私は、「瑞穂の國記念小學院」なるもの開校が頓挫してほんとうによかったと思っている。その理由の一つは、この学校の教育理念の反〈日本国憲法〉性である。親〈大日本帝国憲法〉性と言っても同じこと。国家主義であり、天皇中心主義であり、滅私奉公の時代錯誤も甚だしい。
もう一つの理由が、この学校がアベ晋三という薄汚い政治家との縁によって開校寸前まで漕ぎつけていたことである。一時期「安倍晋三記念小学校」の名称で寄付を募っていただけでなく、認可申請先の大阪府(私学課)にも、この校名での説明を行っていたことが明らかになっている。アベの妻が、開校予定学校の名誉校長となっていたことも、天下周知の醜悪な事実だ。
この二つの理由は、実は緊密に結びついている。アベ晋三という権力者が、日本国憲法が大嫌いなのだ。アベに取り入ろうとすれば、右翼でなくてはならない。極右であればなおさらよい。だから、教育勅語による教育を標榜する恐るべきアナクロ小学校が、アベが関与していると思わせるだけで、開校寸前にまで至ったのだ。違法に違法を重ねてのこと。カミカゼは、吹くべくして吹いたのだ。
とはいえ、森友学園の願望は潰えた。本当によかった。アベ晋三と組んでも碌なことにはならないという見本。これが大切な教訓なのだ。ところが、加計学園の野望は成功しつつある(ように見える)。岡山理大・獣医学部は今年(2018年)4月に開校した。これはよくない。アベと親しいと思わせるだけで無理が通る、事業もうまく行く。こんな成功体験を野放しにしていてはならない。「やっぱり、権力とつるむようなところに擦り寄ったらアカン」「安倍晋三なんか当てにしたら、たいへんなことになる」ことの実証が大切なのだ。
昨年(2017年)の12月のこと、刑法研究者を中心としたある会合で、1人の参加者がスピーチに立った。「実は私、今話題の岡山理科大学の教員です」。この自己紹介に、会場がどっと沸いた。沸き方が、何とも名状しがたい雰囲気だった。縁のあるべくもない別世界の異人種が突然この世に現れた、とでもいうような。
ところが、その人の発言は、実に真っ当で、とても立派なものだった。それがまた、聴衆の意外感を掻きたてた。あの加計孝太郎の学園に、あのアベの親友といういかがわしい理事長の学園に、これはまたどうしてこんな真っ当な人がいることができるのだろうか、という共通の印象であったろう。
加計学園、岡山理科大学。いずれも、「あの」「例の」「ほら、アベ首相と関係の」という冠詞抜きでは語られない運命が刻印されたと言わざるをえない。とりわけ、今治の獣医学部新入生186名だ。生涯、「あの」「例の」「ほら、アベ首相と関係の」「アベさんが、『いいね』と言ってできた」学校を出たことがついてまわる。そのことは覚悟しなければならない。18歳は大人だ。自分の選択の結果は、自分で引き受けるしかない。
もちろん、この学校が新入生諸君の卒業までもつかは保証の限りではない。愛媛県も今治市も、こんな学校に補助金を出し続けることができるだろうか。
話題となった愛媛県文書の中の2015年2月25日アベ晋三と加計孝太郎との面談記録。ここから、アベの息がかかった獣医学部建設計画として歯車が動き出す。アベと加計には、この面談記録はまずい。「当時の担当者が実際にはなかった総理と理事長の面会を引き合いに出し、県と市に誤った情報を与えてしまった」としたうえで、加計学園の事務局長渡辺良人が、「自分がウソをついた」と名乗り出て揉み消そうとした。しかし、どうやらこの弁明が嘘だとばれつつある。愛媛県民も今治市民も、こんな学校に補助金を出し続けることを納得できるはずがない。
獣医学部の新入生諸君は、さぞや肩身の狭い不安な思いをしているのだろうと思いきや、どうもそうでもないらしい。学生の声を伝える「女性自身」からの引用記事がネットに紹介されている。
「不満なんてないですね。校舎は新しいし、学食もおいしい。サークル活動も、すべてイチからのスタートです。『こんなサークルを作ろうよ』など、みんなの意見が活発に飛び交っていますよ」
「大学の外で起こっていることは、私たちにはどうしようもありません。ここに入った以上、私たちにできることは勉強することだけ。だから『国家試験に合格して、世間を見返してやろう』と、みんなで言っていたところです」
「みんな『ほかに合格できなかったから、この大学に入ったんだろう』と思っているみたいですが、それは違います。僕たちはみな、獣医になりたくてあえて県外からここにやってきたんです。だから不安なんてありません。もちろん大学が廃校になるというなら、また話は別ですが……」
教育をビジネスとしてきた人物が、薄汚い政治家と結託して、公正であるべき行政を枉げて作り出した獣医学部だ。学生諸君には、その自覚が必要ではないか。その自覚があってなお、こんな脳天気なことが言っておられるだろうか。
(2018年6月14日・連続更新1901日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2018.6.14より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=10521
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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