やっぱり怖い!農薬類の汚染(全4回) -その3 悩みが深い化学物質過敏症の人たち-

著者: 岡田幹治 おかだもとはる : フリーライター
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◆「シックハウス症候群」とも呼ばれる
みなさんのまわりに「化学物質過敏症」の人たちはいないだろうか。非常に微量の化学物質に曝露しただけで、さまざまな症状が出てしまう人たちたちである。新築や改築後の建物に入居して発症した場合は「シックハウス症候群」と呼ばれ、学校が原因になった場合は「シックスクール症候群」と呼ばれることもある。

具体的な症状としては、眼、のど、皮膚が刺激されて苦しくなるほか、頭痛、倦怠(けんたい)感、記憶力・思考力の低下、めまいなど多様な症状が現れる(アレルギーやうつ病の症状と重なりあう場合も多い)。
原因となるのは「揮発性有機化合物(VOC)」と総称される農薬類である。VOCとは常温で蒸発(気化)する有機化合物の総称で、数えきれないほどの物質が開発され、使用されている(注7)。

(注7)化学物質過敏症患者の反応を引き起こす主な化学物質は、以下の通りだ
・家庭用の殺虫・殺菌・防虫剤類
・香水などの化粧関連用品類
・洗剤類(衣料用・住居用の洗剤や洗浄剤)
・防臭・消臭・芳香剤類
・タバコの煙
・シャンプーなどボディーケア用品類
・灯油などの燃料類
・ペンなどの筆記用具類(とくに油性のもの)
・印刷物類(インキ・紙)
(NPO法人化学物質過敏症センターによる)

化学物質過敏症の患者に関する全国的な調査は行われていないが、少なくとも人口の1%、100万人程度はいるとみられる。瀬戸博・千葉大学予防医学センター特任教授によれば、化学物質に対する感受性が高い人は全体の3割もいるから、過敏症患者は今後も増え続けそうだ。だれがなってもおかしくないのだ。

◆過敏症の子どもたちのつらい日々
化学物質過敏症の子どもが学校生活を送るには、学校側の理解と協力が必要だ。教室の換気を増やし、農薬やワックスはもちろん油性マジックなどの使用も避けてもらう。教科書は特注のものを使う。
この子どもたちは学年が上がるにつれて悩みが深刻になる。香料入りの柔軟剤や制汗剤を使う生徒が増えるからだ。とくに6月になってエアコンを使うため教室を閉め切るようになると、登校できない日が増えていく。

化学物質過敏症の患者・支援者でつくる市民団体などが2013年10月、「学校等における香料自粛に関する要望」を文部科学省に提出した。強い香りが漂う製品の使用を自粛してもらうため、ポスターを校内に掲示し、患者の苦しみを児童・生徒に理解させてほしいと求めている。

◆悲劇生んだ校舎改修の例も
シックハウス症候群は、環境化学物質が増え、省エネのために部屋の密閉性・断熱性が高くなった1990年代に深刻になった。このため関係の官庁が対策に乗り出した。
たとえば厚労省は、接着剤や塗料に含まれるホルムアルデヒド・トルエンなどやシロアリ防除剤のクロルピリホスなど13物質について「室内濃度指針値」(ヒトがその濃度以下の曝露を一生受け続けても健康への悪影響はないだろうと判断される値)を決めた。国土交通省と文科省もこれに準じた基準を決めている。

この結果、関係業界はこれら13物質の使用を抑えるようになり、被害は減りつつあるが、なくなってはいない。規制13物質に代えて未規制の代替物質が使われるようになったからだ。こうしてシックハウス問題はより厄介な段階に入っている。

その一例が岩手県奥州市の胆沢(いさわ)第一小学校の場合だ。
胆沢第一小学校は2009年秋からの改修工事で教室の壁や床を一新したところ、翌年3月に当時4年生の女児が頭痛を訴えた。「改修工事後に出始めた化学物質が原因」との診断書が出たので、市の教育委員会は文科省の定めるホルムアルデヒドなど五つの「特定測定物質」の濃度を測ったが、国の指針値を超える値は出なかった。このため大型扇風機で換気を強める程度の対策しかとらなかった。
ところが、その後も体調を崩す児童が相次ぎ、結局、74人が体調不良になり、22人がシックハウス症候群と診断された。その後、化学物質過敏症になり、苦しみ続けている子どももいる。何らかの未規制物質が原因とみられるが、その物質は特定されていない。

◆守られない農水省・環境省の「局長通知」
日本は農地面積当たりでみると、世界で1、2を争う農薬使用大国だ(注8)。農地の近くに住む人もいるし、有人・無人のヘリコプターを使った空中散布も多くの農地や松林で行われているから、化学物質に感受性の高い人たちの悩みは深い。

(注8)経済協力開発機構(OECD)の2010年の発表によると、農地面積当たりの農薬使用量は、韓国が1位、日本が2位だった(中国は未加盟なので、調査対象外)。韓国や日本は東アジアのモンスーン地帯にあるうえ、狭い耕地で多量の収穫をめざす集約型農業をしているため、単位面積当たりの農薬使用量は多くなりがちだ。ただ、このことと個々の作物に残留する農薬濃度や残留基準とに直接の関係はない。

農薬類の散布は大勢の人々が利用する空間でも行われる。これによる健康被害をできるだけ減らすねらいで、農水省と環境省は「住宅地等における農薬使用について」という局長通知を出している。

この通知は自治体などに対し、学校・病院・街路・公園や住宅地周辺の農地では、病害虫対策はできるだけ農薬を使用せず、別の方法で行なうよう求めている(たとえば虫がいたら、ヘラでかき落としたり、枝を切り落としたりする)。これに加えて環境省は「公園・街路樹等病害虫・雑草管理マニュアル」を公表し、詳細な方法を示している。
だが、通知もマニュアルも自治体などの担当者にさえあまり知られておらず、守られてもいない。

 

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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