店で懇親会を持ちます