みなさま、原発の安全性に関して、また驚くべきことが発覚いたしました。事の発端はフランスの原発での発覚です。福島第1原発事故を契機にフランスの原発・原子力規制当局(原子力安全局:ASN)のスタンスが厳しくなり、従来の規制基準を見直して厳格化している中で、フランス国内にある原発(全部で58基)の原子炉圧力容器や原発部品(=蒸気発生器や加圧機などの重要機器類)に「炭素偏析」による強度不足があることが発覚しました。フランスでは稼働中の原発を停止させて調査・検査・点検が開始され、その結果、電力料金が上がるなど、原発・原子力王国のフランス国内はもちろん、フランス電力の輸出先であるヨーロッパ全域で大きな問題となっています。
「炭素偏析」による強度不足とは、原発や核施設を形作る金属素材である鉄鋼に含まれる「炭素:元素記号C」に偏りが生じ、炭素含有量の多い部分が脆くなって、温度の急激な変化などに対して強度不足になってしまっている状態のことを言います。この現象は、原子炉圧力容器を含む原発機器類を「鍛造」という方法と「鋳造」という方法の2つの方法で製造する際に必然的に伴う現象で、特に原発や核施設の場合には、これに核反応に伴う「中性子照射」による脆化(中性子線を浴び続けると金属が脆くなっていき強度不足が生じること)も加わって、その危険性が増していくのです。
(*)「鍛造」と「鋳造」(ウィキペディアより)
- 「鍛造」:金属をハンマー等で叩いて圧力を加える方法でつくる。古くから刃物や武具、金物などの製造技法として用いられてきた。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8D%9B%E9%80%A0
- 「鋳造」:材料の鉄などを融点よりも高い温度で熱して液体にしたあと、型に流し込み、冷やして目的の形状に固める加工方法
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8B%B3%E9%80%A0
これを放置しておくと、たとえば緊急時に原子炉を急激に冷却した際に、原子炉圧力容器や原発部品が、あたかもガラスのコップに熱湯を注いだ際にパリンと割れるがごとく壊れてしまうなどして、大変な事態に陥ってしまう危険性が高まります。事態を甘く見ることは絶対に許されないことです。金属製造・加工の現場では、この「鍛造」や「鋳造」に伴う「炭素偏析」に対処するため、例えば炭素が過剰に含まれる部分(金属の固まりの端っこの部分)を切り捨てるなどの方法で当該金属を出荷する際の「品質保証」を行っています。しかし、フランスの原発で発見された「炭素偏析」は、原発がつくられた当時のフランスや日本の金属素材メーカーの「品質保証」が十分ではなく、いわゆる不良品が多く紛れ込んでいたようです(フランスでは全部で58基の原発のうち18基に炭素異常を発見)。
これはゆゆしき事態です。発見されたフランスの原発の炭素偏析の疑いのある鉄鋼素材をつくっていたのが日本のメーカー(日本鋳鍛鋼、日本製鋼所、それにフランスへの出荷はありませんが日本ではJFEスチールもそうです)なのですから、日本の原発や核施設にも同様のことが起きている可能性は高いと言えるでしょう。既にフランスでは、この3社の日本メーカーのうち、日本鋳鍛鋼製造の鍛造品の「炭素偏析」がフランスの基準の約1.8倍にもなっているものも発見されています(トリカスタン1号機・3号機:「炭素偏析」0.39%、規制基準は0.22%)。
日本の原子力規制委員会・規制庁は、このフランスの事態を受け、原発を持つ電力各社に対して、原子炉や原発機器類の金属について、その強度不足がないかどうかを調査するよう指示を出しました。しかし問題は、その指示の出し方や強度不足の調査の仕方が、いかにもいい加減でずさん極まりなく、あたかも「炭素偏析」のある鉄鋼製品が日本の原発では「見つからないように」、あえて問題となる鉄鋼を「避けて通る」かのごとき「調査のやり方」をとり、お茶を濁してしまっているのです。そして、信じがたい話ですが、フランスでの厳格な調査結果が出る前に、日本では原子力規制委員会・規制庁が、早々と「日本の原発・核施設では素材鉄鋼に「炭素偏析」の可能性はない」などと、さしたる根拠もないままに決めつけてしまい、一件落着にしてしまっています。危険極まりない話です。
これまでも日本の原発・核施設の工学的安全性については、全体的な耐震強度のみならず、(1)圧力容器の脆性遷移温度の上昇による中性子照射脆化、(2)老朽化原発を中心に素材鉄鋼に含まれる不純物の銅(Copper)の過剰含有と脆弱性、(3)蒸気発生器や緊急炉心冷却装置(ECCS)の構造上の低耐震性問題、(4)応力腐食割れやUCC(*)などの経年化金属疲労問題、(5)定期点検の形骸化・手抜きによる原発・核施設部品の経年劣化の見逃しなど、多くの危険性が指摘されてきましたが、それらが原子力規制委員会・規制庁やその前の原子力安全委員会・原子力安全保安院によってきちんと対応されないまま、今日に至って、更にこの「炭素偏析」が大きな懸念事項の一つとして加わりました。そしてまたしても、日本の規制当局はこれを「矮小化」『隠ぺい」するかのごとき愚かな挙に出ているわけです。
