日本経済の現状と再生に関わる客観的研究と提言は、多々存在していますが、海外からの視点に依り、日本の既存利権(政権を含む)に拘泥しないものは、実は、希少な存在です。 その中でも、NIRA(総合研究開発機構)の「何が日本の経済成長を止めたのか?」は核心に迫る冷厳な事実を突き詰めるものとなっています。
http://www.nira.or.jp/outgoing/report/entry/n110125_507.html
何が日本の経済成長を止めたのか? NIRA 総合研究開発機構
執筆者
星 岳雄 カリフォルニア大学サンディエゴ校国際関係・環太平洋研究大学院教授
アニル・K・カシャップ シカゴ大学ブースビジネススクール教授
この研究は、【エグゼクティブサマリー】を作成していることからも察せられるとおりに、政権にある政治家へ向けられています。 同サマリーでは、「ゾンビ企業の存在は、成熟した経済におけるイノベーションと生産性上昇に不可欠な創造的破壊の機能を停止させ、日本経済の成長率を押し下げる要因となった。」と既得権益温存政策を採る政権に、冷徹に批判を加えています。 今政権にある自公政府の経済政策に、多くの失敗の責任があるのは明白です。
莫大な国費をバラマキして、市場から撤退するべき企業を救済し、公共事業と称して、土建屋を救済し国土を荒廃させた結果は、「日本は先進国中で最も良好な財政状況から最悪の財政状況へと転落してしまった。日本の現行の財政支出と税収の組み合わせは、将来の(公的な年金制度や医療保険制度を通じた)所得移転の約束を反故にするか、(政府債務の実質価値を低下させる)急激なインフレを引き起こすか、あるいは完全な債務不履行を行わない限り、持続させることは不可能である。」(同書)と極言されるとおりです。
何も国のみではありません。 惨状は、地方でも同様です。 地元不良土建業者を優遇して、公共事業を与えて養う結果は、不要不急の公共施設だらけです。 田舎の田畑の中に国際会議場を建て、カラオケで歌う地元民しか居ない過疎地に大劇場を建て、一日一便の旅客機しか来ない僻地に飛行場を建て、船が着かない無人地に港を建て、等々です。 何んと、市長の愛人が描いた素人画を飾る美術館を建てたトンデモナイ市まである始末です。 「痴呆自治」と揶揄されるのも仕方が無い実状は、残念ながら事実としてあるのです。
中でも、自公が進めた政策では、市町村合併を重ねて広域自治体を計画的に増加させて、スケールメリットを図るのが御題目でしたが、失政の規模も大きくなる結果となっています。 北欧を中心として小規模の自治体を編成して、住民自治を詳細に制度化し「自分自身の街」を作る試みが発展していますが、日本は正反対に進んでいることになります。 これは、住民自身の自殺行為に他ならない結果となるでしょう。 裏には、自治の実状を観えなくして、住民自身が自治体の運営に参画する機会を減じ、社会保障や障害者福祉、それに高齢者福祉等の弱者保護施策を縮小し、余剰財源を企業救済に充てる企図が在るのが、広域自治体制度化なのです。 余談ですが、その政策を更に一歩進めて、住民自治を形骸化し、地方自治体を挙げて関西財界のために全面的に奉仕しようとしている橋下維新を住民が支持している状況は、滑稽でさえあります。
眼を国会に転じて観ますと、安倍首相は、NIRAの研究を御読みになっておられない御様子です。 すっかりリフレ派に嵌ってしまったかのように、金融緩和の政策でデフレを脱して、日本経済を再生させる路線に乗せることが可能と信じておられるかのようです(私は、「リフレ派」の「理論」を盾にしているだけと思いますが)。 言葉を替えて云うならば、「日銀」万能論です。
勿論、NIRAの研究でも、「我々は、長期的には金融政策は実質的な効果を持たないとする通説に同意する。したがって金融政策だけで経済低迷に陥ることを防ぐことができたなどと主張するつもりはない。」としながらも、適切な時期に「より緩和的金融政策が採られていたならば、多少なりとも効果があったのではないか」(傍点は筆者)とされています。 でも、それだけです。
或いは、NIRAの研究に云うところの「(政府債務の実質価値を低下させる)急激なインフレを引き起こす」狙いがあるのでしょうか。 巷間、云われる所の「焼け跡」願望です。 ハイパーインフレで、借金は零。 円は究極の円安で輸出産業は復活。 第二の戦後復興。 等々です。 ここまで来れば、もうヤケクソとしか云い様がありません。 でもまさか、「日本を取り戻そう」の安倍首相が、そんなことを、。