アーダルベルト・シュティフター他(新井裕・篠原敏昭ほか訳)『ウィーンとウィーン人』(中央大学出版部、2012年)の紹介

 19世紀前半のウィーンを舞台にして書かれた、1840年代ヨーロッパの民衆文化・生活習俗・生業・風俗誌です。「小間使い」「物乞い」「ロトくじ狂」「ぼろ集めの女」「行商人」「ソーセージ屋」などなど、同時代人の記述です。索引や年表まで含めると1000頁になります。私のようにVormaerz(19世紀前半のドイツ三月革命前夜)を専攻したものにはなによりの史料ですが、題材が題材ですので、一般の読者諸氏には興味あるところからコマ切れに読み継いでいけます。以下に「解題および解説」から原著作者の編集意図を引用しておきます。

 編者の意図は「まえがき」のなかに示されている。「この首都特有のさまざまな場面を万華鏡のように、厳粛かつ愉快にスケッチする」ことが本書の目的である、と。シュティフターはウィーンという大都市が持つ「何かしらひどく厳粛な面」と「何かしら滑稽な面」の両面を提示しようとし、そのために「最上層の人物たち」も「最下層の人物たち」も登場させることを予告する。「最上層」とは「ダンディ、学者、芸術家、政治家、金利生活者、貴族、富裕な商人」などであり、「最下層」とは「物乞い、大道芸人、手回しオルガン弾き、辻馬車の御者、日雇い、靴屋の小僧」などである。したがって、そこには低俗な「居酒屋や料理店」と並んで高雅な「サロンや私営庭園」も、「民衆の祝祭」だけでなく、「富裕な人たちの舞踏会」も、「孤独の感情」とともに「群集の歓喜と歓声」も、「享楽追求の軽薄な躍動」に加えて「世界史的な行為」もまた描かれるはずである。このようにして「実際の人生そのもののように色とりどりに人生を示すこと」を編者はもくろんだのである。(971頁)

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