この「会食首相」ありてこの「接待長男」あり、総務省接待漬けの構造と背景

 2021年2月23日、各紙朝刊には総務省接待関連の大見出しが躍った。「接待 総務省11人処分へ」「東北新社側との会食 13人計39回」「長男関与、首相おわび」「『接待づけ』疑惑噴出」「総務省幹部ら『利害関係者と思わず』、口そろえ『利害誘導なかった』」「『長男の問題』距離置く首相」「抜擢の内閣広報官 1回で7.4万円」「ちらつく『首相の影』」「野党『長男 特別扱い』、総務省接待問題」「背景に衛星放送苦境」などなど。

 研究者仲間でもこの話題はホットニュースになった。菅首相の「ステーキ会食」などが相次いだ時もそうだったが、彼らが訪れる場所といい、食事のメニューといい、年金生活のオールドボーイたちにとっては「彼我の差」を感じることばかり、皆が「頭にくる!」と物凄く憤っていた。

 それにしても谷脇総務審議官の接待額は1回4万7千円、元総務審議官の山田内閣広報官に至っては何と7万4千円というのだから、一体どんな店で、どんな接待を受けていたのか想像もつかない。千円単位の割勘で付き合っている我々のような者にとっては「別世界」の出来事、取り立てて騒ぐこともない――と言ってしまえばそれまでのことだが、首相長男絡みの高級官僚接待問題だから無視するわけにはいかない。

 とりわけ、山田真貴子内閣広報官は菅内閣の「顔」だ。首相の記者会見を一手で取り仕切り、質問する記者の数の制限や割り当てはもとより、質問は「1回限り」と念押しして再質問は許さない、更なる質問の追及に対しては「次の日程がある」として強引に打ち切る...など、その辣腕には定評がある。記者会見でまともな見解を表明しない(できない)菅首相にとっては得難い人材であり、しかも女性初の内閣広報官とあってこれまでは矢面に立つことが少なかった。

 ところが、である。「7.4万円」という突出した高額の接待を受けた山田内閣広報官には、早くも「接待広報官」との別名が出回っている。利害関係者である菅首相長男らの7万円を超える接待は、「贈収賄事件の対象になる」との指摘も出ている。次の内閣記者会見に山田氏がどう臨むか見ものだが、おそらく首相よりも内閣広報官の方にスポットライトが当たるのではないか。菅首相にとっては由々しき事態であり、このまま放置できない状況になること間違いなしだ。

 各紙の報道によると、問題(事件)の構造と背景がくっきりと浮かび上がってくる。この間の経緯を振り返ると、2017年から2020年にかけての「東北新社」関連の放送事業の許認可にともなう接待は、中枢幹部だけでも少なくとも合計20回に上る(これからの調査でもっと増えるかもしれない)。しかし、接待官僚はすべて「菅長男が利害関係者と思わなかった」「長男らの接待を受け、放送事業について話をしたのは事実だが、利害誘導はなかった」と口を揃え、武田総務相に至っては、「内部調査をしたが、放送行政を歪めている事実は確認できなかった」と居直っている。

 だが、会食時の録音が暴露されるまでは「知らない」「存じない」「記憶にない」一点張りだった官僚たちが、菅首相長男自身が「自分の声」だと認めるに及んで、その後は一転して放送事業に関する話だと認めざるを得なくなった。それまでの国会答弁は明白な〝虚偽答弁〟であり、総務省の内部調査は口裏合わせの「身内調査」にすぎないことが明らかになってきたのである。以下、各紙報道から事実経過を記そう。

 (1)2006年9月、菅氏が総務相に就任、当時「プラプラ遊んでいた」無職の長男(25歳)を大臣秘書官に任命
 (2)2007年7月、長男は秘書官退官後、2008年に放送事業を手掛ける「東北新社」に(縁故)入社。同社は1961年、秋田県出身で菅首相と懇意の植村氏が創設。菅首相は同社から500万円の政治献金を受領、また常日頃から会食を共にする関係。
 (3)2017年1月、総務省が東北新社をBS4K放送事業者に認定。その前年2016年に吉田大臣官房審議官2回、秋本総合通信基盤局課長2回、計4回接待
 (4)2018年4月、総務省がCSの「囲碁・将棋チャンネル」をハイビジョン未対応で唯一、衛星基幹放送事業として認定。この間、2017年から2018年にかけて谷脇総合通信基盤局長1回、吉田大臣官房総括審議官1回、秋本総合通信基盤局課長・部長2回、計4回接待
 (5)2020年3月、総務省が東北新社子会社「スターチャンネル」の放送事項の変更を許可。この間、2019年から2020年半ばにかけて山田総務審議官1回、谷脇総合通信基盤局長・総務審議官2回、吉田情報流通行政局長・総務審議官1回、秋本電気通信事業部長・情報流通行政局長2回、湯本情報流通行政局課長2回、計8回接待
 (6)2020年3月、長男が東北新社子会社「囲碁・将棋チャンネル」の取締役に就任、東北新社エンタメ事業部統括部長を兼任
 (7)2020年11月、「スターチャンネル」のスロット(放送周波数の割り当て)縮小。その前後の2020年10月から12月にかけて谷脇総務審議官1回、吉田総務審議官1回、秋本情報流通行政局長1回、湯本大臣官房審議官1回、計4回接待

 こうした事態を受けて、総務省では関係者11人を国家公務員倫理規程違反で処分すると言うが、その大元の東北新社関係の方の調査は全く進んでいない。接待事件の主役、菅首相長男の事情聴取や国会陳述は日程に上っていない。全ては「これからの課題」であり、いつ消えてしまわないとも限らない。

 問題の構造は明白だ。許認可競争が激しい放送事業とりわけ衛星放送電波の確保をめぐる競争に勝ち残るためには、許認可権を持つ総務省にコネクションルートをつくり、そのパイプを通じて権益を確保する以外に方法がない。東北新社のような地方弱小事業者の場合は、資本力に乏しく実績もないのでとりわけ許認可申請が難しいとされる。だからこそ、そのことを十分承知の上で東北新社は菅首相長男をスカウトし、彼をロビー活動に起用することを意図したのだろう。

 「天領」といわれる総務省内での菅首相の権力は絶対だ。その息子を「ロビー活動=接待係」の担当にすれば、菅首相の意向を忖度して動く官僚たちを手玉に取ることはたやすい――と睨んだのである。長男は期待に応えて大活躍した。官僚のランクに応じて接待場所を選定し、彼・彼女らの自尊心や満足感を満たすことに腐心した。『週刊文春』の掲載写真のなかには、長男が官僚に向かって両手を合わせて頭を下げるシーンがある。官僚の方は手土産の袋をぶら下げ、タクシーチケットを手にしてご満悦の様子、見るも無残な光景ではないか。
 
 かって一世を風靡した〝官僚の矜持〟はいったい何処に行ってしまったのか、城山三郎氏がもし現代の官界を描くとすればいったいどんな官僚像を描くのか。誰でもいい、安倍長期政権の下で地に堕ちた〝官僚の矜持〟の行方を完膚無きままに暴いてほしい。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/

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