アメリカ帝国崩壊の二つ目の序曲 - 米大統領選挙2016の開票を見ながら -

著者: 半澤健市 はんざわけんいち : 元金融機関勤務
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 トランプがクリントンに勝った。決まった瞬間、私のなかで爽快感と嫌悪感が交錯した。考えがまとまらないうちに正直な感想を書く。

 下品で、非知性的な、トランプが勝利した理由は何か。
それは、「ポピュリズムの勝利」である。ポピュリズムは悪いのか。ポピュリズムは民主制の重要な一面である。ポピュリズムにも「善い」ものと「悪い」ものの二種があるのだ。
一つの政党のなかにもあり、一人の候補者のなかにもある。

 されば善悪の区別は何によるのか。
現代アメリカの全構造を解明しているか。暴露しているか。対策を示しているか。
これがモノサシである。
現代アメリカの全構造とは何か。多国籍企業に従う権益集団が権力を握っている。世界中の庶民大衆は、彼らの利益を生み出す資源となっている。利益集団とは、「武器製造業者などの巨大企業・あらゆるテクノクラートの集団・真実を知らせぬマスメディア・金儲けに与するアカデミズム」の壮大な共同体である。それは「エスタブリッシュメント」とも「帝国」とも呼ばれている。19世紀から20世紀前半まで、この構造は「資本家階級と労働者階級」と呼ばれていた。分かりやすい図式だった。その境界がボヤけて、ノッペラボウに見えるのが現代資本主義のデザインである。

 その構造を解明し暴露するのにトランプは、例えば、TPPに反対しながら、外国労働者の不法入国を非難した。TPP反対は正論であるが、不法入国はカベ建設で防ぐ話ではない。社会主義者サンダースが若者の歓呼を浴びたのは、彼が米国資本主義の格差構造を批判し、公立大学学費の無料化・オバマケアの強化・15ドルの最低賃金、を政策に掲げたからである。

 改めて言う。対決の構図は「多国籍企業vs個人」である。この非対称的な構図は世界大の現象だ。クリントンは国民のためと言いながら企業利益集団を擁護した。トランプとサンダースは彼女に反対して個人の利益を擁護した。クリントンは、形式化した偽善的な現スタイルの資本主義を持続させるのが、アメリカの国益だと述べた。トランプとサンダースは、ナショナリズムと所得再配分が個人の利益であり国益でもあると述べた。トランプのナショナリズムは偏狭で独善的である。サンダースは最終段階でクリントン支援に回り熱狂的な若者の失望を招いた。
論争は、国内問題に傾斜したうえ泥仕合になった。そのため、安全保障や国際経済という総じて外交に関する論議は断片的であった。

 トランプの勝利は、世界企業対個人の戦いに、小さな風穴を開けた。
しかし、これから利益集団の反撃が始まろう。トランプの自発的な軌道修正も起こるだろう。それは、ナショナリズムを強調し、商業ディール的な政治を進めることになるだろう。
「米大統領選挙2016」は、「2001/9/11」と並ぶ大きな事件である。
未来の歴史家は、アメリカ帝国の終焉の二つ目の里程標だったと記すことになるだろう。

 安倍政権は、アメリカ帝国に地獄の底まで付き従うつもりであった。それは変わりそうもない。我々は日本の自立を求める機会を掴んだ。安倍晋三内閣を倒す絶好の状況を逃してはならない。(2016/11/08・午後5時記す)

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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