みなさまへ 松元
諸留さんの「アメリカから見た福島原発事故―原因追究(その2)」を転送いたします。幾つかの変換ミスがありますが、諸留さんの特徴としてそのままにしてあります。
なお長文ですから改行を施していますが、文字化けなどありましたら申し出てください。再送いたします。
=====以下転載(その2)=====
「アメリカから見た福島原発事故(その2)」
[2011(H23)年8月21日(日)PM18:00]
《パレスチナに平和を京都の会》の諸留です
**転送転載 自由**
——————————–
20年前の湾岸戦争の時にも痛感したことだが、アメリカという国は、国家としては非常に冷酷非情な酷悪な国家ではあるが、個々のアメリカ人一人一人を詳細に検討すると、論理的、科学的思考という面では極めて誠実な人物も多数見いだせる。
湾岸戦争時の米軍が誤爆し多数のイラク民衆を殺傷した時も、国際法に違反していなかったという事を微に入り細に入り、これでもか、これでもかと言わんばかりに、科学的な証拠を次々と米軍側から提出してきたのには、少々辟易させられた事があったが、その辺は、科学的論理性と、その背後の哲学や思想にまでは不徹底になりがちな、に多くの日本人、一般市民とは明らかに際だって対照的である。
もちろん、資本の論理、金儲けの為には、科学的論理性など考慮しない連中がいることは、日本でもアメリカでも全く同様ではあるが・・
前回送信の(その1)に続く
「アメリカから見た福島原発事故(その2)」です。
———-以下文字興し————
(その2)最終回
【解説】:マークIが開発された当初は、炉心溶融のような重大な事故は想定されてはおらず、その為の安全対策は国からは求められませんでした。
【テロップ】:元 GE 原発部門 幹部 サロモン・レビーさん
【サロモン・レビー氏】:「マークIは電力会社に引き取られていて、GE の所有物ではありません。マークIの(規制の変更による)設計変更には GE の責任がないのです」[◆註:28]
[◆註:28]その名前から、明らかにユダヤ系アメリカ人と解る、このサロモン・レビーと名乗る男の主張は、筋が通らない。:元 GE の原発部門幹部であったレビー氏なればこそ、会社の利益を最優先させた論理を主張するのは最もであろうが、彼の主張は明らかに間違っている。原発を自家用車の場合に置き換えてみれば解ることだ。
原発の製造元企業が GEであるのは、現在の自家用車の所有者が、たとえディーラーや市民などの誰であっても、製造後の発売後の時点でもその製品に重大な危険性が確認され、部分的な設計変更の必要ありという事態が発生した場合は、メーカーの責任で回収るのが当然であることからも明らか。「トヨタの会社が製造した車が、既にメーカーであったトヨタ社の所有から離れ、問題の車がディーラーや市民に引き取られていて、トヨタ社の所有物でなくなった時点でも、問題の車に事故に直結しかねない重大な製造設計上での欠陥が解っても、問題の車の(規制の変更による)設計変更には、メーカーであるトヨタ社の責任がない!というのでは話が成り立たない!もしそんな身勝手なことが通るならメーカーはどんな欠陥商品でも売りまくった方が勝ち!、ということになる!
【サロモン・レビー氏】:「確かにマークIを設計したのは
GE ですが、設計変更までは GE は責任を持てません」[◆註:29]
[◆註:29]「設計したのは GE でも、設計変更までは GE は責任は持てない」というなら、GEの設計が原因で重大な事故を起こした場合は責任を負うであろうか?!!現に今回の3・11の事故はマークIの設計上の欠陥が原因で起こった事故であって、設計段階では存在しなかったベント操作の取り付けや、その操作ミスが原因で生じた事故ではなかったのだから!格納容器の容積の狭隘さが水素爆発の回避を困難にしたことは、再三、各氏も指摘している!
【解説】:NRCがまとめた安全性と検証の対策。そこにはアメリカならではの前提がありました。実はマークIはアメリカ(国内)の東側にしか立地していません。
【テロップ】:アメリカ国内のマークI立地分布図
【解説】:アメリカ国内の東側では、実は地震のほとんど起きない地域。そこは地震や津波の引き起こす事故はほとんど少ないと考えられたのです。
【テロップ】:元 NRC 安全部長 ハロルド・デントンさん
【デントン氏】:「アメリカのマークIに対する安全評価は、そのまま日本には適用できません。[◆註:30][◆註:31]」
[◆註:30]当時の米国NRC安全部長のこうした証言からも、我が国の原発推進してきた「原子力村」の村民は勿論、政府、自治体、更に自らの科学的検証を放棄し御用学者の学説を鵜呑みした最高裁も含む司法当局関係者の無責任さも明白。我が国の三権分立の空洞化を象徴している。欠陥原子炉のGE製のマークⅠ型を使い続けた東京電力、そして、原発推進御用学者の一方的な安全神話を鵜呑みにするだけで自らの検証義務を放棄し続けてきた最高裁を始めとする司法及び国の責任も厳しく問われなければならない。
[◆註:31]マークIの欠陥問題については、アメリカの「デモクラシーナウ」という番組も原子力の専門家を招き問題点を指摘している。
http://www.democracynow.org/2011/3/15/this_could_become_chernobyl_on_steroids
【デントン氏】:「NRCは地震が多発する地域でのマークIの安全評価は行っていない。日本では地震や津波が起きた時、マークIが安全かどうか調査する必要があります。アメリカのマークIがある場所に津波は来ません。小さな波しかないのです」[◆註:32]
[◆註:32]このデントン氏の意見も注意して聞くべき。福島第一原発事故の原因が津波によるものなのか、津波以外の原因だったのか、未だに未確定であることを考慮して聞かなければならない。事故原因を津波説であったと世論誘導しようとするNHKの謀略に騙される危険に留意すべき。
【テロップ】:元 サンディア国立研究所(工学博士) ケネス・バジョロさん
【ケネス・バジョロ氏】:「1980年代に『マークIを廃止すべきか』真剣に検討しました。それは今も検討すべき課題です。特に地震の危険性が高い場所では真剣に考えるべきです」[◆註:33]
[◆註:33]バジョロ氏の場合は「津波」とは言わず「地震」と発言していることに留意。
【解説】:一方、地震が多い日本ではどんな対策が打たれたのでしょうか?日本には福島第一原発を始め10基のマークIが建設されています。[◆註:34]
[◆註:34]マーク1型原発一覧(世界に38基、日本に10基)
[01]東北電力/女川原発1号炉
[02]東京電力/福島第一原発1号炉(廃炉)