(*)UCC(アンダー・クラッド・クラッキング)
原子炉圧力容器内部の金属表面になされているステンレスの「クラッド」(金属表面の被覆)の下にたくさんのひび割れ(クラッキング)が発見され大問題となっていること
日本の原子力規制委員会・規制庁が行った原発「炭素偏析」調査指示のおかしな点をいくつか挙げてみますと以下の通りです(全部ではありません)。こんなことでは絶対にダメです。危険極まりなしです。日本でもフランスと同様、ないしはそれ以上の規模・内容と厳格さで、全国のすべての原発・核施設の点検や検査を行う必要があります、特に現在稼働中の川内原発や伊方原発は直ちに稼働を停止して点検・検査に入る必要があります。
(1)日本の原発・核施設用の鉄鋼をつくるメーカーは3社あるのに、今回の調査では日本鋳鍛鋼製だけが注力され(フランスで不良品が発見されたのは日本鋳鍛鋼製のものだったというのがその理由=日本製鋼所製とJFEスチール製は軽視されている)、しかもその日本鋳鍛鋼製造の「鍛造品」だけを調査の対象にして、「鋳造品」については、そもそもの調査対象から外してしまっている。しかし、金属工学が専門の井野博満東京大学名誉教授によれば、「鋳造品」であっても熱伝導が悪い鋳型を使えば、冷え方がゆっくりで炭素偏析は起こる可能性がある、とのこと。つまり調査対象が確たる根拠もないままに最初から狭い範囲に限定され、不良品が見つかった場合の影響がアプリオリに根拠のないままに絞り込まれている。
(2)原発の各部品(特に上記で申し上げた重要機器類)の現物・実機を直接、検査で調べることなく、単純な書類審査だけでOKとしてしまっていること。しかも、その「書類」はメーカーである日本鋳鍛鋼が出してきたものをそのままノーチェックでパスさせたり(このこと自体が大問題=これでは「規制」にならない、何故疑ってかからないのか)、問題となっている該当部品の品質保証とは直接関係のない「書類」で「確認した」などとしている=たとえば川内原発2号機ではアメリカに出荷された同様の製品の品質保証書で確認するなどという信じがたいインチキが行われている。ちなみにフランスでは、表面炭素濃度測定、超音波検査、スパーク検査(以上、いずれも非破壊検査)に加え、交換用未使用の機器(蒸気発生器)を使って破壊検査も行われている(下記*)。日本でも、非破壊検査はもちろん、破壊検査についても廃炉にしたばかりの原発の機器を使えば可能であるにもかかわらず、原子力規制委員会・規制庁は各電力会社に実施を指示しないままOKにしてしまった。
(*)フランスで実施されている検査
*製造当時の生データのチェック
*外部表面の非破壊検査
*超音波検査
*計算による高速破壊分析
*レプリカを使用しての化学/機械検査
*実機/他機を使用しての化学/機械検査(スパーク検査)=未使用の交換用蒸気発生器などで
*レプリカを使用しての破壊検査
- 書類審査の4段階チェック(段階を上がるにつれて1つでも該当すればそれでOKという=こんなものでは「炭素偏析」の有無は確認できない)
*第一段階:炭素偏析部の除去を実施する要領があればOK(しかし、実際に十分な割合(%)の除去がなされたかどうかはわからない(下記*))
*第二段階 製造時の試験値が規格内であればOK(試験の仕方に問題があるのではないか)
*第三段階 モックアップ(模型)や比較で規格内であればOK(現物ではないから確定的なことは言えない)
*第四段階 予測式から規格内であればOK(この「予測式」なるものが極めて怪しく実証性に乏しい)
(*)鉄鋼製品を鍛造する場合、炭素偏析防止のため金属の固まりの両端をカットするが、それだけでは「完全防止」にはならず、その金属の「均質性」(全体にわたりまんべんなく炭素の偏りをなくす)は確保できない。また、両端カットの割合が(要領に書かれているものとは違い)実際にはどの程度だったのかも大問題である。つまり、現物を調べなければ確たることはわからないということ。
(3)日本の炭素偏析の規制基準は「0.25%」だが、玄海原発2号機では、原子炉の上蓋で「0.26%」である旨の報告がなされた。しかし、原子力規制委員会・規制庁は、これを上記「第四段階」の予測式で計算したら「0.20~0.30%の範囲内だ」などとして(つまり基準(JIS)の誤差として許容されている範囲内だということ)、これもOKにしてしまった。こういうことなら、上記の「第四段階」というのは「規制基準」というよりは「規制潜り抜け基準」とでもいうものではないか
