(2021年8月9日)
昨夜は台風9号が九州を襲った。コロナ禍はさらに深刻な様相。東京五輪の喧噪は昨日ようやくにして終わったが、五輪禍はまだ続く。昨日の万能川柳に、「おもてなし出来ず おみやは五輪株」(吹田 のんさん)とあるとおりだ。世の中、安穏ではない。
コロナ禍を押しての東京五輪強行の理由はいくつか数えられるが、その中の一つに、政権浮揚の思惑があったことは間違いない。明らかに政権は、国民やメディアを舐めていた。「オリンピック開催に突っ込めば、メディアは感動の記事一色だ。国民の関心も意識も変わる。そうすれば、低迷する内閣支持率も復活する」との読みである。
この読みは、半分は当たった。確かに、メディアは「メダルラッシュ」「感動大安売り」の記事で埋められた。しかし、沈みかけた政権の浮揚の思惑は当て外れとなった。本日発表の朝日世論調査、内閣支持率28%・不支持率53%という結果である。政権の危機、いよいよ深刻である。
太平洋戦争末期の事情に似ていなくもない。敗戦必至の戦況となって、近衛文麿が天皇(裕仁)に「早期の敗戦受容」を勧告した。しかし裕仁はこれに従わず、「もう一度戦果をあげてから」と講和の時期を失した。そのため、彼は厖大な国民の生命損失に有責の刻印を押されることとなった。なくもがなの、その後の各地の大空襲、沖縄地上戦、2発の原爆投下によってである。菅義偉も、衆院の解散時期を失することになりそうな雲行きである。もっとも、こちらは裕仁ほどの責任の重さはない。
ところで、誰が言ったか「8月は 6日9日15日」。今日はその9日、長崎の原爆投下の日。長崎市が主催する「被爆76周年長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典」が挙行された。
本日も、菅義偉は来賓の立場で挨拶を述べたが、針のムシロの心境だったろう。3日前の広島の式典で、信じがたい失態を犯したばかり。被爆者団体から、「不誠実極まりない」と叱責を受けた身だ。彼は、確かに心ここにあらず、ボーっとしていた印象だった。無能総理というだけではなく、不誠実の烙印も消えることはないだろう。
それだけではない。広島・長崎の両市長も被爆者団体も声を揃えて、「日本も核禁条約の締結を」「せめて、条約締結国会議にはオブザーバー参加を」と悲痛なまでの声を上げているが、菅はまったく無視の姿勢を崩さないのだ。
それでも菅は、式典出席見合わせとは言えない。やはり、イヤでも出席せざるを得ないのだ。式典出席が、圧倒的な世論の求める内閣総理大臣としての任務なのだから。思い出す。安倍晋三という人物、沖縄の平和勢力からは蛇蝎の如く嫌われている。それでも、6月23日「慰霊の日」の「沖縄全戦没者追悼式」には出席せざるを得なかった。On-line出席で済まそうとて、できることではない。
安倍晋三は(菅義偉もだが)、沖縄の民意に逆らって新基地建設を遮二無二強行する首謀者。言わば、本土のエゴで沖縄に戦争リスクの負担を押し付けているのだ。だから、「沖縄平和祈念」の式典にはまったく似つかわしくない。それ故に、式場周辺からあからさまに、「何しに来たのか」「カエレ、カエレ」と罵倒されることになる。それでも、「じゃあ帰るよ」とは言えない。罵倒されながらも、式典出席を継続せざるを得ない。これが、民心と離れ、心服されることのない為政者のつらいところ。
菅義偉は、本日長崎の式典に遅刻はしたようだが、読み飛ばすことなく、挨拶の原稿全文を恙なく読み通したという。よくできた。それくらいの能力はあるんだ。ねえ、菅君。人間、優れていることよりは、真面目であることが大切なんだよ。真面目にやればちゃんと仕事ができるじゃないの。
社会人には、「有能ー無能」、「誠実ー怠慢」の評価軸がある。できることなら、有能で誠実と言われたいものだが、なかなかそうはいかない。菅君も、努力次第で「有能」の評価を獲得することは可能だが一朝一夕には無理なこと。任期を考えると間に合いそうもない。一方、緊張次第で「誠実」の評価は得やすいのだが、広島での菅君、君は無能で怠惰と評価せざるを得なかった。今日長崎の君は、まずまず誠実といってよい。だって原稿読めたのだから。
では菅君、君は有能か。総理大臣として求められる能力とは、何よりも官僚が作成した原稿を滑舌よく、聞いてる人に分かるよう朗読できることだ。安倍晋三のように、漢字が読めなかったり、読み間違えたりしなければ立派なものだ。今日の君については、原稿を間違いなく読めたのだからまずまず合格点としたい。採点としては、「可」だ。
今日の式典で、田上富久市長も、被爆者代表の岡信子さんも、切実に訴えていた、核兵器禁止条約の署名と批准そして第1回締約国会議にオブザーバーとして参加することを真剣に考えなくては。それができたら、「良」の判定になるよ。がんばりたまえよ、菅君。残りの任期は長くもないんだから。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.8.9より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=17353
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