自民党総裁選が終わった。「石破善戦・安倍意外の苦戦」というのが大方の評価。注目は、この結果を受けての改憲情勢。さて、どうなっているのだろうか。
もちろん、アベ自身は空元気にせよ、改憲を言い続けなければならない立場。3選後の記者会見では、用意したコメントの一番最後に改憲に触れた。
「全ての世代が安心できる社会保障改革。戦後日本外交の総決算。そして制定以来初めての憲法改正、いずれも実現は容易なことではない。いばらの道であります。党内の議論も、他の政党との調整も一筋縄ではいかないかもしれない。しかし、今回の総裁選を通して、党内の大きな支持をいただくことができました。これは、これから3年間、私が自民党総裁として強いリーダーシップを発揮できる、党一丸となって大改革を断行する大きな力になるものと考えています。」
「いずれも実現は容易なことではない。いばらの道であります。党内の議論も、他の政党との調整も一筋縄ではいかないかもしれない。」は、だれもが頷くところ。しかし、「今回の総裁選を通して、党内の大きな支持をいただくことができました。私が自民党総裁として強いリーダーシップを発揮できる、党一丸となって大改革を断行する大きな力になるものと考えています。」はだれもが頷くところではない。むしろ、冷笑する向きが多いのではないか。
記者団の質問に答えてこうも言っている。
「憲法改正は…今回も総裁選の最大の争点であったと思います。憲法改正推進本部の議論を経て党大会で報告された条文イメージの上に、次の国会に案を提出できるように党を挙げて取り組むべきだと申し上げてきました。そして総裁選の結果、力強い支持を得ることができたと考えています。結果が出た以上、この大きな方針に向かってみんなで一致結束をして進んでいかなければならないと思います。」
「しかし、党として案を国会提出に向けて幅広い合意が得られるように対応を加速してまいりますが、その際には友党の公明党との調整を行いたいと思います。その後のスケジュールは国会次第でありまして、予断を持つことはできないと思いますし、もちろん(衆参両院の)3分の2で発議をしていくことは相当高いハードルですし、できるだけ多くの方々に賛同していただく努力をしていくべきだろうと思います。これは党を中心にそうした努力を行っていただきたい」
アベ改憲を唱えるアベ自身の自信のなさが滲み出ているではないか。「3分の2で発議をしていくことは相当高いハードル」との自覚はリアリティに支えられたもの。にもかかわらず、党内論議さえ不十分。友党である公明党との調整もおぼつかない。そしてその先は、まったくの無方針。「次の国会に案を提出できるように党を挙げて取り組むべきだと申し上げてきました。」「大きな方針に向かってみんなで一致結束をして進んでいかなければならない」という言葉が虚しい。あきらめの本心さえ窺うことができる。
アベ3選を踏まえての最初の世論調査を共同通信が発表した。
「自民改憲案提出に反対51%」「「安倍1強」57%が問題視」と見出しを打っている。
共同通信社が20、21両日、自民党総裁選で安倍晋三首相が連続3選を果たしたのを踏まえて実施した全国緊急電話世論調査によると、首相が秋の臨時国会に党改憲案の提出を目指していることに「反対」との回答は51.0%に上り、「賛成」の35.7%を上回った。首相が政治や行政の意思決定で大きな力を持つ「安倍1強」を「問題だ」と答えた人が57.4%、「問題ない」は33.6%だった。
首相の連続3選を「評価する」は29.7%にとどまり、「評価しない」は24.9%、「どちらとも言えない」は44.7%だった。
これでは、軽々に秋の臨時国会に改憲上程とは行くまい。この世論状況では、議会内の3分の2の獲得がどだい無理な話。アベに義理立てして、うっかり改憲発議に加わると、政治的に大きく傷つくことになりかねないからだ。仮に、3分の2の獲得ができたところで、国民投票では否決される。そのときは、アベ内閣が瓦解するときだ。
同じ共同通信が、公明・山口代表の見解を記事にしている。「改憲世論熟さず―『自民は信頼向上を』」というのだ。これはまことに冷ややかな反応。
公明党の山口那津男代表は21日、共同通信社の世論調査で、秋の臨時国会への自民党憲法改正案提出に反対が51・0%に上ったことに関し「改憲に向けて世論が熟していない。自民党がこの現実をどう受け止めて対応するか見守りたい」と述べた。取材に対し答えた。
安倍晋三首相「1強」は問題だとする回答が57・4%だったことには「自民党が受け止めて、信頼感や安心感を高める必要がある」と強調した。
驚いたのは、あの小池都知事が「改憲ふさわしい時期か」と述べていること。
これは朝日。毎日も記事にしている。
自民党総裁選で連続3選した安倍晋三首相が憲法改正に意欲を示していることについて、東京都の小池百合子知事は21日の記者会見で、「内外に山積する課題はとても大きい。今、日本のエネルギーを憲法改正に集約させていくことにふさわしい時期なのか。よく吟味していただきたい」と述べた。
小池氏は改憲肯定派だが、首相の拙速な動きに異論を唱えた格好だ。
首相の地方票の得票率が55%にとどまったことについては、「(国会)議員はいろいろと人間関係があるが、(地方票は)客観的な投票だと思う。選挙は最大の世論調査。地方の声が反映されている」との見方を示した。
山口も小池も、世論の動向を読むのに余念がない。その両名の風の読み方が一致している。いま、改憲に向けて追い風はない、という読み。
自民党総裁選はコップの中の波と風だったが、それでも改憲阻止を望む立場からはまずは波乱なくおさまった。沖縄知事戦は、コップの中の嵐ではない。3選直後のアベ政権を直撃する大嵐を期待したい。
(2018年9月22日・連続更新2001日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2018.9.22より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=11189
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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