(4)今回の一連の過程で、日本の原発・核施設機器類の素材鉄鋼に関する「炭素偏析」に関する規制基準が、じつは原子力規制委員会・規制庁が自身で安全確認をして決めたものではなく、「JIS規格」(日本工業規格)に丸投げされていること(甘い)、その結果、フランスの基準が「0.22%」を限度としているのに、日本のそれは「0.25%」と、フランスよりも甘くなってしまっていることが判明した。更に、JIS規格では、これに基準の数%の誤差許容があり、炭素偏析の甘さが際立ったものであることも分かった。原発・核施設の重要機器類であり、緊急時には絶対の強度信頼性がないといけないものを、一般の工業製品と同レベルの「JIS規格」にその「炭素偏析」による金属脆化の規制基準を丸投げすることは許されないことである。
- ウィキペディア:日本工業規格
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%B7%A5%E6%A5%AD%E8%A6%8F%E6%A0%BC
(5)フランスでは、稼働中の原発も停止させ、機器類の点検を厳重に開始している。しかし、日本では、上記で見たように、簡単な書類審査を形だけ行って、この件については「何の問題もなく終わり」にしてしまった。フランスでの全体の調査結果を待つこともなく、また、当然なされてしかるべき実際の原発機器類の現物の検査(非破壊検査と破壊検査)もなされないまま、まるで臭い物に蓋をするかのように「問題なし」とされてしまった。
(6)さらにフランスでは、こうした炭素偏析というゆゆしき状態が長い間見逃されていたことを重く見て、原発の構成金属に関する規制を見直す作業も並行して行われているという。しかし日本では、上記で申し上げた「JIS規格」への丸投げも含めて、規制基準を見直そうという動きは皆無である。こうした手抜き審査・矮小化対応の結果が悲惨な原発・核施設の過酷事故につながることは申し上げるまでもないことである。
なお、原子力規制委員会・規制庁の原発・核施設に対する安全規制の出鱈目については、先日お送りした私のメールにも書いて下記ブログにアップしておりますので、併せてご参考にしていただければ幸いです。
(関連)(報告)もっかい事故調オープンセミナー「つぎつぎに認められる“ゾンビ原発”の再稼働 -その危険な側面-」(原子力資料情報室主催 11/26) いちろうちゃんのブログ
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2016/12/post-ed58.html
また、この問題については、去る11月28日(月)に、原子力規制庁の役人及び技術系官僚を招いて市民団体(グリーンピース&「原子力規制を監視する市民の会」)主催の政府交渉・意見交換会が行われました。市民側からは、フランスでのこの問題に詳しいドイツの専門家=ショーン・バーニー氏や、金属工学の専門家の井野博満東京大学名誉教授(金属材料学)、沸騰水型原子炉の元エンジニアだった田中三彦氏らも参加し、規制庁を厳しく追及いたしましたが、結果はいつもの通り、言を左右にして自分たちのいい加減さ・矮小化行為を正当化しておりました。
- (イベント情報)原発部品の強度不足問題 院内集会&政府交渉(2016年11月28日)
http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/blog/staff/1128/blog/58105/
当日は、追い込まれた規制庁の役人が「原子力規制委員会・規制庁は、原発の技術的な「安全性」についてのみ(といっても、単に新規制基準への適合性だけを形式的にチェックしているだけ:田中一郎)、その審査を引き受けているのであって、国民の「安心」についてまで直接請け負うものではない」などと発言したため、集会に参加していた民進党の初鹿明博議員より「原発が安全であることは当たり前だ。福島第1原発事故のことを思えば、多くの国民が抱く原発への不安を解消すべく全力を挙げるべきが原子力規制委員会・規制庁の仕事であるべきなのに、何をふざけたことを言っているのか」と一喝されておりました。まさにその通りでしょう。
なお、下記には、一連の関連資料をご紹介しておきます。11/28の集会の当日配布資料に加え、その集会の様子はグリーンピースのサイトを、また、この問題の一連のことについては、まさのあつこさんのサイトがとても分かりやすいので参考にされてください。
<別添PDFファイル>
(1)(レジメ)原発部品の強度不足問題 院内集会&政府交渉(2016年11月28日)
https://chikyuza.net/wp-content/uploads/2016/12/8c3823744084e710dbcd4c911cd3bd49.pdf