[03]東京電力/福島第一原発2号炉(廃炉)
[04]東京電力/福島第一原発3号炉(廃炉)
[05]東京電力/福島第一原発4号炉(廃炉)
[06]東京電力/福島第一原発5号炉
[07]日本原電/敦賀原発1号炉
[08]中部電力/浜岡原発1号炉(一応は廃炉)
[09]中部電力/浜岡原発2号炉(一応は廃炉)
[10]中国電力/島根原発1号炉
※東通村1号炉はマークI改良型。
東京電力福島第二原発はマークII型
【テロップ】:1987年から原子力安全委員会で重大事故対策を検討
【解説】:アメリカで検証が始まると1987年から重大事故に対する安全対策が話合われます。原子力安全委員会で重大事故の安全対策と安全審査指針のとりまとめをしてきた村主(すぐり)進さん
【テロップ】:元 原子力安全委員会 原子炉安全基準専門部会
部会長 村主(すぐり)進さん
【解説】:福島の事故の引き金となった原発の電源喪失は、考慮しなかったと言います。
【テロップ】:日本でもマークIにベントを設置[◆註:35]
[◆註:35]このNHKのテロップ及び以下の村主進氏の発言は不正確。アメリカでベント設置された直後には我が国の原発にはベントは設置されなかった。福島第一原発1号機原子炉頂部いガス用ベント管が設置されたのは平成20年(2008)年秋であった。1993年までは原発にベント装置という”恐ろしい”仕掛けは無かった。ベント管付設の指針が出されたのは1994年3月31日から。ここのNHKのテロップや村主の発言は、こうした事情を知らない一般市民や国民大衆に「当初からベントは設置されていたから安全対策は講じてあったのだ」の印象を刷り込もうとの意図的な悪質な宣伝情報操作報道である。
【村主(すぐり)進氏】:「ベントを付けるのは、日本も(マークIにベントを)付けているわけなんですよね。で、そういうふうな情報は(日本にも)入っていますよ」
【質問者】:「ベントを付けるという情報は(日本にも)入っていたということですね」
【村主(すぐり)進氏】:「うん。うん」
【質問者】:「それがたとえばBWRのマークIだとすると、電源喪失が起きて、例えば何時間後に何をしたら良いか‥‥等というような‥‥そういうような事も(当時から)議論されていたのですか?」
【村主(すぐり)進氏】:「全電源喪失については‥‥共通問題懇談会で、電源の信頼性は言ってない(触れられてはいなかった)と思います‥‥全電源喪失をしないようにするということは、これはもう必要(なこと)ですからねぇ。
【テロップ】:全電源喪失をしないようにする
【村主進氏】:「それに対して、全電源喪失をした場合も考えなければいけないけれども、それは確率的に非常に低くなるわけですよね。(全電源喪失の起こる確率が)10のマイナス6乗の2%と言ったら、2×10のマイナス8乗ですからね。これはもう天文学的な数字になりますからねぇ」
【テロップ】:全電源喪失は確率的に非常に低い 天文学的な数字になる。[◆註:36]
[◆註:36]村主氏やNHKが言う「確率論的には天文学的な数字になる‥‥云々」の説明は、これまでも原子力推進派の多くの学者も盛んに引用されてきた宣伝情報であることは、前述のカリフォルニア大学バークレー校キース・ミラー教授や、マサチューセッツ工科大学 ノーマン・ラムスッセン教授、NRCのハロルド・デントン氏等の発言で同様。しかし原発事故に関する限り、そうした「確率論的低さ」を安全論の根拠に持ち出す事の愚かさについては、既に上記[◆註]でも、私(諸留)が指摘した通り。こうした愚論が性懲りもなく、福島第一原発事故後にも幾度となく持ち出され、まことしやかに流布される所に日本国民の思考的貧困さが現れている。
【解説】:原子力安全委員会が1992年にまとめた重大事故に対する安全対策の報告書です。
【画面】:発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて(決定) 平成4年5月28日 原子力安全委員会
【解説】:その冒頭で、日本では現実に起こるとは考えられない程、発生の可能性は十分小さいもの、としています。原子炉施設のリスクは十分低くなっていると判断される、と記されています。そして、日本では重大事故は起こる可能性はほとんど無いが、アメリカなどの対策に習い、ベントを自主的に設置すること[◆註:37]等を電力会社に促しています。
[◆註:37](1)日本では重大事故は起こる可能性はほとんど無い[アメリカでは日本での危険性が指摘されていたにも拘わらず!](2)ベントは自主的に設置する。以上の2点だけでも、我が国の原子力安全委員会の無責任さ、安全管理能力の欠如が明らか。
【テロップ】:3月12日午後2時20分 ベント実施を確認
【解説】:福島では原子力安全委員会が想定していなかった電源喪失が起きました。炉心溶融から水素や水蒸気が大量に発生し、ベントが行われました。しかしベントにはフィルターが無く、放射性物質が放出されました[◆註:38]。さらにベントのタイミングが遅れ、水素爆発を引き起こしたのでした」
[◆註:38]このベント実施時に、一体どれだけの量の、また如何なる種類の核種の放射性物質が環境中に放出されたのかは、事故後5ケ月後の現在でも、なお全く不明である。追跡調査すら行われていないのに、事故後の安全宣言だけがどんどん流布し続けている。
【解説】:「今回の事故では、もうひとつ、日本の原子力安全対策の大きな欠陥が浮かび上がりました。非常用電源の問題です」
【テロップ】及び【画面】:非常用ディーゼル発電機(事故前の映像)
【解説】:「津波でほとんどが使用不能に陥りました。海に近いタービン建屋のほぼ同じ場所に置かれていたため、一遍に津波にやられたのです。この背景には東京電力が事故に備えて非常用発電機を増設していたことがありました。1993年東京電力が当時の通商産業省に提出した設置変更許可申請書[◆註:39]です」
[◆註:39]この申請書を作成した東電のみならず、その申請を問題無しとして承認した通商産業省(当時)の官僚の責任重大も免れない。デスクワークだけの事務官に、原発事故の現場の実情対策のチェック能力など期待できないことの典型例。
【画面】:福島第一原子力発電所 原子炉設置変更許可申請書(1号,2号,3号,4号,5号及び6号原子炉施設の変更) 本文及び添付書類の一部補正
【解説】:この時、東京電力は非常用発電を原子炉(1機)当たり2台ずつに増設しました。これは、1号機の図面。もともと1階にあった非常用発電機を2台に増設した時、場所を海側の地下に移したのです。地下に設置すれば地震で壊れる可能性が小さくなります。二つとも地下に置かれました。
【テロップ】:元 サンディア国立研究所(工学博士) ケネス・バジョロさん
