オバマ米大統領に対し米国民の審判が下される11月2日の中間選挙が近づいてきた。10%近い失業率がちっとも改善せず景気回復も遅れているところへ、ティー・パーティーなどの右翼バネが利いているアメリカの底流から見て、オバマ民主党の敗色濃厚というた予測が高い。とりわけ435の全議席が改選される連邦下院では、野党共和党が過半数を奪回しそうな雲行きで、オバマ政権もねじれ議会に悩まされることになりそうだ。政権内では中間選挙の敗北を見越したと思われる人事の動きが、早くも始まっている。
中間選挙とは、4年ごとの閏年に行われる大統領選挙の中間の年に行われる、連邦議員や州知事の選挙である。全米50州に人口比で割り当てられる任期2年の下院議員は全員が改選の対象だ。人口に関係なく各州から2人ずつ選ばれる任期6年の上院議員(定数100)は、2年ごと3分の1が改選される。今年は補欠選挙を含め上院議員37人が改選の対象となっている。中間選挙は現職大統領の2年間の治世に国民が審判を下す機会とされ、これまでの前例では大統領の与党に厳しい結果が出ることが多かった。
本ブログ11月2日のエントリーで紹介したように、アメリカ政治の底流では極右のティー・パーティーが急速に人気を集め、それが2008年大統領選で敗れた共和党にカムバックを促す伏線になっている。2年前の今頃“Change, We can!”「私たちは(アメリカを)変革できるんだ」と叫んで、オバマ大統領を実現させた熱気は消えてしまった。挫折感の漂う民主党支持者を尻目に、poor white (貧しい白人)を中心とする、政府にも国連にも頼らず自存自衛して生きるというアメリカ開拓精神が蘇った。
オレゴン州マウント・バーナン在住のマクレーン末子さんが「日刊ベリタ」(http://www.nikkanberita.com/)で紹介しているアメリカ的保守本流の姿はこうだ。
<(米北西部、太平洋に接する)オレゴン州北東部のグラント郡マウント・バーナンは人口550人の田舎町だ。その町の道端に大きな立て看板「UNフリーゾーン 国連立ち入り禁止」があった。その看板を自宅前に出しているのはデービッド・トレーラーさん。海兵隊出身。現在は鍛冶屋の仕事をしたり、海軍、空軍出身の友人と棺桶を作っている。グラント郡はオレゴン州で初めて国連立ち入り禁止条例を法制化した。>
<2002年5月、人口7800人のオレゴン郡は有権者4700人の賛成投票で「UNフリーゾーン」を法制化した。「UNフリーゾーン」とは、州、郡、市、町など国連の権威から独立することを宣言した地域を指す。この地域の住民の大半は、3世代以上にわたって森林伐採や農業を続けている。自分たちの土地は自分たちで守るという強い信念がある。住民の多くが条例に賛成したのには、自分たちの土地が国連世界遺産や生物圏保護区に指定されるのではないか、ひいては個人の土地にも大きな規制がひかれるのではないか、という恐れからだった。>
<「大きな政府はいらない。郡レベルで十分」とトレーラーさんは言う。これは昨年から全米で広がっているティー・パーティー運動の主張である。自分の土地は自分で守る。自分が築いた財産を自分で使う、どこが悪いのか。なぜ他人のために税金を払わなければならないのか。なぜ国民健康皆保険が必要なのか。>
<全米で白人の占める割合は66%。しかしグラント郡のような地方では9割以上がWASP(白人でアングロサクソン、プロテスタント)と呼ばれる保守系の白人である。郡ベルレの小さな政府の下で、よそ者を排し同じ価値観を持つ白人ユートピアを築こうとしているようだ。>(引用終わり)
さて大方のアメリカ選挙専門家の予測では、2008年の大統領選挙と同時に行われた連邦下院選挙で大勝した民主党は、今度の中間選挙で敗北必至の情勢だという。現在の下院の議席配分は民主党253対共和党178と、民主党が絶対過半数を握っている。しかし40議席が移動すれば、たちどころに共和党が多数派になれる。2年前70%を超える支持率を確保していたオバマ氏の支持率は45%程度に低下している。2年前にはティー・パーティーなどは影も形もなかった。21世紀の今日、時勢の変化は速い。
こうした中でオバマ・ホワイトハウスを支えてきた要人が次々と辞任を表明している。大統領首席補佐官のラーム・エマニュエル氏が来春のシカゴ市長選立候補のため辞任。国家安全保障担当の大統領補佐官ジェームズ・ジョーンズ提督が辞任表明。さらにオバマ政権の経済政策を仕切ってきた国家経済会議のローレンス・サマーズ委員長、経済諮問委員会のクリスティーナ・ローマー委員長、行政管理予算局のピーター・オルザグ委員長の3人が年内辞任の意思を明らかにした。おまけに大統領報道官のロバート・ギブズ氏、デービッド・アクセルロッド大統領上級顧問まで辞意を表明した。
「ネズミは危険を予知して難破船から事前に退避する」と言われているが、オバマ・ホワイトハウスは「難破船」と決まったわけではなかろう。エマニュエル首席補佐官はホワイトハウス入りする前は民主党下院の「ナンバー2」の地位にあり、ぺロシ下院議長の補佐役として腕を振るった。しかし向こう意気の強い性格で、民主党が下院多数派を握っている間は有能だが、共和党多数の下院では「物議を醸す」恐れがあると見られていた。エマニュエル氏の後任に任命されたピート・ラウジ氏はこれまで次席補佐官としてエマニュエル氏を支えてきた人物だが、母親が日系人であるせいか温厚な性格で、下院共和党人脈にも通じていることから、予想されるねじれ議会対策で格別な期待がかかっている。
国家安全保障担当大統領補佐官という職務は、米国がイラク、アフガン戦争からいかにうまく抜け出すかという戦略を決めるのに決定的なポストだ。米海兵隊総司令官からNATO軍総司令官という米軍人として最高の出世コースを経てホワイトハウス入りしたジョーンズ提督だったが、最大の課題だったアフガン戦争の出口戦略をまとめられないまま退陣することになった。エマニュエル補佐官、アクセルロッド上級顧問らオバマ側近文官グループとそりが合わず、辞表を叩きつけたようだ。
後任に指名されたトム・ドニロン氏はこれまで、国家安全保障担当次席補佐官としてジョーンズ大統領補佐官を支えてきた人物。オバマ政権は12月にアフガン政策の見直しを予定しており、ドニロン氏は白紙の状態から突然アフガン政策見直しの責任者に任命されたわけだ。ドニロン氏と言いラウジ氏と言い、これまで無名だった当局者がオバマ統領の苦境を脱する力になれるのかどうか、注目しよう。
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