調べ物のついでに、立ち寄ったのが、国立国会図書館新館の「開館70周年記念展示 本の玉手箱」という展示だった。もう一度時間をかけてみたいと思って、チラシを見ると、なんと東京での展示は今日11月24日(土)までで、11月30日からは関西館での開催となっていた。残念。
私が出かけたのは10月の中旬だったか。展示室は閑散としていて、入場者は2・3人、やはり年配の人が多い。1960年代後半から、たった11年間の在職だったが、めずらしい書籍や資料に出会えたのは、貴重な体験ではあった。浮世絵・錦絵をはじめ憲政資料室の明治の政治家の書簡、高橋由一の絵画だったり、イギリスの稀覯本、内務省のマル秘資料だったり・・・、当時はまだ非公開だった大量の児童図書などには目を瞠ったものである。しかし、今回の展示では、まさに「玉手箱」のように、こんなものが所蔵されていたのだとあらためて知ることにもなった。ほんの一部の紹介のはずなのだが。
展示カタログの表紙、右下、下から2段目に並ぶ、吉野源三郎『君たちはどう生きるか』 (日本少国民文庫、新潮社 1949年)と、正岡子規「絶筆三句」(1902年)の散らし書きは、写しであったが、右から「をととひのへちまの水も取らざりき 糸瓜咲て痰のつまりし佛かな 痰一斗糸瓜の水も間にあはず」と読めた。1902年9月19日未明に亡くなっているので18日の昏睡に入る直前の筆になるらしい(上田三四二解説『病状六尺』岩波文庫)。
展示カタログの裏表紙。中央の鳥の首の大きく曲がった内側にある、ハートが描かれている細長い変形本が、与謝野晶子『みだれ髪』(東京新詩社 1901年)。なんといっても懐かしいのが、鳥のくちばしの上にある、図書カードボックスである。かつての職場では、独自の参考図書のカードを逐次作成し、このカードボックスに収めたていた。一階ホールの分類、著者、書名、件名目録カードを何度も引きに出かけるの仕事だった。これらのカードをたくみに使って、目的の本をみごとに探し出したり、さまざまな冊子の書誌類を使って、閲覧者が捜す文献を魔法のように見つけ出してくる先輩たちもいた。因みに、首を突き出している大きな鳥は、図書館が所蔵する一番大きな本103×68㎝の”The birds of Amerika”(1985年)の表紙を飾る鳥の図の一部であった。
カタログの13頁、上段は、内務省発禁図書だった小林多喜二『蟹工船』(戦旗社 1929年)であり、下段は、「日本国憲法」が公布された1946年11月3日の官報号外の一部で、内閣総理大臣吉田茂の他、幣原喜重郎、木村篤太郎、金森徳次郎、芦田均、安倍能成らのサインが見える(入江俊郎文書)。
初出:「内野光子のブログ」2018.11.24より許可を得て転載
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