【ケネス・バジョロ氏】:「信じられない過ちです。非常用発電機を同じ高さに置き、空気を取り込む配管も同じ高さにした。大きな過ちです。異なる高さに、多様にすべきです。多様性こそが様々な脅威から原子力に炉の安全を守る最後の防御[◆註:40]。」
[◆註:40]我が国の近代技術史の過程でも、全く同様の技術思想的過ちを重ねてきている。鉄道の連結器を手動連結器から自動連結器へと切り替えた際にも、官営富岡製糸工場への自動紡績機導入の際にも、同一機種同一型の機械を一様に一斉に導入、切り替える「変身ぶり」の徹底さには御雇外国人ですら驚嘆した。農業栽培技術でも同様に、他品目他品種混合の複合経営を前近代的営農法とみなして忌避し、単一品種単一作物の大量大型生産営農方式が近代農法であるかのような錯誤を犯し続けている。技術は導入しても技術の背後にある技術思想にまで思考が発達していない日本人の思考特質がここでも端的に現れている。
【ケネス・バジョロ氏】:「多様性とはもっと時間をかけて考える事です。もっと図面を引き、もっと調査をする。多様性のある安全装置はコストもかかります。しかしもっと安全になります。福島の事故はマークIの格納容器だったので事態は悪化しました。しかし発電機の設置場所のことが、より大きな誤りでした」
【解説】:アメリカの原発では非常用発電機は異なる場所に設置するのが原則です。テネシー川にあるブラウンズフェリー原子力発電所
【テロップ】:ブラウンズフェリー原子力発電所
【解説】:福島と同じマークIが3機あります。ここでは非常用発電機が3機の原子炉に対して8台置かれています。
【テロップ】:非常用ディーゼル発電機
【解説】:発電機はそれぞれ異なる4ヶ所に設置され、更に防水扉が備えられています。万が一の洪水にも対応出来るようになっています。しかし、福島では非常用発電機は同じ様な場所に置かれていました。
【質問者】:「これが、タービン建屋の同じ1階に置かれてあったんですよ」
【解説】:原子力安全委員会は「安全上、重要な設備は多重、もしくは多様にしなけらばならない」と指針を出していました。
【テロップ】:元 原子力安全委員会 原子炉安全基準専門部会
部会長 村主(すぐり)進さん
【質問者】:「これは、最初は1階にあったんですよね。それで平成5年の7月に東京電力が提出した設置変更申請書の配置図面によると、地下室の、こちらとことらの‥‥これで2件が移動したんですよね。これはどう思われますか?」
【村主進氏】:「まぁ、あの‥‥結局、現在の時点で言えばねぇ‥‥設計審査指針から言って、地下1階同じ様な場所に置いて津波でやられちゃったということですが‥‥それは、違反した設計だったということが言えますよね」
【質問者】:「これは違反なのですか?」
【村主進氏】:「うん。指針といのはね、どういう事かと言いますと、安全上重要な設備、これには(非常用)ディーゼル(発電機)も含まれますがね‥‥これを多重、もしくは多様にしなければいけないし、そして、信頼性が無ければいけないと(されてるんですよね)」
【テロップ】:安全上重要な設備は多重 多様 信頼性がなければいけない
【村主進氏】:「信頼性というのはね、共通原因故障をしないこと。ひとつの原因で二つの多重に置いた物が共通して故障してはならない。そういうようなものは共通しないように設計しなさいよ、と‥‥こういうことなんですよね」
【テロップ】:信頼性とは共通原因故障をしないこと
【質問者】:「それでも、この設置申請は通っているんですか?」
【村主進氏】:「だから、マグニチュード9の地震が起こるとは思っていないんですよ。その時に審査した時の人は‥‥。いいですか、マグニチュード9というのはね、過去、日本で起こった事が無いでしょう?ねぇ、たとえば隕石が落下するというような事は、確率的にはある(起こり得る)んですよ。隕石は落下するというようなことは、あまりにも確率が低い事だから、今は考えなくても良いと、いう事になっているわけなんですよ。だから津波だって、マグニチュード9の津波だってあるっていうことは、今まで日本では未曽有の事ですからね。なかったんだから、考えてなかったんだと、言うのはもうやむを得ないと、そういう事になるわけなんですよ。今から言わすと」[◆註:41]
[◆註:41]ここでもまた、村主進氏もNHKも、何の断りも無く、「マグニチュード9」の数値を持ち出している!ウソも100回繰り返すと真実になる!の怖さの典型例。マグニチュード単位の問題点はさて置くとしても、「想定外の大地震‥‥云々」も、石橋氏や広瀬氏などの大規模地震を予見していた研究者たちの訴えには全く耳を貸そうともせず、「全ては想定外」「未曽有の出来事」をNHKも村主進氏も、執拗に繰り返し、宣伝し続け国民を情報操作し続けている。
【解説】:東京電力から出された福島第一原発の非常用発電の設置変更の申請は、当時の通産相の許可を受けていました。非常用発電機が津波で一遍に使えなくなった事が、全交流電源喪失という事態を招きました[◆註:42]。
[◆註:42]「非常用発電機が津波で一遍に使えなくなった事が、全交流電源喪失という事態を招きました」とするNHKのこの指摘は、果たしてどこまで正しいのか?福島第一原発へ送電していた高圧送電線の鉄塔倒壊により福島第一原発への交流電源送電が切断されたことが第一次の原因ではなかったのか?津波襲来以前の段階で、非常用ディーゼル発電機自体や炉心冷却装置関係に、地震の震動による何らかのトラブルが既に発生していた可能性は、完全に否定できるのか?これらの事柄の科学的データーに基づかない、単なる憶測で、決めつけたようなことを報道するNHK報道姿勢には警戒を要する。
【解説】:東京電力で福島第一原発の建設された頃頃から関わってきていた、東京電力の元副社長の豊田正さん。この時、一線を退いていましたが、非常用電源がなぜこんな設置をされたのか、驚きを隠せませんでした。
【テロップ】:元 東京電力副社長 豊田正敏さん
【質問者】:「これは1号機が元々あった1階の図面ですよね。ここにあったのが無くなってですね、どこに行ったかというと、ここの地下に2台移しているんですよ」
【豊田正敏氏】:「なんでこんな事やっちゃったんだろうねぇ?スペースが足りないっていう事なんだろうかなぁ?こちらだって増設してるんでしょう?」
【質問者】:「わざわざ掘ったみたいですね」
【豊田正敏氏】:「しかもタービン建屋に置いているんでしょう?」
【質問者】:「そうですね」
【豊田正敏氏】:「それはねぇ‥‥ちょっと‥‥だって、こちらの設備に供給するのに、なんでこんな所に置かなくちゃいけないんだ?こんな図面なんか、今始めて見たよ」
【質問者】:「え~ッ‥‥そうなんですか?」
