ていこう原理32 自由・自治を脅かす管理=統治の強化

◆ほぼ全議員提案の条例案、審議は?
横浜市会(市議会です)は6月に「こども・子育て基本条例」を圧倒的な多数の賛成で可決しました。この条例案を見て〈ゾッとする〉ような違和感を覚えました。何しろ条例の文案の前にズラリと79人の議員名が並んでいるのです。議員提案の条例案で、その提案に賛成する議員名です。ちなみに議員総数は86人で、9割を超えるのです。
原案を作ったのは自民党議員団とのことで、国のこども基本法を踏まえたそうです。法律名に「権利」が入らなかった同法ですが、国連の条例名(権利条約)と「基本的人権」「福祉に係る権利」は明記されています。しかしこの条例には、権利とか人権の語は一切ありません。
横浜市では以前に確か、子どもの権利条例制定を求める市民の活動があり、強烈な妨害で潰されたことがあったなあ、と思ったりします。そういう横浜で、市議会が、民主的議論の場ではなくなっているのでは、と感じてしまいます。大体、ほぼ全議員が提案した議案を審議する必要は皆無です。ならば、ごく少数の、議案に賛成しない議員の存在の意味もありません。最近、似通った自治体の議会が多くないですか…国会も含めて。
都知事選挙での馬鹿げた動きがあり、トランプ支持や陰謀論的主張を述べた候補者もいたようです。そんなことも含めて、民主主義の土台が液状化しだしているのではないかと、心配になります。
◆「子どもはお国のため」の子育て政策
 横浜市の条例の基調は、子育て・育成主義であり(子育ち・自己形成ではなくて)、「育ててやっている、保護してやっている」なのではないかという気がします。つまり、統治主義的な基調です。議会には、統治主義へのチェックの役割を期待したいのですが、私の住む自治体の市議会などを見ていると、統治補助機関のような感じがしてなりません。
 最近、洋服ダンスの奥から、20年ほど前に教育基本法改悪反対の運動の中で作ったTシャツを引き出し、着てみました。胸に「子どもはお国のためにあるんじゃない!」。改悪反対のメーンのスローガンでした。最近の子ども政策、特に教育政策には、子どもはお国や社会や経済の将来を託せるように育てる、という傾向が強まっていると感じる現状では、
このスローガンを大きな声で叫びたくなります。教基法改悪は、教育への管理=統治の強化も狙いだったのでした。
◆自治体行政による自治と自由の侵害も
 主権在民・民主主義の重要な柱は「自治」と「自由」だと思います。住民自治、大学の自治、学問・研究の自由、教育の自由です。この自治と自由が問われたのが、奈良教育大学付属小学校の「不適切」授業の問題だと思います。
 詳しく述べる紙幅はありませんが、同小の授業が学習指導要領に従っておらずに「不適切」だったと同大学長が認め、教員を地元の公立学校との人事交流で出向させたりしたのです。地元県教委から派遣されていた校長は栄転したとか。その背景には、文科省の「学校を責任をもって管理する体制」を進めるための地元教委との連携の方針があるというのです(朝日新聞、2024・4・28)。
 大学の学長が、大学の自治や学問の自由、付属小学校の自治と自由、そして教育研究の自由を守らず、自治体の教委は文科省の〈手先〉の如くに、管理=統治の強化に協力しているわけです。民主主義の自壊は防ぎたいものです。(読者)

初出:「郷土教育780号」2024年7月号より許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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