ただの炭酸飲料を「米国の文化」に仕立て、独自のフランチャイズ制度で利益を上げる―コカ・コーラのビジネスモデル
糖分の入った透明な水が何個かの小さなビンに詰められている。「これから実験しますよ」。実験者がビンに香料を加えていく。「香りをかいでください。どんな香りがしますか」
「オレンジです」。「はい、続いてこれは」。「グレープです」。香料が変わるごとに香りや風味が変わる。「飲料は食品の香りや風味は香料が決めています」と実験者は語った。
「どうですか。たとえば飲料の代表商品であるコカ・コーラは香料と糖分と炭酸水で構成されています。どんなに利益率の高い商品か、推測できると思います」とは実験者のコメントである。
香料には二種類ある。香水、化粧品、シャンプーなどに使用されるフレグランスと飲料や食品に使用されるフレーバーである。
筆者は一時犬と猫を飼っていた。市販のドッグフードやキャットフードを与えていた。犬や猫のドライフードの食いつきは香料で決まる。とくに猫に比べて、味覚が発達していないといわれる犬のドライフードは香料が決定的な役割を果たすと、筆者は考える。
人間も同様である。コーラだけではなく、茶系飲料、加工食品、お菓子などの飲料・食品で香料が食感に果たす役割は大きい。
たとえば、レモン、グレープフルーツ、ぶどうなどが入った炭酸アルコール飲料でも果実の風味を出すために香料が使用されている。筆者はチューハイが好きだが、きっと体には良くないな、と思いながら飲んでいる。
筆者は茶系飲料も好きだ。毎日500ミリPETボトルを1個飲む。各社の茶系飲料の価格は自販機で1個150円、コンビニで130円、スーパーで100円前後だろう。
茶系飲料でもっとも原価がかかっているのが、PETボトルである。1個20円程度だろうか。ここにはラベル代(印刷費を含む)も入っている。それでは中身の原価はどのくらいか。かつて大学の先輩で茶系飲料を販売している方に聞いたことがある。「10円くらい?」という筆者の質問に、「推測だが、それより高いが、15円はしないだろう」という答えが返ってきた。
前置きが長くなった。前回紹介したダイヤモンド産業と同じく、コカ・コーラも原価とかけ離れた市場価格を維持している。宣伝によるマインドコントロールと、独自のフランチャイズシステムによって、世界的大企業に成長した。ややきつい言い方をすれば、「催眠商法」か。
コカ・コーラはソフトドリンクの王様である。米国人にとって不可欠な飲料になっている。
余談だが、米国と鋭く対立するイランでもコーラが食事の際には不可欠な飲料になっている。イランではイスラム教徒は戒律によってアルコールが禁止されているので、食事の際、炭酸飲料のコーラがより必要となる。(禁酒の戒律はイラン国内のユダヤ教徒やアルメニア教徒=キリスト教単性派には適用されない)。
さらに脇道に入ると、イランではコカ・コーラはシオニスト支持、ユダヤ系色が強いので、摂取を禁止するが、ペプシコーラはOKという意味不明な仕分けの時代があった。今では両方とも消えて、米国のコカ・コーラとほぼ同じ味のイラン産コーラが広く飲まれている。
コカ・コーラは香料、糖分で構成される原液のレシピを知られたくないので、原液の特許をとっていない。知的財産権にあれほどうるさい米国企業が、イランのコーラ「密造」を黙認しているのだという。ちなみに米国では民主党支持派、左翼・リベラル派がコカ・コーラ、共和党支持派、保守派がペプシコーラに忠誠を誓う傾向があるというのが一般的な区分けだという。日本の消費者のビール・ブランドのへ忠誠心と似ている。
前置きが長くなった。コカ・コーラに話を戻す。
コカ・コーラは香料、糖分、炭酸水をキャラメルで着色したただの炭酸飲料である。しかし、コカ・コーラは奥ゆかしくなかった。この炭酸飲料を「コカ(麻薬の一種)」が含まれている神秘的な存在と宣伝したうえに、いつの間にか「米国文化のシンボル」の地位に祭り上げたのである。米国は第一次世界大戦以降、世界の覇権国になりつつあった。第二次成果大戦以降はブレトン・ウッズ体制の下で、完全な覇権国になった。米国の文化も世界中に広がり、憧れの的になる。そこにはコカ・コーラも入っていた。
イランでさえ、コーラ(コカ・コーラではないが)が生活必需品になっていることを考えると、米国文化の浸透力の強さを感じる。
ここからが、話の肝になるが、コカ・コーラは宣伝によってコカ・コーラの市場価値を高めただけではなく、ボトラーズ制という独自のフランチャイズシステムで世界を制覇したのだ。コカ・コーラはアトランタに本社を構える。アトランタは日本コカ・コーラなど世界各地に地域本部に相当するブランチを配置する。ブランチの機能は原液供給とマーケティング(宣伝)である。実際にコカ・コーラの生産・販売を行うのが、各地のボトラーである。東京近辺では東京コカ・コーラボトリングやコカ・コーラセントラルが知られている。ただ、日本最大のボトラーはコカ・コーラウェスト(本社福岡市)である。
ボトラーは地域独占のビジネスである。商社、酒造会社など地域の名門企業が資本参加してボトラーを立ち上げた。