【テロップ】:ルーティーン(日常業務)として下の人がやっている
【豊田正敏氏】:「うん。そうなんですよ。こんな所までは見てないですよ。これはもうルーティーン(日常業務)として下の人がやっているだけで。上の課長クラスだったのか、どうなのかは、ちょっと解りませんけどねぇ‥‥」
【質問者】:「こういう事がどうして起きるのかが‥‥そのへんのことが良く解らなくて‥‥」
【豊田正敏氏】:「これは安全研究とは全然別個でねぇ。設計ミスに相当するものですよ。これのねECCSと言って、炉心冷却系に電気を送ることが一番の目的なんですよ。それをなんで原子力建屋に置かなかったのかっという事が、私にはどうしても理解できませんね。あれだけ沢山の人がいてね。で、メーカーもいてね。原子力安全・保安院だってね、解る訳だよね」
【テロップ】:東京電力 メーカー 審査当局 なぜ誰も気づかなかったのか
【豊田正敏氏】:「いずれにしてもね、審査当局が全然気が付かなかったこいうこと、これはチョットおかしいんじゃないか、と誰も気が付かなかったということは、私には何とも解りませんね」
【解説】:日本では重大事故は現実に起こるとは考えらないほど発生の可能性は十分小さい、という前提で安全対策が考えられてきました。しかし現実に重大事故は発生したのです。
【テロップ】:元 サンディア国立研究所(工学博士) ケネス・バジョロさん
【ケネス・バジョロ氏】:「原子力業界が抱える最大の問題は、想定の範囲を規定してしまうこと。線を引き『こちらの側の災害は想定しましょう、向こうの側の危険は忘れましょう』と決めること。それは大きな過ちです。原発の安全性を脅かす最悪のものは、想定を決めて想定外を無視することです。津波や地震に対する安全設計も全く同じです。想定より大きな地震や津波の安全対策をしない、それが過ちなのです」
【テロップ】:科学ジャーナリスト 小出五郎さん
【小出五郎】:「歴史を学び、謙虚に教訓を汲み取るということは、未来を選択する上で不可欠の条件と言えます。原発震災から5ケ月が経ちましたが、自体はまだ継続中です。ここからは原子力プラントの設計に携わってこられた後藤政志さんと、お話を進めていきたいと思います。まず、最初に、後藤さんが原子力プラントの設計をしていたというのは、いつ頃の事でしょうか?」
【テロップ】:元 原子力プラント 設計技術者 後藤政志さん
【テロップ】:後藤政志さん 工学博士 設計工学が専門で日本のメーカーで原子炉格納容器の設計にかかわってきた
【後藤政志氏】:「私は1989年から十数年に渡りまして担当して参りました」
【小出五郎】:「ああ、そうですか。丁度あの問題が指摘された、あの情報が入ってきた後ということになりますとよね。VTRを見て頂いた訳なんですけれども」
【後藤政志氏】:「はい。実はあの‥‥マークI問題というのは、私は格納容器を担当してましたので、有る程度私は解っていたつもりでおりますが、格納容器のマークIには弱点があるということは知ってた訳ですけれども、これ程明確に、1980年代に(既に)、マークIは廃止すべきだ、と言う事までそこまで米国の科学技術者が言っていたということは、私にも非常に驚きでした」
【小出五郎】:「しかし、そのアメリカの方も、なんとなく圧力がかかってうやむやに終わってしまって、地震の無い所に建ってるから良い、っていうような事を言い出す訳ですよね?」
【後藤政志氏】:「はい。そうですよね」
【テロップ】:日本はマークIをどう認識していたか
【後藤政志氏】:「日本ではそれが、そうちょっと、柔らかく伝わってきてましたですね。キチンと今ここで(この番組のVTRで)見ましたような形では、受け止めきれていない。少なくとも、アメリカでそう(危険を指摘して)言ってきていた人たちのあれ(危険だという意見)を、日本へ持って来る時に、バイアス(偏見)がかかっていたのか、どうかは、解りませんけれども、問題の深刻さという形では受け止めてはいなかったと思います」
【小出五郎】:「始めて聞いたということですか?」
【後藤政志氏】:「ええ、部分的にはそうです」
【小出五郎】:「そういうような基本的な設計ということろで、問題点といいますか、(アメリカで既に)指摘されていた情報というようなものは、実際には、どういうふうに使われていたと申しますか、扱われていたのでしょうか?」
【後藤政志氏】:「はい。物事の大小によりますけれども、一般的には原子力では、トラブル情報と申しまして、いろんな、どういう事が起こったかというような事柄は、海外で起こった事も含め、基本的には入ってくる(ようにはなっている)んですよね。非常に多様な情報が入るんですね。ですが、今回のこのマークI問題のようにですね、正面からこれがどういう事が問題で、どうこうだ‥‥っていう事が、キチンと受け止め切れるかどうか。勿論、情報としては入っては来るのですけれども、今日(こうやって)VTRで見たような、ああいう印象ですね、(具体的に)こういう点が問題なんだ、っていうような事がクリアに入ってくるか、日本でも(アメリカ国内で指摘されていたように)それと同じように日本でもそうした受け止めが出来ていたかと言うと、チョット疑問に感じております。」
【小出五郎】:「はい。私も原子力関係でいろんな取材をした時にですね、良くあの『日本は(アメリカなど海外の場合とは)違うのよ!』と言う事を、良く聞かされるのですね。『日本は違うんだ』と言ったとたんに、例えば、外国で起きた、スリーマイルで起きた、チェルノブイリで起きたというような事が、そこから先は、もう思考停止になってしまうって言いますか、日本は違うんだって言う言い方が、現場に与えた影響っていうものは、あるのではないでしょうか?」
【テロップ】:「日本は違う」安全に対する意識
【後藤政志氏】:「はい。私は(今のその指摘は)非常に大きいと思います。その意味はですね、日本は『ものづくり』といいますか、製造業が非常に発達しておりまして、品質も良いし、故障もしにくいと、(国内外から)言われております。ですから、ものの品質が良いですから、ですから故障しにくい、事故が起こりにくいという、そういう論拠なんだと、私は思っています。だた、それはですね、基本的な考え方としては、それだけでは足りないんですよね。『信頼性』『モノが壊れにくい』という事と、『安全性』という事は「同義語」ではないんですよね」[◆註:43]
[◆註:43]後藤政志氏のこの指摘は重要。我が国の工業製品の欠陥の少なさ、故障がしにくさと、安全であるとは「別のもの」であるにもかかわらず、前者が後者を裏付ける論拠としてしばしば引用される。一般市民も含め、それに対する有効な反論が極めて少ない。我が国の科学技術の知識偏重に対し、「科学技術思想の貧困さ」を端的に示している。科学技術は高度に発展させたが、科学技術思想は、明治維新以降の近代化の中で、繰り返されてきたことを指摘しておく。
