(2020年7月27日)
昨日(7月26日)の毎日新聞朝刊に、「中国『不動産王』、共産党党籍剥奪 指導部批判問題視か」の記事。その全文が次のとおり。
「中国共産党北京市西城区規律検査委員会は23日、「不動産王」として知られた任志強氏の党籍を剥奪した。中国各紙の電子版が24日、報じた。理由の一つとして「党の原則に反対する文章を公開で発表した」と指摘されており、新型コロナウイルス対策を巡り習近平指導部を批判したことが問題視された可能性がある。
香港紙などによると、中国国内では新型ウイルスの初期対応に関し、情報隠蔽などを批判する文章がインターネット上で出回り、任氏が友人に送った文章が流出したなどと報じられていた。」
政党の規律は、もとより私的自治の問題。党の判断が最大限尊重されることになる。しかし、中国共産党の党籍剥奪となれば、同列に論じることはできない。党が政権の上位に位置しているからだ。中国共産党員の党籍剥奪は、深刻な政治的社会的制裁となる。
「党の原則に反対する文章を公開で発表した」「新型コロナウイルス対策を巡り習近平指導部を批判した」ことが党籍剥奪の理由とすれば、中国に表現の自由は存在しないにも等しい。
しかも、24日夕刻の毎日新聞デジタルには、以下の記事が付け加えられていた。
「任氏は著名な企業家だったが、3月中旬に行方不明となり、同委員会が4月上旬に規律違反で調査中だと発表。新型コロナ対策を巡る言論統制強化を象徴する事件の一つとみられていた。任氏については収賄や職権乱用なども指摘されており、今後は検察による手続きに入る。」
まず「行方不明」が先行し、次いで「規律違反で調査中」となり、そして「党籍剥奪」となったわけだ。さらに、「今後は検察による刑事手続きに入る」ことになる。任志強は単なるビジネスマンではない。習近平批判で知られた政治家でもある。その舌鋒の鋭さで知られ歯に衣着せぬ発言から「任大砲」(大口叩きの任)とか、最近は「中国のトランプ」とも呼ばれてもいた物。
2016年2月、習近平総書記が、中国中央電視台、人民日報、新華社通信を視察した後、「党・政府が管轄するメディアは宣伝の陣地であり、党を代弁しなければならない」と、党への忠誠を命じたことがある。これに対して任は微博(中国版Twitter)上で「納税者が治めた税金を納税者に対するサービス提供以外に使うな」、「人民政府はいつの間に、党政府に変わったのだ? 人民政府が使うカネは党費なのか?」、「メディアが人民の利益を代表しなくなる時、人民は隅に捨てられ、忘れ去られる」などと疑問を呈して、以来国営メディアから非難の集中砲火を浴びているとされる。
彼の微博アカウントは3700万人以上のフォロワーを持ち、政権に批判的な内容を発信した。だが、2016年に政府の命令でアカウントは閉鎖されたという。
報道によると、今回党籍剥奪の根拠とされた任の「党の原則に反対する文章を発表」の内容は、中国当局が感染拡大の情報を隠蔽したと指摘したうえで、感染の抑え込みに成功したとして習氏が自らの権力を強めようとしているとの批判だとのこと。党の信用を貶める発言は、「党の原則に反」する規律違反というわけだ。
美根慶樹という元外交官がいる。香港総領事館や中国大使館にも勤務し、『習近平政権の言論統制』(蒼蒼社・2014年5月)という著書のある人。この人が、任志強について、こう語っているのが興味深い。(抜粋の引用元は、下記ブログ)
http://heiwagaikou-kenkyusho.jp/china/2515
中国では、共産党の一党独裁体制に面と向かって歯向かうことはもちろんできないが、可能な限り客観的に見ようとする人たちが、少数ではあるが存在している。具体的には、
①人権派の弁護士や学生などいわゆる民主派、
②政府の経済政策に批判的な学者・研究者、
③一部の新聞記者、
④少数民族の活動家、
⑤特定のグループに属さず、いわば一匹狼的に活動している人、
などに大別できるだろう。任志強は⑤のタイプの人物である。任志強は不動産売買で巨万の富を築いた後、もっぱら「微博」〔中国版ツィッター〕を通して共産党の在り方に批判的な発言を続けた。
任志強は多くの支持者を集め、フォロワー数が3700万に達して社会に大きな影響力を持つようになった。当然当局からは要注意人物とみられていたが、蔡霞中共中央党校教授などは、任志強は「意見発表の権利を持つ」、「党規約と党規則は任志強たちの党員の権利を保護している」などと論じて同人を擁護したので2016年春、大論争となった。
…任志強は新型コロナウイルスによる感染問題をきっかけに、ふたたび口を開き、2月23日、米国の華字サイト「中国デジタル時代」に習近平の新型コロナ肺炎対応を批判する文章「化けの皮がはがれても皇帝の座にしがみつく道化」を発表し、中国政府が言論の自由を封じていることが感染対応の阻害になり、深刻な感染爆発を引き起こしたと、批判した。
…北京市規律監査委員会は4月7日、同人に対する調査が行われることになったと発表した。中国の常識では、この調査は決定的なものであり、今後同人が再浮上することはあり得ない。
なるほど、このようにして政権批判勢力が潰されていくのだ。対岸の火事として傍観するのではなく、他山の石としなければならない。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.7.27より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=15312
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion9973:200728〕