広島市の松井一実市長が11月6日、外務省を訪れ、「国連で、34カ国が核兵器の使用を国際法上非合法にする努力を各国に呼びかけたが、日本政府は賛同しなかった。どうしてか」と説明を求めた。日本政府が賛同しなかったのは「わが国の安全保障政策と必ずしも合致しない」というのがその理由だが、日本がその安全保障を米国の「核の傘」に依存していることを、またしても白日の下にさらけ出した形だ。原爆を投下され世界最初の核兵器被害を受けた国でありながら核兵器廃絶の先頭に立とうとしない日本政府。なんとも情けない私たちの代表だ。
10月23日付毎日新聞夕刊に載ったニューヨーク発共同電よると、国連総会第1委員会(軍縮)で22日、核兵器の使用を国際法上非合法にする努力を強めるよう各国に求める声明をスイス、ノルウェー、タイなど30カ国以上が合同で発表した。声明は、核兵器使用は将来世代への脅威にもなるため「人道上の深い懸念」があるとし、国際人道法上の問題になりう得ると指摘、「全ての国は、核兵器を非合法化し、核兵器のない世界に到達する努力を強めなければならない」と訴えていた。
また、声明は、1個の核兵器使用でも人体のみならず広範囲で農産物や天然資源への影響が発生し「限定的な核使用の応酬」では地球規模の気候変動が起きると指摘し、さらに、核戦力の維持、更新には巨額の費用がかかり、保健、教育への支出を不可能にする、と訴えていた。
同共同電によると、日本政府の榛葉賀津也副外相は、この声明発表に先立つ同日の記者会見で、日本政府として声明に賛同しない考えを表明。「わが国の安全保障政策と必ずしも合致しない」と述べ、米国の核戦力を含む「抑止力」に依存した日本の安全保障政策と整合性がとれないとの認識を示したという。
10月25日付「しんぶん赤旗」は、スイスなどの共同声明に日本政府が参加を拒否したことに対し、国際的な反核組織から驚きと失望の声が上がっている、と伝えた。
同紙によると、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のレベッカ・ジョンソン副議長(英国)は23日、日本政府の対応について「ショッキングだ。核兵器の非人道的側面に迫ろうという呼びかけに応じないとは」と表明。オランダの反核組織「IKVパックス・クリスティ」のスージー・スナイダーさんは同日、「道義的に非難する」と強調、「核兵器使用の直接の結果を知っている日本が(声明)に加わらないことはショッキングであり、残念であり、痛ましい」と述べたという。
日本でも、日本原水爆被害者団体協議会や日本原水協が23日、日本政府の対応に抗議し、共同声明への賛同を求める声明や談話を発表した。松井広島市長が外務省に説明を求めたのもこうした内外の反応を反映したものと思われる。
それにしても、日本政府が国連の舞台で「核兵器禁止」に消極的な態度を表明したのは今回が初めてでない。戦後ずっとわが国の政権を担ってきた自民党政権は、これまで、国連で「核兵器禁止」や「核兵器の先制使用禁止」などの決議案が上程されるたびに、ほとんどの場合、「棄権」してきた。理由は、今回と同じく「わが国の安全保障政策と必ずしも合致しない」というものだった。要するに、わが国の安全保障は米国の「核の傘」に依存しているから、というのがその理由だった。
こうした方針は、1968年1月30日に衆院本会議で行われた佐藤栄作首相(自民党)の演説に明確に示されている。この演説で、佐藤首相は「わが国の核政策につきましては、大体4本の柱、かように申してもいいかと思います」と表明、「第1は、核兵器の開発、これは行わない。また核兵器の持ち込み、これも許さない。また、これを保持しない。いわゆる非核3三原則でございます」「第2は、日本国民は核兵器の廃棄、絶滅を念願しております。しかし、現実問題としてはそれがすぐ実現できないために、当面は実行可能なところから、核軍縮の点にわれわれは力を注ぐつもり」「国際的な核の脅威に対しましては、わが国の安全保障については、引き続いて日米安全保障条約に基づくアメリカの核抑止力に依存する。これが第3の決定であります」「第4に、核エネルギーの平和利用は、最重点国策として全力でこれに取り組む。以上の4つを私は核政策の基本にしておるのであります」と述べていた。
3年前に民主党政権になっても、こうした政府の方針は変わらなかった。今回の、スイスなど34カ国の「核兵器非合法化声明」に加わらなかったのも、民主党政権が自民党政権の核政策を踏襲したことの表れだったのである。
1998年以降、世界の反核平和運動では、日本の核政策への批判が強くなっている。
例えば、毎年広島で開かれる原水爆禁止世界大会では、諸外国の代表から「日本政府は偽善者である。なぜなら、『核兵器廃絶を支援する』と言いながら、具体的なことは何もやっていない」「日本政府は米国の核の下で非常に楽に過ごしている。非核3原則をうたいながら、実は米国の核に守られている事実がある」「日本は米国の『核の傘』から抜け出さないと、核軍縮で指導的役割を果たせない」「米国の『核の傘』の下にいることが日本の外交政策を制約している。日本は米国の『核の傘』から脱却を。そして、日本は北東アジア非核地帯の設置に努力してほしい」といった発言がなされるようになった。
しかし、長い歴史をもつ日本の反核平和運動は、いまだに日本政府の核政策を変更させることができないでいる。
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