【テロップ】:信頼性と安全性は同義語ではない
【後藤政志氏】:「つまり、壊れ易くても壊れた時に安全な側に設計を持ってくれば、安全は取れる(確保される)んですよね。ところが、日本の場合は、信頼性が高い為に、逆に安全性の設計が、安全性の根底が不十分だと私は思っています」
【小出五郎】:「ほう‥‥考え方の一つ一つについては自身があるために、逆に、そういうふうな事になってしまうという‥‥そういう事ですか?」
【後藤政志氏】:「ええ、そうなんですね。逆に、(日本の場合は)めったに、トラブルが起きないものですから『これで安全なんだ』というふうに誤解している。信頼性が高い事が、安全性が高いというふうに、(両者を)「同意語」に見てしまうんですよね」
【小出五郎】:「ほほう‥‥その両者には大きな違いがある訳なんですよね」
【後藤政志氏】:「はい。そういうふうに私は思っています」
【テロップ】:重大事故を考えない土壌
【小出五郎】:「あの‥‥重大事故を真面目に考えるという土壌が無い、という事が、やはりそういう所に繋がっていっているのでしょうか?」
【後藤政志氏】:「はい。私はそういう印象を持っています」
【小出五郎】:「はい。その‥‥最悪の自体を、日本の場合はあまり考えないという、『そんな事は起こり得ないんだ』っていう事で、要するに(そうした最悪自体は)全然もう考えないんだ、って言うことで、考える所から外しちゃうんですよね。それから過小評価してしまう。さっきの『日本は違う』って言うもの過小評価なのかもしれませんが。もっと極端に言うと、データーに基づかないで、期待に基づいて判断してしまうっていう点ですよね。そういう雰囲気っていいますが、考えが現場に充ち満ちていたんではないのか?って、そういう気がするのですけどね?その辺はどうなのでしょうか?」
【テロップ】:原発の安全 事故と設計
【後藤政志氏】:「はい。そうですねぇ‥‥もともと設計をするという事はですね、普通は、旨く行けば当たり前なんですけれども、旨く行かない事を想定して、設計してくるというのが、これが本来の設計というものなんですよね」[◆註:44]
[◆註:44]アジア太平洋戦争で米軍が長崎に投下した原爆に際しても、米軍側はまず成功しないと見なしていた。最終的起爆装置ひとつにしても、タイマー時計仕掛け式と、気圧変化感知式と、レーダーによる高度自動計測式の三種類の起爆装置を設計していたが、それでも100%各実に作動する確率は非常に少ないと見ていた。その他気象条件、レーダーの性能の悪さを考慮してレーダーによらないB29搭乗のナビゲーターによる視認投下を厳命し、事前に49回もの侵入、通常火薬爆弾の投下、待避のリハーサル飛行まで繰り返していた。ちなみに、この49回の事前飛行のうち30回までが、京都市街地への原爆投下のリハーサル飛行であった。これに対し、我が国の戦艦大和の場合、当時世界最大級46cm主砲3基9門の巨砲を搭載しても、発射時の爆風で艦上兵卒が吹き飛ばされる等、実戦射撃では殆ど役立たなかった。世界最大級を誇った舷側410mmの厚さも、片側原則のみへの魚雷の集中攻撃には役立たなかった。
ひとつのシステムが旨く働かなかった場合、それにどう対処するかのサブシステムの思想を欠落させたままで、科学技術の高度に心酔し、それを批判する者を非国民視しようとする精神風土は、業界、官界、政界のみならず、国民大衆、一般市民に至るまで、戦前も戦中も戦後も、全く変わっていない。
【後藤政志氏】:「設計通りにはならない(という事を想定して設計する)。ですから、基本的な考え方というのは、やはり最悪の事態っていうのを、どこまで取り込めることが出来る設計になっているかという事が、一番重要な課題なんですよね。ですけど(日本の場合そうはなっていない)。
【テロップ】:事故の確率が低い 安全対策の思考停止
【後藤政志氏】:「それは(何故かと言うと)‥‥ひとつは、一番罪だと私が思っている事なのですが、『確率論的安全評価』という言葉で表現されてますけれど、この『確率論的安全評価』という評価方法は、海外でも導入されていて、日本でも採用されてきている評価方法なんですけれども。つまり、先ほども(VTR)にもありましたように、非常に大規模な事故はほとんど起こりにくい、非常に確率が低い、確率が小さい‥‥っていうことで、確率が小さいから‥‥っていう事で、そこから『思考停止』してしまう、っていう構造になっていると思いますよね。その事が一番問題だったのでは、と私は思っています。」
【テロップ】:確率論的安全評価
【小出五郎】:「確率が小さいことから、だから無視しても良いという‥‥」
【後藤政志氏】:「ええ。確率が小さいと言うことは、例えば、工場の生産ラインかなどですね、何かあるモノを作っている時に、何個かそのモノを作るのに失敗しちゃったと、いう時に、品質がどうのこうのとか、故障率がどうだこうだ、って言うような場合なら良いのですけれど。ですけど、大規模な事故が起こったような場合にはですね、その事故がどれだけのインパクトのある事故であるのか、(単に事故発生の確率が小さいということだけで)それで(受け入れても)良いのかどうなのか、受け入れが可能なのか、どうなのかっていう、それが判断基準になると、私は思います。そのことを無視して、(単に) 確率が小さいっていう事を論拠にするのは、私は極めて危ない考え方、安全というものに対する哲学を欠いた考え方だと、私は思っています」
【テロップ】:確率論は安全の哲学を欠く
【小出五郎】:「つまり、確率が小さいということは『起こらない筈だ』という‥‥」
【後藤政志氏】:「はい、(『起こらない筈だ』)という期待がこもっているんですよね」
【小出五郎】:「起こらない筈だが、いつのまにか、それが『起きない』っていうことになってしまって‥‥『起きないから備えない』っていうふうに、どんどんどんどん行ってしまう‥‥」
【後藤政志氏】:「はい。ええ。良く言われるのですけれども、想定し得る事ですよね、ロジカルに『こうなったら、こなって、その次にこうなって、ああなって‥‥』っていうふうに積み重ねる。それがいろんな外的要因も、機械の故障も、人間のミスも含めて、それでシナリオが書けるという事は、その事故は起こり得る、と考えるのですよね。ですから、それに対しては対策が要る。そういう関係になると思います。原子力の場合には、それはこういう事故は許容できませんから。ですからそこは、どこか確実に(事故の対策の)手を打たなければいけなんだ、というのが安全の考え方だと、私は思っております」
【小出五郎】:「ああなる程ねぇ‥‥」
【テロップ】:核兵器と原発 秘密主義の体質
