話題になっているスティーブン・スピルバーグ監督の『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』を見た。知人から「這ってでも見た方がよい」と言われ、風邪で体調が悪かったが、それでも映画館に足を運んで見た。この映画はベトナム戦争が勝てない戦争であるにも関わらず、名誉ある撤退のために戦争をずるずる引き延ばしていた米軍の実態を暴く最高機密書類「ペンタゴン・ペーパーズ」が新聞社に持ち込まれたことに端を発する。
ニクソン政権が新聞社に圧力をかけ、記事を発表したら告発すると脅す。そんな中、ワシントンポストの社主キャサリン・グラハムとベン・ブラッドリー編集長が圧力を跳ね飛ばして印刷を決断するドラマである。
この映画は当時大統領だったニクソンが一見、敵のように見えるが、実はそうではない。主人公はメリル・ストリープが演じるキャサリン・グラハムであり、彼女にとって葛藤はペンタゴン・ペーパーズで批判されることになるのが以前、国防長官だったロバート・マクナマラだということにあった。マクナマラは民主党のジョン・F.ケネディ政権とリンドン・B.ジョンソン政権時代の国防長官である。ベトナム戦争は民主党政権時代に始まり、エスカレートした。まさにマクナマラこそ、ベトナム戦争の象徴だった。したがって、民主党寄りでケネディ政権とも仲間であったキャサリン・グラハムにとってマクナマラを批判することは身内を討つことに他ならなかった。だからこそ、彼女は葛藤にとらわれる。葛藤の中にはワシントンポストが折しも株式公開しようとしていた事情もあるのだが、むしろ、最大の問題は政治権力とお仲間だったことにある。スピルバーグはそのことを最も意識してメッセージにしている。だからこそ、ジャーナリズムに命を打ち込んできた編集長のベン・ブラッドリーが、かつてケネディ大統領と仲間だったことを語りながらも、「もうこういう時代は終わりだ」と告げるのである。この言葉が映画「ペンタゴン・ペーパーズ」のドラマの方向を変える鍵となっている。この言葉がキャサリン・グラハムの心の中に深く刻まれ、彼女を本物の新聞社主に変えていくのである。信頼を裏切ったのは政治家たちだったのだ。そして、映画の終わりに政治も報道も国民のために行うものであり、一部の人間のためにあるのではないことが示される。
政治権力と距離を保つ。キャサリン・グラハムの変化こそ、のちにニクソンを失墜させたウォーターゲ―ト事件の報道でワシントンポスト紙が報道史に名前を留めることになった要因なのだ。言うまでもなく、日本のマスメディアも同様である。政界・財界・メディア幹部は大抵お友達同士で互いになれ合っている。しばしば首相と会食までしている。その問題をスピルバーグは追及しているのだ。「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」でもキャサリン・グラハムがかつて国防長官だったマクナマラと会食しているシーンがある。
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』予告編
https://www.youtube.com/watch?time_continue=3&v=2U4EFcgF2Zs
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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