アトランタの本社は世界各地のボトラーに原液を供給することで、利益を得ている。日本のボトラーは飲料の不振や工場の老朽化で危機感を感じている。アトランタに対する不満も高まる。「高い原液代を通じてのボトラーに対する搾取」という不満もあるようだ。
ボトラー制度は、「家元商法」に相当するか。「催眠商法」プラス「家元商法」が、コカ・コーラのビジネスモデルというと言い過ぎか。
タフな米国。その中でもタフなコカ・コーラが日本のボトラーからの不満に耳を貸すことはない。日本各地のボトラーの多くが株式を公開しているが、日本コカ・コーラは公開しておらず、ビジネスの内幕の多くがベールに包まれている。
コカ・コーラは宣伝によって、ただの炭酸飲料を「米国文化のシンボル」に仕立て上げ、世界に信じ込ませた。独自のボトラー制によって世界に拡大して、本社は高い収益を上げている。
余談だが、日本ではコカ・コーラの努力にもかかわらず、コカ・コーラ自体は外国と比べて、それほど飲まれていない。「ファンタ」は失敗作だっただろう。日本のコカ・コーラボトラーを支えているが、缶コーヒー系飲料と茶系飲料である。日本のボトラーが開発した製品にも原液代をとるのが、利益重視のコカ・コーラらしい。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0599:110827〕
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「一生砂糖水を売って過ごすのか」―アップル社創業者ジョブズ氏のペプシコーラ社長の口説き文句
アップルコンピュータの創業者でCEOのスティーブ・ジョブズ氏が引退したことは、世界中で関心を持たれている。
スティーブ・ジョブズ氏は偉大な経営者の座についているが、池田信夫氏のブログにあるように、日米のエレクトロニクス業界では、非常識ないやな人物として有名な人物である。
ジョブズ氏の父親はシリア人政治学者。母はアメリカ人の大学院生。生まれてすぐ養子に出された(ジョブズの名前は養家から)。実の母と再会したのは30歳を過ぎてから。そのときすでに株式公開で大富豪になっていた。こうした経歴もパーソナリティに影響を与えているのかもしれない。米国の経営者や富豪は、一般には楽観的なシンプルな性格で「影」がない。ジョブズ氏は例外に属する。
ジョブズ氏についてのコメント
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/c247ce456b64ea914b7ec00e83949e53
筆者が印象に残っているジョブズ氏の評判は、大金持ちなのにレストランの代金を払わないことがしばしばあったということである。アップル社の起死回生の一打になったIPODにしても、日本の三洋電機がOEM商売ほしさに、無邪気にジョブズに渡したプロトタイプのデザインを改良しただけのパクリだといううわさを聞いている。
そのジョブズ氏がかつてアップル社の経営者にリクルートしたのが、ペプシコーラの事業担当社長をしていたジョン・スカリー氏である。
下記のウィキペディアにあるように、口説き落とした決め台詞は、
>「このまま一生、砂糖水を売りつづけるのか、それとも世界を変えるチャンスをつかみたいか。」(Do you want to sell sugar water for the rest of your life, or do you want to change the world? )は有名である。
スカリー氏も「ただの砂糖水を宣伝(マーケティング)で高い値段で売っている」という自覚があったので、ジョブズ氏に口説き落とされたのだろう。
ジョブズ氏もスカリー氏も偉大ビジネスマンであり、同時に二人とも天才的な「詐欺師」だったのかもしれない。
>ジョン・スカリーは、ペプシのコマーシャルにマイケル・ジャクソンを採用したり、ペプシ・チャレンジと言われた、ブランド名を隠して複数のコーラを飲ませて、ペプシのコーラがおいしいと伝えるコマーシャルなどの手法を使った。ダイエット・ペプシなどがヒットし、ついにはコカ・コーラを抜いてアメリカの炭酸飲料マーケットで首位を取る原動力となった。
アップルコンピュータの社長を探していた創業者のスティーブ・ジョブズは、当時ペプシコーラの事業担当社長をしていたスカリーに白羽の矢を立て、18ヶ月に渡って引き抜き工作を行った。この時スカリーを口説くために彼が述べた言葉、
「このまま一生、砂糖水を売りつづけるのか、それとも世界を変えるチャンスをつかみたいか。」(Do you want to sell sugar water for the rest of your life, or do you want to change the world? )は有名である。
ウィキペディアより引用
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0600:110827〕