【後藤政志氏】:「私が一つ気になるのは核兵器との関係で気になっているのですが、今の原子力産業に関して‥‥情報が出てこないという体質がありますよね[◆註:45]
[◆註:45]核兵器関連だけでなく、原子力の平和利用と言われる原発も含めた原子力業界の情報が極端に秘密のベールに閉ざされていていて、全く公開されていない状況は、原子力業界だけに限らない。指導監督する政府や自治体、学会、マスコミ、挙げ句は反原発や脱原発運動をしている市民団体や一般市民からですら、科学的データーに基づいた、情報を積極的に提示しようとする動きが、極端に乏しいことを、私(諸留)は非常に危惧している。
今年(2011年8月16日)の京都五山の送り火の薪をめぐる出来事が、その典型的事例である。放射能汚染、微量放射線が人体へ及ぼす科学的データーに基づいた賛成・反対論が、大文字保存会を始め、行政の京都市や関係部局も、学会も、マスコミも、挙げ句は被災地陸前高田市の行政も、現地被災者からも、またそれを支援すると称する全国のNGO、NPO被災支援団体や、一般市民からも、全く提示されなかったことが、一番根本的な誤りである。薪の受け入れの是非を巡って、賛成派、反対派が右往左往し、陳謝し、二点三点し、果てはそうした醜態を新聞紙上で批判するエセ学者も含め、誰一人、低線量放射線被曝が長期的に人体に及ぼす放射線医学、細胞生物学、免疫学的な科学的データーに基づく賛否論が、ひとつも提起されなかった。
政府が盲信しているだけの国際放射線防護委員会(ICRP)の基準地そのものへの科学的データーに基づく検証を踏まえた賛否両論が全くなされないのは、今回の京都五山の送り火薪騒動だけではない。その根底には、放射能の人体への影響も含めた原子力産業情報が全く出てこない点が、その根っこにあるとしても、一般市民からその問題を科学的に解明しようとする動き全く生まれてこないのは致命的な誤りである。
【後藤政志氏】:「これは、基本的には核技術と関連かあると、私は思っております。でしすから設計情報も、直接は出さないようにしてきているんですよね。そうすると、自然と秘密主義になってくるんですよね。それは、公開の原則から言ってもいけない事なのですけれども、技術の安全の面から見ても、情報共有がしにくくなる(という点からも良くない事)なんですよね。(こうした秘密主義の傾向は)非常に危険なわけなんですよね。私自身も現役の時に、こうした重大事故、シビアアクシデントと申しますけれども、こういう設計条件を越えた、炉心が溶融するというような事故の時の対策として、格納容器というものがありますので、そういう面では議論はしていたのですが。やはり、そういう議論というのは、現場の技術者同士で素直に出来るか、って言いますと、なかなかそうではないんですよね。そういう(議論をする)ことは非常に難しいんですよね。ある分野ではそうした議論はやっていても、チョット離れた分野では、そうした重大事故、シビアアクシデントの事柄は全く関係が無くなってしまうのですよね」
【小出五郎】:「なぜ、そういうことになるのでしょうか?」
【テロップ】:原子力技術 分業と縦割り
【後藤政志氏】:「それはですね‥‥良くは解りませんが‥‥一つには分業がハッキリしている事がその理由ですよね。『私の職掌は格納容器です。後はこうです』っていうのがあって、そこの職掌の中に入ったことはやっても、自分の職掌の中には入ってこない事はやらない」[◆註:46]
[◆註:46]原子力技術に限らず、現在の我が国では、あらゆる分野、あらゆる職種において、「分業と縦割り」が深刻化つつある。専門領域の中ですら、更により細かな専門領域へと細分化され、個別の専門者と称する者たちは、自分がしている仕事の持つ全体的意味や問題点を鳥瞰できない、あるいは、全体的な意味や問題点を敢えて自らの思考領域から放逐してしまうような状況が、ますます深刻化しつつある。
【小出五郎】:「他の人の事はやらない‥‥ですね」
【後藤政志氏】:「ええ。触れると怒られるんですよ。『越権行だ』って言われましてね。私もちょっとビックリしたんですけれども、若干。そういう風潮なんですよね。他の分野に踏み込むってことは、差し控えるっていう‥‥そういう傾向がございます」
【小出五郎】:「ええ。確かに縦割りという事は日本では徹底していますから、お互いの事はあまり言わないで、それぞれ頑張って努力していますよ‥‥ってことで、お互いあまり干渉もしませんしね」
【後藤政志氏】:「昔は、そうではなかったんですよね。私の場合は、『昔』っていうのは、原子力に入る前だったのですけれども、技術者同士っていうのは、境界はありましたけれども、相手が何を考えているか、っていうことを踏み込んで、違った技術者同士の交流が相互に結構あったんですよね。だんだんそれが薄れてきている、っていう傾向があると思いますね」
【テロップ】:科学ジャーナリスト 小出五郎さん
【テロップ】:”原子力村”
【小出五郎】:「いろいろな(原発に関する)情報が(海外から日本へ)来たけれど、それが生かされなかった。技術設計というプラントのみならず、原子力を推進すること全体に関わってくる問題であって、これは、私はよく言う『原子力村』っていう言い方と非常に深く関わっているんじゃないかと、私は思うんですよね」
【後藤政志氏】:「ええ‥‥はい。」
【小出五郎】:「私は『原子力村』っていうのは五角形の形をしていると思うのですが。それを私は『原子力村のペンタゴン』って言っているのですが、官庁ですよね、それから政治家、そして企業とその労働組合、それから学者、それとメディア。今申しました、これら5つのものを頂点とする五角形で、それがお互いに、こう繋がっていて。日本の大きなプロジェクトといいますと、結構、みんなこの『原子力村のペンタゴン』と同じ様な構造をしていて、非常に効率が良いというようなことになっていますけど。しかし、村というのは、一つの特質があって、村には必ず一つの習わし、というのがあって、これが『長い者には巻かれろ』っていう起きてで、それはあまりこう議論をしないで、阿吽の呼吸で進めて行く‥‥っていうような事ですよね。
更に、村の中で批判がありますと、『村八分』っていうものがありまして、その村の外に追い出しちゃう。すると、あまり議論をしないっていう雰囲気があって、阿吽の呼吸で進め、批判者は村の外に追い出しちゃうっていう、そういう構造っていうのが、『原子力村』にもあるし、他の構造にもあるわけですけれども。そういった構造自体が、縦割りを徹底させていくっていうのが、やはり進んで行ったのではないか、っていう気がするんですけれども」
【テロップ】:原子力とタブー
