チェルノブイリとスウェーデン

 ストックホルムから160キロほど北にイェブレ(Gävle)というバルト海に面した町がある。1986年4月28日から29日にかけて、この地方に激しい雨が降った。その前日の27日、イェブレ市からほど近い場所にあるフォルスマルク原子力発電所では、突然放射線警報機が鳴り、原因不明の放射性物質が検出されたが、28日になってソ連当局はチェルノブイリ原発4号炉で26日に事故が発生したことを公表した。

 それから20年後、American Journal of Industrial Medicineが公表した報告書によれば、上記2日間の降雨によって、チェルノブイリから放出されたセシウム137の5%がスウェーデンに降り注ぎ、その影響で、同国における癌による死亡者数は1000人余計に増えたと推定され、この数は今後も増えると予想されている。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16421911

 また、全米経済研究所(NBER、マサチューセッツ州ケンブリッジ)が2007年に公表した報告書によれば、電離放射線を被曝した胎児は、従来安全と考えられていた放射線レベルであっても、認知能力に損傷を受けることが明らかになった。

http://www.nber.org/papers/w13347

 ストックホルムを拠点に活躍する政治ジャーナリスト、リット・ゴールドシュタインは数年前、イェブレ市から車で30分の距離にある美しい湖の湖畔の村で暮らしたが、まもなく、誰も湖の魚を食べようとせず、泳ごうとしないことに気づいた。2006年、スウェーデン国営テレビ(SVT)は、「チェルノブイリは今なお毎日イェブレに影響を与えている」という番組を放映し、野生の鳥獣類に放射能検査を行っていることや、地元の住民がかつては地元で採っていた野いちごやキノコを採るためにしばしば遠くへ出かけていることなどを伝えた。

 イェブレ市はチェルノブイリから1600キロ離れているが、日本列島のほとんどは福島から1600キロの範囲内に入っている。事故を起こした時、チェルノブイリの原発に存在した核燃料は約180トンで、その中にはプルトニウムは含まれていなかったが、フクシマにはプルトニウムを含めておよそ2000トンの核燃料が存在すると推定される。

以上、ゴールドシュタインの下記記事を参考にしました。

Ritt Goldstein, “Fukushima Radiation: Some Difficult Truths”

http://www.commondreams.org/view/2011/03/24

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1291:110329〕