たかが選挙されど選挙-我孫子市の選挙結果から見えてきたこと

韓国通信NO540

2017衆院選挙で安倍首相の悲願がまた一歩、現実味を帯びてきた。比例区得票率33.3%の自民党が61%に相当する284議席を獲得したとはあきれる。イカサマ選挙というほかない。
二十歳になり、初めての選挙で社会党の木村禧八郎さんに投票した。半世紀以上の昔のこと。インフレーションの研究で有名な経済学者だった。
今回、小選挙区は共産党、比例区は立憲民主党に投票した。選挙だけで世の中が変わるとは思っていないが、世の中を変える有力な手段のひとつと思いこれまで投票所には皆勤である。前回の参院選挙では「選挙に行こう!原発なくせ」の名刺を作って若者たちに配った。

<I am not ABE>
特定の政党や個人への投票を依頼する選挙運動はしたことがないが、自分の気持だけは伝えたい。「アベ政治を許さない」のプラカードを駅頭で掲げるのはそのためだ。
通っているスポーツジムで「I am not ABE」とプリントしたスポーツウェアを着て「選挙運動」をした。それを見て「何?」と聞いてくる人、気がつかない人には「ちよっと見てよ」と話しかけた。私が何故「安部ではないのか」そのわけを話した。週2回のジム通いで多くの人と話をした。もちろん「安倍首相が好き」という人にも出会った。17才の高校3年生にも声をかけた。誰に投票したらいいか相談をもちかけられた。「安倍首相は好きか」「嫌い」と即座に返事がかえってきた。希望の党は「自民と変わらないね」というと「そうね」。「残るのは共産党しかない」。
選挙が終わりエアロビクスのスタジオで会った。
候補者は自民と希望と共産の3名だけ。共産党に生まれて初めて投票したと語ってくれた。

<「小選挙区は共産党へ 比例は立憲」>
千葉8区(柏・我孫子)では現職の自民党候補桜田が当選した。日本会議所属で文科副大臣を務めたバリバリの極右議員である。「従軍慰安婦はデッチあげ」と安倍首相の持論と同じ発言を展開して副大臣をクビになった。太田は民主党から生活の党、維新の党と渡り歩き、今回は希望の党から立候補した。共産党からは小野里が急遽立候補した。
得票数では自民桜田が圧勝。しかし二人の非自民候補の得票が自民を上回り、比例の得票数では希望の得票をいれなくても立憲、共産、社民で自民を上回った。
人口約13万人、有権者数111千人(投票率55.47%)の我孫子市を含む8区で野党統一候補が出馬したら当選は間違いなかった。全国64の選挙区で野党が一本化したら自民が敗北したといわれる(産経新聞デジタル)。千葉8区もそのわかりやすい例である。平和、護憲の勢力の結集に教訓を残したが、今回の自民圧勝は選挙民の意思からかけ離れた空中の楼閣、虚構だったことがわかる。「I am not Sakurada」。安倍首相のオトモダチ桜田の落城も目前だ。

<仲間を捨てて 街に出よう>
11日、埼玉県大宮市で開かれた会合で韓国のローソクデモの話をした。元国鉄の労働者で組合活動の中心になって活躍してきた人ばかり30名ほどが集まった。
昔、藤田省三さんと酒を飲んだ時のこと。酔いが回るうちに「銀行の組合なんか御用組合に決まっている」と藤田さんが断言したことに私が腹を立て大喧嘩になった。私が銀行の組合の組合員だったからである。「学者は本ばかり読んで現実を知らなすぎる」と、私も一歩も譲らなかった。でも、労働運動の現状を見ると、組合に期待をしないと「暴言」を吐いた藤田さんは真理の一面を突いていたことになる。
私がいた組合は会社とともに消滅した。今では組合運動のことを考えることはあまりない。かつて情熱を注いだ組合運動を「卒業」してもなお、仲間と定例的に学習会を開いている今回のグループの存在に正直驚いた。彼らは今でもさまざまな政治集会に出かけ、最近は福島の被災地に出かけたりもしている。
労働運動のOBとして運動を模索するひとたち。ローソクデモと市民運動についての話を聞きたいという手ごわい聞き手を前に緊張した。一市民としてどう生きるか、何が出来るかが、その日のテーマだった。私に答えを出せるはずはなく、知りえたローソクデモと私の体験談を話した。
日本と共通する問題を抱えながら何故韓国で延べ1700万人、毎週100万人もの市民が集まったのか。その背景にある民主化運動の歴史と、韓国社会に積もりに積もった不満の数々。民主化闘争から生まれた『朝露』や『君のための行進曲』を熱唱して過去の運動の記憶を現在に蘇らせる人々。市民運動から生まれた自立した市民たちの存在。組織に依存しない確立された個。同じ儒教社会ながら、「一君万民」は万民のための君主と理解する韓国と、君主のための万民と考える日本との違い。韓国人の、倫理観にもとづく自己主張の激しさなど、思いつくままに話した。
韓国の社会運動では「希望」が語られ、日本では「挫折」が語られる。孤立した運動は社会を動かす力に乏しい。それに比べネットワーク化が進み社会的影響力を持つ韓国の市民運動(後に紹介する丸山茂樹氏の評価も引用した)。脱原発に突き進み、貧困問題への具体的着手も始まった。
参加者の顔を見ながら、「わが国にあって韓国にないもの。それは、社会運動の経験を豊富に持つ高齢者たちの存在」と気づいた。高齢者が元気な日本社会の可能性を韓国の友人から指摘されたことを思いだした。
仲間内で「愚痴」を言うより少しでも若者と付き合おう。一人でもやれることはいっぱいある。「ひとりデモ」「東京電力から電気を買わない」「I am not ABE」「NHKとのバトル」「家族との話し合い」といったことの大切さを述べ締めくくった。
懇親会に参加した。「あなたを見習って一人で駅頭に立ちますよ」と声をかけてくれた人がいた。労働運動の仲間と話をするのは久しぶりだった。古巣に帰ったようで気分が高揚した。銀行の合併を世に問うた『三菱銀行の野望』を二十冊贈呈した。銀行も組合も認めなかった有志個人発行。処分覚悟の抵抗の「書」である。

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『共生と共歓の世界を創る-グルーバルな社会連帯経済をめざして』

尊敬する先輩丸山茂樹さんが本を出版した。グラムシ、ポランニー、さらにブラヴォイの思想を紹介しながら共生社会の実現を社会的連帯経済に求めるという意欲的な内容。朴元淳ソウル市長の提言と協同組合づくりの実践、日本の重茂漁協などが紹介されている。著者は長年にわたる生協活動の実践と理論研究をとおして人間と仕事、社会のあり方に提言をおこなってきた。「持続する社会」とは? 示唆と刺激に溢れる好著として一読をお薦めしたい。
                      社会評論社発行 本体2200円+税

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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