【後藤政志氏】:「はい。はい。そうですね、そういう意味では、『縦割り分業』というだけではなくって、原子力の場合は、非常にタブーが多い訳なんですよね。例えば、私の場合でしたら、格納容器を設計するっていう場合、格納容器が壊れるっていうことが、正面に出ちゃいけないんですよね。そういう表現はしないんですよね。そういうデーターは出来るだけ出さない、っていうようなことが、原子力界では常識なんですよね。自然とそうなってきているんですね。それで、それを言うって言うというのは、結構憚れるという所がございまして。例えば、論文ひとつ出す場合にしても、そういうように結構気を使って出すんですよね。これが壊れるっていうような事が、表に出にくいっていうか‥‥あまりそういうことが外に出ないように配慮する。そういう傾向があるんですよね。
それは、基本的な技術のあり方としては、非常に不幸な状態、危ない状態になるわけなんですよね。つまり、本質的な問題がお互いに共有出来ない、っていう事ですから。それが、最初は、それ程目立っていなかったのですけれど、長い間、そういことをやっている間に、体質がある種の秘密体質がですか、そういうものが出来てしまって、それが自らが自分たち自身が、本当は安全だとは思ってはいなかったのですが、それが安全だと思って勘違いしてしまうような、そんな風に動いちゃったんではないか‥‥って、私は思っていますね」
【小出五郎】:「メディアが、私もその中で働いてきていて、原子力村の構造の中で、ある意味では私も、それに荷担してきてしまっていたような所が完全になかったのか?って言われると、私も忸怩たる思いが無い訳ではないのですが‥‥。いろいろと問題点は指摘してきていた積もりだったけれども、それでも、やっぱり、そういう気がするわけなんですけれども。中に入っていらっしゃる技術者の方にも、やはりような思いっていうのはあるのでしょうか?」
【後藤政志氏】:「いや、その意味では、私なんかは、ある期間でしたけれども、その中にいた人間ですからね、その意味では責任がある、技術者として、ものすごく責任が重たいと思ってます。ですから、技術者としては自分の知っている事はキチンと言わなくてはいけない、っていう思いはあります」
【小出五郎】:「あの、もう一つ、ベントの問題があるのですけど。アメリカの方でもベントを付けるんだ、っていう事で問題を決着させたみたいに見えますけれども、日本も同じ装置をマークIに付けたんですよね?」
【テロップ】:格納容器とベント
【後藤政志氏】:「ええ。マークIに限らずですね、基本的には格納容器はベントせざろうを得ない、っていう事、圧力が上がった時に(炉心本体が)壊れてしまうから、って言う事なんですけれども。これは私は担当していて、実はビックリしたんですけれども、格納容器は放射能を外に出さない為に設計した訳なんですよね。それが、圧力が上がったからと言って、ベントをするっていう事は、放射能を外(環境中)に出す訳ですからね。これは、格納容器をやってきた人間にとっては、非常に自己矛盾なわけです。
何の為にそれ(格納容器の設計)をやっているのか?しかし、そういう事故シークエンスがあるって言うことで付けるっていうんですが、付けるっていう事は放射能を出しますから、当然、フィルターを付けると思うんですよね。で、実際に(ファイルターを付ける事を)検討してた。どういうフィルターがあるか、って検討していました。ですから結果としては、少なくともメーカーの中では、そういう議論をしていたのですけれども、結果はフィルターは付けなかった、という事なんですよね。フィルターを付けるとすれば、それは非常に大型になるんですよね。普通の小さいものじゃないんです」
【小出五郎】:「放射性物質を防ぐフィルターの場合ですか?」
【後藤政志氏】:「ええ。ものすごく大型の、ですから面積も非常に広いものなんですよね。それでは外から見ても目立つ、ということもありますし、金額もかかるっていうようなことで、それで、電力会社はそれ(フィルター)は付けない、っていう方針を取ったという次第なんですね。それは、原子力安全委員会の方で、そういう事故は起こり得ない、って言っている訳ですから、それを義務化してないわけなんですよね。ですからフィルターを付けなくても良いわけなんですよね。
(ベントやフィイルターは付けるとしても)あくまでも自主的なものなのですから、電力会社が自主的にベントは付けたけれどフィルターは付けない、っていう選択を電力会社はしたわけなんですよね。そういう関係にあったんですね。だから、その関係については、今更ですが、私もこうなるとは思わなかったんですね。非常に心が痛いんですね。もし、(フィルターを)付けていたら、(ベントよる放射性物質の被害は)若干は緩和されていたと思われますので」
【小出五郎】:「しかし、今回のベントを開くという事だけでも、非常に手間取りましたよね」
【後藤政志氏】:「はい。それが普通はですね、あそこには少なくとも最低でも2つのバルブを開かないと(外部へ炉心内の放射性物質は)出ないのですけれども、一つめはやっと一部が開いたのですけれども、二つ目がなかなか開かなくって大変だったみたいですね。で、結果としては、コンプレッサーか何かを持って行って、開いたんですけれど。あれは、普通のシステムですと、あそこの部分は、もし開かなくって爆発して問題になるっていう事は(生じ)無いように、それこそ多重化してですね、『これが開かなかった場合には、(全く別の方法の)これで(開く)‥‥ていうふうにバックアップするわけですよね。ですけど、過酷事故対策っていうのは、ある面では本気じゃないんですよ」
【テロップ】:信頼性の低い安全対策 設備
【後藤政志氏】:「絶対起きない、って思ってますからね。真面目にやってない。信頼性の高いものになってないんですよね。ですから他の、プラントの中にあるシステムとは(安全性や信頼性の)レベルが違うんですよね」
【小出五郎】:「起きない事の為に、一生懸命それを備える必要はないだろう‥‥ってことですね」
【後藤政志氏】:「ええ。そうです。ですから、今回のように、仮にあれ(ベント)が開かなくって、爆発してしまうっていう可能性も高かったんですね」[◆註:47]
[◆註:47]3・11の福島原発事故発生した瞬間から、こうした危機的な状況がほんの紙一重の差で起きずに済んだ事例は他にも多くある。原子炉のメカニズムを知っている者なら、設計限界を超える炉心の温度と圧力の異常上昇が続いていたあの時、薄氷を踏む思いであった。たまたまラッキーが重なってチェルノブイリのような炉心爆発にまでは至らなかっただけの話であるにも拘わらず、その結果を、逆手に取って、あれだけの事故を起こしても、あの程度で押さえ込めたのだから日本の原発技術はさすがに高い!といった馬鹿な評価を堂々と事故後発表する者まで現れる始末!
