新年もはや1月下旬、これまでにさまざまなニュースが報じられたが、私にとって最も印象に残ったニュースは、1月6日付の毎日新聞朝刊に載った記事だった。「これは極めて注目すべきニュースだ」と、その時、私は思ったのだが、私が調べた限りでは、他の一般紙は今に至るも後追いせず、1月8日付の「しんぶん赤旗」が同様のことを報じたに過ぎない。それだけに、もっと多くの人たちにこのニュースを知っていただきたく、毎日新聞の記事を紹介する。
毎日新聞が報じたニュースは、朝刊の1面と4面を使って展開されていた。筆者は竹下理子記者。1面の記事は三段扱いで、見出しは「核製造企業への融資禁止」「りそな、大手銀初の宣言」の2本。4面の記事はトップ扱いで、見出しは「『核』」への投融資 厳しい目」と「禁止判断 金融機関、世論に配慮」の2本。いわば、1面記事を受けた解説的な記事と言ってよかった。
同紙は、さらに1月15日付の社説で、この問題を論じている。タイトルは「核製造企業への融資禁止 廃絶に向け民間も責任を」。この問題に対する同紙の意気込みがうかがえる。
読者諸氏は、ここまで読んで記事の内容がどんなものであったか大方理解されたと思うが、記事の内容をより深く理解していただくために、1面の記事の最初の部分を以下に掲げる。
「りそなホールディングス(HD)は、核兵器を開発・製造・所持する企業に対して融資を行わない方針を定め、公表した。核兵器製造を使途とする融資を禁止する例はあるが、それ以外の目的であっても該当企業には一切の融資を行わないと宣言したもので、こうした取り組みは国内の大手銀行では初めて。2017年7月に核兵器禁止条約が国連で採択され、欧州を中心に投融資を禁止する銀行や機関投資家が広がっており、国内でも同様な動きが出てくるか注目される」
この記事によれば、こうした方針は、りそなHDが昨年11月に公表した「社会的責任投融資に向けた取り組み」と題する文書に書き込まれていたという。具体的には、核兵器・化学兵器・生物兵器や対人地雷・クラスター弾などの製造企業▽人身売買や児童労働、強制労働への関与が認められる企業▽環境に重大な負の影響を及ぼすおそれのある開発プロジェクト――などへの融資を行わない、と明記されているとのことだ。
こうした方針を明文化したことについて、りそなHDは「持続可能な社会に向け、資金を提供する側の働きかけは重要と考えた」と説明しているという。
核兵器禁止条約では、核兵器の開発、実験、生産、製造、取得、保有、貯蔵、移転、使用、使用するという威嚇、配備などが禁止されているほか、条約締結国に禁止されているこれらの行為を援助することも禁止されている。毎日の4面記事は、銀行による核兵器製造企業への投融資は、禁止項目に含まれる「援助」にあたる可能性がある、との専門家の見方を伝えている。
ともあれ、りそなHDは、日本では、三大メガバンク(三菱UFJ、三井住友、みずほ)に次ぐ規模の金融グループである。そこが、こうした方針を打ち出し、公表したことの意義は、やはり小さくないと見ていいのではないか。
1月6日付の毎日新聞朝刊に載った記事を、私がとっさに「これは極めて注目すべきニュース」と思ったのには、実は“伏線”というか、こんなことがあったからである。
2017年8月5日、広島市で開かれた原水爆禁止日本国民会議主催の「被爆72周年原水爆禁止世界大会・広島大会」の分科会。講師の1人が秋葉忠利・元広島市長。秋葉さんは、分科会の直前に国連の会議で採択された核兵器禁止条約の意義について説明したが、会場でそれを取材していて強く心に残った言葉があった。
それは、「これまで、核兵器に関する世界の世論は、一言で言えば、核兵器の使用は人道に反するから、これに反対しなければ、というものでした。しかし、これからは違う。核兵器禁止条約が発効すれば、これは法律と同じ効力をもつわけだから、核兵器を作ったり、使用することは違法となる。これは、まさに画期的なことです」というものだった。
昨年の8月5日、やはり広島市で「被爆73周年原水爆禁止世界大会・広島大会」の分科会が開かれたが、講師は、核兵器禁止条約の成立に貢献したとしてノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員の川崎哲さん。
「核兵器禁止条約を生かすために」と題して話した川崎さんは、その中で、「今後の課題」として「企業・金融機関への働きかけ」をあげ、「核兵器製造企業への融資は条約で非合法化された。つまり、銀行が核兵器製造企業に金を貸すことは法律違反になるんです。私たちは、消費者として、このことを銀行に働きかけてゆかねば」と述べた。
こんな見聞があったものだから、私としては毎日新聞の記事にひときわ引きつけられたわけである。
ところで、核兵器禁止条約にはこれまでに69カ国・地域が署名し、うち19カ国・地域が批准した。批准国が50カ国・地域に達すると、90日後に発効する。この分だと、発効までには、まだ時間がかかりそうである。日本国民としては、1日も早い発効が望まれるというものだ。と同時に、りそなHDに続く金融機関が現れることを大いに期待したいものだ。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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