(2)原発部品強度医不足問題:フランスで起きたこと(ショーン・バーニー 2016年11月28日)
https://chikyuza.net/wp-content/uploads/2016/12/1e1371e1bf56594ad343e8360753b347.pdf
(3)鋼材の炭素偏析の原因と強度低下(井野博満東京大学名誉教授 2016.11.22)
https://chikyuza.net/wp-content/uploads/2016/12/3f8a3e0f9b7a14c3d79fba553fd43bd5.pdf
(4)「強度不足」、揺れる仏原発、日本は本当に大丈夫なのか(東京 2016.11.17)
http://mnnnt.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-ca2a.html
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2016111702000139.html
(5)国内原発の強度「不足なし」、原子力規制委 鋼材の製造記録確認(朝日 2016.11.23)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12671590.html
(この朝日新聞記事は実にいい加減な記事だ。ちゃんと取材してちゃんと書け! この重大問題について、なぜ批判的な論者に意見をもとめないのか。フランスでは、原発推進体制を揺るがすくらいの大問題となっているのに、何だこの報道は!! (他の新聞は報道さえしていない!!):田中一郎)
<まさのあつこさんの迫真レポート>
(関連1)(必見)まさのあつこさん:日本製鋼材の強度不足でフランスの原発停止中! 日本の原子力規制委は何をすべきか?
http://bylines.news.yahoo.co.jp/masanoatsuko/20161116-00064483/
(関連2)(必見)まさのあつこさん:原子炉の強度不足問題:JIS規格任せ+調査対象の絞り込みで幕引きか?
http://bylines.news.yahoo.co.jp/masanoatsuko/20161118-00064556/
(関連3)(必見)まさのあつこさん:玄海原発2号原子炉は、規格外の疑いを残し、推定でパス
http://bylines.news.yahoo.co.jp/masanoatsuko/20161123-00064741/
<グリーンピース>
(11/28当日の記録)「いますぐ検査を」署名、継続します! 原発部品、強度不足問題 国際環境NGOグリーンピース
http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/blog/staff/blog/58138/
(2)(ネット署名)『強度不安の疑いのある川内原発・伊方原発、いますぐ検査を』(グリーンピース)
(3)2016-11-22 グリーンピース声明:規制委は強度不足問題を矮小化と批判ーー 日本の原発に「規格超える炭素濃度のおそれなし」との評価を受けて 国際環境NGOグリーンピース
http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/press/2016/pr20161122/
<関連サイト:内容の質は問わず=検索でヒットした一部です>
(1)[安全神話復活]原子炉鋼材の強度不足でフランスの原発が停止中! 一方、日本の規制委は幕引きか?
http://togetter.com/li/1050046
(2)原発に強度不足の鋼材使用の可能性 – 化学業界の話題
http://blog.knak.jp/2016/08/post-1739.html
(3)≪酷すぎ≫国内8原発13基に強度不足が浮上!圧力容器などの重要設備、川内原発や高浜原発等など! 赤かぶ
http://www.asyura2.com/16/genpatu46/msg/414.html
(4)「強度不足可能性」仏指摘の鋼材、国内8原発13基の原子炉容器で使用 10月までに調査報告 – 産経ニュース
http://www.sankei.com/affairs/news/160903/afr1609030005-n1.html
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- 国際環境NGOグリーンピース 国際環境NGOグリーンピース HP
http://www.greenpeace.org/japan/ja/
- 「原子力規制を監視する市民の会」HP
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion6398:161205〕