【後藤政志氏】:「(原子炉の安全対策といっても)そういう設計なのですね。ですから安全対策があるから安全が高められた、って言うのはですね、相対的には高くはなっているのですけれども、決して信頼性が高いものじゃない、って私は思っています」
【テロップ】:放射性物質と環境汚染
【小出五郎】:「現在の問題として、福島はまだ続いていて‥‥続いているって言うか、まだ更に大きくなる可能性もあって、環境汚染をどうするのか、更に除染をどうするのかという非常に大きな問題があるわけなんですけどね。そいういう事から考えていきますと、これから、どういうふうに原子炉、それから原子力の両方に向き合っていったら良いのか?その辺、後藤さんか一番重要だと考えていらっしゃる事は何でしょうか?」
【後藤政志氏】:「はい。私は、ます放射性物質の扱いが一番問題ですから。おっしゃる様に、それを隔離しなくちゃいけないわけですから。除染もそうですしね。ただ、除染というのは、そこ(汚染した物や場所)から、ただ放射性物質を(取り去る)だけの事であって、それ(除去した物)をまた最後には処理しなければならないんですよね」
【小出五郎】:「ええ、そうですよね。どこかに移動しただけでは問題の解決にはならないんですよね‥‥」
【後藤政志氏】:「ええ、(除去するというだけでは)単に移す事だけになるんですよね。よく有る事なのは、道路が汚染されたという場合、じゃぁ水を撒いて汚染物質を洗い流したら良い‥‥って言われますけど、水を撒いて汚染を除去してみても、その汚染物質が他に行くだけですよね。そうすると放射性物質は半減期が続く限りすっとある訳ですから、そういう(やっかいない)ものを扱っているんだ!っていう感覚が非常に重要で、それをどういうふうに処理していくかっていうことは、ずーっと課題として残るわけですよね。ですから、それを諦めちゃって、これから、そんなものが出てきちゃっても良いか、っていう、そんな事ではなくって、これから出さない様にして、今出たものを処理していくっていう事でしかないと思います」
【解説】:アメリカで原発に関わってきた技術者や研究者。彼らは福島の事故を受けて、原子力発電所の未来をどう見ているのか?1980年代に重大事故を想定してシュミレーションしたシェル・グリーンさん。
【テロップ】:オークリッジ国立研究所 原子炉研究部 シェル・グリーンさん
【シェル・グリーン氏】:「仕事の時に照明やエアコンが必要なけらば原子力はなくても構わない。原子力発電を推進すべきだと思います。マークIの原発の隣にも住めますよ。原発の建設費は高額ですが燃料費は安いので電力の生産コストはとても安い」[◆註:48]
[◆註:48]シェル・グリーン氏のような原発に関するこうしたコスト計算は、核燃料ウランの国際価格だけを考慮したもの。ウラン資源の枯渇は石油と同様で、やがてその価格も高騰する。使用済み核燃料の処理費用や事故対策費用なども含めると化石燃料よりもはるかにコストは高額となる。また原発もウラン採掘に始まって最終処理施設の稼働に至る全過程を通じて膨大な化石燃料(二酸化炭素)を排出する。安全に稼働しても大気や海水中に放射能を垂れ流し続け地球温暖化を加速させる。電力単価上から原発は最も高額になるデーターも数多く報告されている。次の世代どころか、子々孫々、何百万年、何億年にも渡って放射性物質を残すことになる。
【シェル・グリーン氏】:「10年から20年で建設費を払えば、そのあと原発で作られる電気はとても安価です。40年から60年あるいはもっと長い間、原発を安全に操業できれば、次の世代に安価な電力を引き継げます」
【解説】:1970年代に重大事故が起きた時にマークIの安全性に問題提起した元 GE 主任技術者のデール・ブライデンボウさん。
【テロップ】:元 GE 主任技術者 デール・ブライデンボウさん
【デール・ブライデンボウ氏】:「何が起きるのかを正確に予測できれば原子力をコントロールする事も可能です。しかし原発では1つが故障すると全てがダメになってしまう。だから予測する事は出来ない。原子力をやめて安全な代替エネルギーを使うようになってほしい」
【解説】:政府の研究期間で十年に渡って原発の安全性について研究してきたケネス・バジョロさん。
【テロップ】:元 サンディア国立研究所(工学博士) ケネス・バジョロさん
【ケネス・バジョロ氏】:「米国とNRCはスリーマイル島、チェルノブイリ、そして福島の事故のあとも、『原発を廃しするな』という不文律に従っているのではないか。しかしそれは間違っています。効率の悪い原発を廃止して、最新の原発に建て替えれば良い方向に向かいます。原子力はより安全で、よりコストをかけなくてはならない。我々はこれまでと違った視点で原子力について考えなければならない」
【小出五郎】:「今回、こうやって、いろいろ見てきた事から、いろいろ教訓を感じられるわけなんですけれども。こういう現実を踏まえて、ここからどう未来を考えていったら良いとお考えでしょうか?」
【後藤政志氏】:「ええ‥‥私は技術屋のはしくれなものですから、技術については、ある所、信頼しているところはあります。ただ未来に向けてですね、放射性物質を大量に残すような、そういうような技術はやはり宜しくない、選択しない方が良いと基本的に思っています。ですけれど、他にも選択肢があるわけなんですよね。例えば、エネルギーの問題で言えば、再生可能エネルギーというのは一つはあるわけですけれど、そのハードルは高いとは思います。エネルギー密度が小さいですからね。ですけれど、技術屋にとっては、一番チャレンジし得る、まさに絶好の機会なんですよね。それで、その技術力を日本は持っていると思いますね。技術屋は、それにチャレンジする精神は持っていると私は思います。それが、有る程度、ターゲットとして出てくれば、決して暗い未来とは私は思ってはいません」
【小出五郎】:「むしろ始まりであると‥‥」
【後藤政志氏】:「ええ、そうですよね」
【小出五郎】:「有り難うございました」
【解説】:日本では長く原発の安全神話が語られてきました。その安全の本質が今問われています。
~ 原発の安全性を脅かす問題は『想定を決めて想定外を無視する』こと。それが大きな過ちなのです ~
【テロップ】:資料提供
米国立公文書館
米原子力規制委員会
NBC
News Archives
WBGH
Media Liorary and Archives
国立国会図書館
東京電力
原子力安全委員会
NHKETV特集「アメリカから見た福島原発事故」2011年8月14日(日)放映
(その2)最終回
**転送転載歓迎**
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《パレスチナに平和を京都の会》
“Peace for Palestine” in Kyoto Movement(PPKM)
代表:諸留(モロトメ)能興(ヨシオキ)