むかし、むか~しのことよ。

あるところにな、
強欲で嘘つきの殿様がござらしゃった。

この殿様がたいへんなお方でな、
オオヤケとワタクシと
公金とご自分のお金との区別がつかなんだ。

人の悪口は繰り返すのじゃが、
悪口言われるのは、極端におきらいでな。
そのうえ、みんなで寄り合って作った決めごとを平気で破るお人でな。
うっとうしい決めごとは、自分で作りかえると頑固でな。
この殿様を尊敬するひとは一人としておらなんだ。
みんなが、ヘンなお人と思っておったんじゃ。

じゃがな、殿様は殿様だ。
逆らうと、なにをされるか恐ろしい
うんといじめられるやも知れんじゃろ。

だから、諫めるお人がそばにはおらんじゃった。
それで、この殿様、自分が一番えらくて、
なんでも自分の思うとおりになると思い上がっていらっしゃってな。
何をしても、領民みんなが、ご自分を忖度してくれるものと
本当に信じ込んでおられたご様子で、
だんだんとみんなが、本当に困ったお人と見られていたな。

その殿様にも参勤交代があってな、
領国の領民たちを江戸に呼び出してな。
盛大に花見だの、酒盛りなどやったんじゃそうな。

そのためにな、江戸のお城の近くに、
2軒の大きな宿屋があっての。
このお殿様は交互につかっておった。
一軒は、昔相撲取りだったお人がはじめた宿で、
もう一軒は、なんでも外つ国のお宿とかいうことじゃった。

殿様は、一年ごとにこのふたつの宿を交互に使っておったが、
ある年の桜の満開の頃よ。
領民たちを800人も呼び集めてな、
安い値段で、飲み食いさせたんじゃ。

ところが、これが将軍家のご法度に引っかかった。
安い値段で、飲み食いさせてはいかんのだ。

そこで、この殿様はこう言った。
「ワシが飲み食いさせたわけではない。
みんなが勝手に宿屋と契約したではないか」
こんな風に口裏を合わせたのじゃな。

宿屋の一軒は、これでおさまった。
なにせ客商売。上得意の殿様に、逆らうわけには行かない
とまあ、そう考えた。

ところが、もう一軒は、口裏を合わせには加わらなかった。
「殿様のいうとおりではございません」と言ったんじゃ。

殿様は青くなった。
「ワシのウソがバレちゃった。」
殿様の取り巻きは怒った振りをして見せた。
「もう2度とあの宿は使わない」

だけど、江戸っ子はヤンヤの喝采だ。
「たいしたもんだよ」
「スッキリしたぜ」
「あの殿様に負けずに筋を通すなんてね」
「一寸の虫にも五分の魂だよね」
「これからは贔屓にするぜ」

忖度した宿屋と、忖度なしの宿屋。
さて、短い目でどっちがどうなる?
長い目ではどうなりますやら?

(2020年2月19日)

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.2.19より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=14339

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〔opinion9470:200220〕