2022年度当初予算が3月22日に成立した。一般会計の歳出規模は過去最大の107兆円超、それでいてほとんど論戦らしい論戦もないままに戦後4番目の速さでの成立となった。野党第1党の立憲民主党が予算追及のイニシアチィブを取れず、しかも「盟友」の国民民主党が賛成に回ったからだ。毎日新聞(3月23日)は、「自民に近づく国民民主、もはや野党とは言えない」とする社説を掲げた。論旨は以下のようなものだ。
(1)国民民主は立憲民主と同様に旧民主党を源流に持つ。自民に代わり政権を担える2大政党制を目指してきたはずだ。昨年の衆院選は一部選挙区で他の野党と候補者調整を行い、野党陣営の一角だった。それが半年も経たずに与党に接近するのは、投票した有権者への裏切りではないか。政権に全面的に協力しながら、野党を名乗るのは理解できない。
(2)国民民主は衆院に続き、参院でも新年度当初予算に賛成した。当初予算は全ての施策の裏付けとなるのだから、賛成票を投じることは政権運営全体を認めたに等しい。また、政策協議という形で事前審査に加わることは国会審議の形骸化に手を貸すことになり、政権監視という野党の役割を果たせない。もはや閣外からの協力に舵を切ったと言うほかない。
(3)自民が国民民主との協議に応じる背景に、今夏の参院選に向けて野党を分断する狙いがあるのは明白だ。玉木代表は「我々は明確に野党だ」と繰り返すが、実際の行動はその言葉からかけ離れている。
(4)参院選は32の1人区が全体の勝敗を左右する。野党が候補者を一本化し、自民と1対1の構図をつくることが重要だ。国民民主の姿勢が変わらないのであれば、立憲は関係を見直すべきであろう。
明確な論説だ。当然、泉代表をはじめ立憲幹部もこのような批判が寄せられていることは百も承知だろう。それでいて、泉代表は明確な立場をいっこうに表明しない。朝日新聞(3月23日)は、その背景を次のように解説する。
――2ケ月間の予算審議は与党ペースで進んだ。政権を追い込むどころか、衆院採決で賛成に回った国民民主党が与党と政策協議も始め、野党の分裂ばかりが際立つことになった。(略)ただ、予算案に賛成した国民民主を批判し、夏の参院選での連携見直しにも言及してきた立憲の泉健太代表はこの日、公の場でのあいさつで国民民主について一切触れなかった。
――泉氏は21日の報道陣の取材に「国民民主は繰り返し『自分たちは野党である』と述べている」と態度を軟化させた。国民民主との参院選1人区での候補者一本化について「実現に全力を尽くしたい」と語り、協力を継続する意向を示した。「国民民主とは協力しないといけないところもある。どちらにもできるようにということ」。立憲執行部の一人は、態度が軟化した背景を解説する。
その一方で泉立憲代表は3月18日、共産、れいわ、社民の3党首と国会内で個別に会談し、参院選1人区での候補者調整を申し入れている。ただし、この日の記者会見で、市民連合を介した共通政策合意について問われた泉氏は、「共通政策を作るかどうかは両方の考えがあるという状況で進めていく」と明言を避けた。こうした状況を踏まえのか、志位共産党委員長はこれまで主張してきた共通政策や政権枠組み合意についての話題は避けたという(朝日3月19日)。これではまるで、「キツネとタヌキのだまし合い」のような会談ではないか。
片や芳野友子連合会長の方は、相変わらず「進軍ラッパ」を吹き続けている。毎日新聞のインタビュー(3月15日)では言いたい放題で、「前会長の神津里季生氏と同じことしか言っていない。そもそも連合の労働運動は、自由で民主的な労働運動を強化、拡大していくということから始まっている。その点で共産とは考え方が違い、相いれない。共産と共闘するかしないかは政党が判断すべきことであるが、共産と共闘する候補については推薦できない、あるいは支援できないということもあり得る。連合本部としては『共産との共闘はできない』ことは譲れない一線だ」と意気軒昂だ。また、与党と連合との関係については、「連合はこれまでも、共産を除く主要政党との間で政策・制度に関する意見交換や要請を行っている。政策を実現するためには、自民党、公明党を含め、政党に協力を求めることは当然だ。神津前会長と同様、私も是々非々でやっていく」と公言している。
「政策を実現する」ためか、芳野会長は3月16日夜、麻生自民党副総裁の招きで日教組出身の清水事務局長とともに会食の席に連なり、「今後の連携」について意見交換したという(産経3月17日)。こんな振る舞いは連合内部での批判を受けないのだろうか。日教組出身の事務局長までが同席しているのだから「構わない」というのだろうか。志位共産党委員長もまた、これまで「連合にもいろいろある」として連合への批判は一切口にしていないが、自民最高幹部と酒席をともにするような会長と事務局長が率いる連合に不信を抱かないのであろうか。
参院選を3か月後に控えて、野党共闘の雰囲気はいっこうに盛り上がらない。おそらく立憲民主は、国民民主との手を切ることなくこのままズルズルと関係を続けていくのだろう。〝連合の将棋のコマ〟と化した泉代表に国民民主との関係を清算する決断を求めるのは、「森に入って魚を求める」のと同じことだ。その一方、内閣支持率はウクライナ情勢の影響を受けて上昇傾向にある。このままでいけば、「政策協定もアイマイ」「政権協力もアイマイ」で「アイマイづくし」の野党共闘は、有権者から見捨てられること確実だろう。誰もが馴れ合う野党共闘なんて存在しない。筋を通さない政党が必ず消えていくように、野党共闘もいまその岐路に立っている。(つづく)
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