昨日(3月6日)の参議院予算委員会。民進党の福山哲郎が、首相に対して次のように質問した。
○福山哲郎 この(瑞穂の國記念小学校の)許認可が始まる直前に名誉校長に就任を受諾をして、寄附金集めには、「安倍昭恵夫人が名誉校長だ」とか、さらには「講演に来られているか」とか、そういう話も出るはずです。これ大阪の財務局の立場でいえば、安倍昭恵夫人が名誉校長に就任している小学校を、手続ができないからといって先送りなんかして開校を延長したら、それは「昭恵夫人に恥かかせたのか」、「安倍総理に恥をかかせたのか」、近畿財務局だって財務省だって忖度するでしょう、それは。
これだけの許認可とこれだけの補助金が下りている状況の中で(首相の妻が)名誉校長に就任された。そして、その日に、名誉校長に就任された日に安倍総理は本当は講演の予定だった。だから、安倍昭恵夫人が講演されたのは安倍総理の代わりです。誰が見たって、ああ、昭恵夫人が名誉校長をやって、安倍総理も講演に来るところだったんだなと役所はみんな考えますよ。そこを延期するとか、そんなことしたら総理に恥かかせることになる、そういうことを状況としてつくったこと自身が問題なんじゃないですか…。
総理、いかがですか。
これまでの経過を上手に整理して、だれもが考えるところを指摘して、あなただってこうお考えでしょうと確認を求める質問。けっして事実を問い質して経過を明らかにしようというものではない。耳を傾けている国民に、なるほどこれまでの経過はこのようにまとめられ評価されるのだと肯いてもらえたらそれで目的が達成される。
形式的な質問の趣旨とはかかわりなく、実質的には、近畿財務局(長)が忖度せざるをえない状況にあることの鋭い指摘である。忖度とは、目の前にいる国有財産買い受け希望者(籠池)が特別の人脈をもつ存在で、その背後には首相夫妻が控えており、当該国有財産売買交渉においては買い受け希望者にできる限りの便宜を払ってやるよう、首相夫妻の強い意向があると思い込むことだ。朝日は、「『開校が延期になったら首相や夫人に恥をかかせる』と忖度」と言っている。
さらに、福山のこの質問は、首相夫妻が近畿財務局(長)の忖度の原因を作っていることまでの指摘を含むものであり、その忖度の原因に同意を求めるものとなっている。
だから、この質問に対する答弁においては、首相の妻と首相自身両者それぞれの、森友学園、ないしは塚本幼稚園との関係を明確にすることが求められている。
これに、首相がどう答えたか。答弁の速記録は、以下のとおりである。少し長いが、記録にとどめておくに値すると思う。
○安倍晋三 今、福山委員は、もうまるで、まるで私と妻がこの結果に働きかけをしていたかのごとくの……(発言する者あり)いや、影響は、影響を与えた……(発言する者あり) 済みません。ちょっと後ろのベンチの方、テレビを見ている方分からないかもしれませんが、後ろでやじられると大変うるさいんですよ。ですから、本当にこの審議を妨害するのはやめていただきたいと思います。よろしいでしょうか。
そこで、そこで、言わば私と妻が、この理財局等に、あるいは学校の認可等々に私たちが結果として影響を与えていたかのごとく議論をしておられますが、まず第一点、第一点、西田委員(自民党)が今日質問をする中で明らかになりましたよね、この売買においては値引きをする法的根拠について明確にしたじゃないですか。それを、それについて、言わばこれもあのやり取りはおかしいということであれば、やり取りがおかしいということであれば、これは不当な値引きだったということになりますよ。
あと、この一年前にという開校を控えての中で、どうして理財局が判断したかということについても、これ明確になりましたよね、訴訟リスク等があるということについて。それが違うということであれば、そもそも大きなこれは問題であるということになりますが、それはそもそもそうではないわけであります。そうではない中において、ということはつまり、法的に、法的にちゃんとプロセスにのっとって正しい根拠を持ってやったということであれば、私も妻も関係ないじゃありませんか。
さらに、私も妻も誰も理財局長等々に、誰にも言っていないのに、この名誉校長に安倍昭恵という名前があれば、これ印籠みたいに恐れ入りましたとなるはずがないんですよ。日本のですね、かつてそんなことあったんですか。そんなことあったんだったら、一つでもいいですから例を出していただきたいと思います。私の妻が名誉何々になっていて、それをそんたくした事実が、事実がないのにまるで事実があるかとのことを言うというのは、これも典型的な印象操作なんですよ。
だから、そこで、長々と私と妻がここにまるで関わっているかのごとく、まるで大きな不正があって犯罪があったかのごとく言うのは、これは大きな間違いでありますから、だから、私はちゃんと時間を掛けて御説明をさせていただいているところでございます。
○福山哲郎 私は、昭恵夫人は被害者かもしれないと申し上げたんです。犯罪扱いなんかしていません。それこそ印象操作だと私は思いますよ。何そんなむきになっているんですか。
人は、痛いところを突かれるとムキになり、うろたえる。この安倍晋三のうろたえぶりはいったい何なのだ。このあとには、共産党の辰巳孝太郎からも「何むきになっているんですか」と言われ、「私の妻のことだからムキになっている」と居直っている。だれが聞いてもヘンだなとという思いが深まるばかり。
当然のことながら、疑惑は疑惑のままで放置しておけない。ましてや首相の疑惑ではないか。徹底して追及し解明しなければならない。疑惑解明のための質問を不愉快と怒ってはならない。口を封じるようなことはなおあってはならない。
「名誉校長に安倍昭恵という名前があれば、これ印籠みたいに恐れ入りましたとなるはずがないんですよ」は通らない。正確には、「安倍晋三内閣総理大臣夫人 名誉校長安倍昭恵先生」である。まさしく、首相の権威を笠に着た開設予定小学校だったのである。天下の副将軍水戸黄門ほどの印籠の効き目はなくとも、首相安倍晋三の印籠程度の効き目は現にあったではないか。
「日本のですね、かつてそんなことあったんですか。そんなことあったんだったら、一つでもいいですから例を出していただきたいと思います。」は、口をとがらせた子どものクチゲンカのセリフだ。
「私の妻が名誉何々になっていて、それをそんたくした事実が、事実がないのにまるで事実があるかとのことを言うというのは、これも典型的な印象操作なんですよ。」
疑惑解明の質疑は、疑惑とされた事実があるかも知れない前提で行われる。当然のことだ。この質問を「事実がないのにまるで事実があるかとのことを言う」などと非難してはならない。質問者は疑惑の根拠を示して具体的な事実を確認し積み重ねていく。「そんたくした事実がない」ではなく、忖度したであろう根拠たる事実の有無に関して、一つ一つ認否し、確認していかねばならない。
これまでのところで、「忖度の根拠」については、ほぼ勝負あったと言うべきだろう。実は、忖度ではなく、首相からあるいはその代理人たる政治家からの国有財産管理や処分の権限をもつ官僚への直接の働きかけがあったのではないか。疑惑解明の本番はこれからだ。
(2017年3月7日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2017.03.07より許可を得て転載
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