ツワネ原則とは何か -知る権利と秘密保護-

「知る権利」と「秘密保護」は対立する。秘密主義の政府は暴走するので国民の監視が必要だ。このため、公的機関の情報はできるだけ公開するのが望ましい。情報公開法(1999年5月14日公布、2001年4月1日施行)は国民の知る権利を制度的に保障したものである。

しかし秘密にしなければならない情報もある。情報公開法第5条の「行政文書の開示義務」では、「不開示情報」として、(1)個人情報、(2)法人等情報、(3)国の安全等情報、(4)犯罪の予防等情報、(5)審議・検討・協議情報、(6)事務・事業情報が規定されている。個人的には、国民の知る権利を促進するため、不開示情報規定や部分開示規定を見直し、現行の方式よりさらに多くの情報を開示すべきだと思う。

国家の行為を国民が監視することができ、情報にアクセスすることができるようになれば、公務員の職権乱用を防ぐだけでなく、人々が国の方針決定に関与できるようになる。つまり情報へのアクセスは、真の国家安全保障、民主的参加、健全な政策決定の極めて重要な構成要素である。(ツワネ原則より引用)

ツワネ原則とは何か?
ツワネ原則(Tshwane Principles)とは、国家安全保障と情報への権利に関する国際原則のこと。英語の正式名称は、Global Principles on National Security and the Right to Information。

ツワネ原則は、「知る権利」と「秘密保護」という対立する2つの課題の両立を図るため、世界の22機関が草案し、70か国以上から500人を超える専門家と協議し、世界各地で14回の会合を経て、最終的に2013年6月12日、南アフリカのツワネで採択された。

南アフリカ共和国といえば、ヨハネスバーグやケープタウンはおなじみだが、ツワネはどこにあるのかしらん?そこでYAHOO!地図で確認したところ、ヨハネスバーグのすぐ近くにあった(北へ約50 km)。しかも驚いたことに、なんと、ツワネは南アフリカの首都プレトリアのことだった。プレトリア(Pretoria)=ツワネ(Tshwane)。南アフリカは首都機能をプレトリア(行政府)、ケープタウン(立法府)、ブルームフォンテーン(司法府)に分散させているが、各国の大使館がプレトリアにあることから、国を代表する首都はプレトリアとみてまちがいない。実際、YAHOO!地図でも首都を示す赤丸の記号を付けて プレトリア Pretoria (Tshwane) と表記している。

『現代用語の基礎知識2007』によると、プレトリア市議会は、2005年3月、首都名をアフリカ先住民の指導者の名にちなんだツワネに変更することを決めた。もともとプレトリアという都市名は、この地域から先住民ズールー族を排除して建都したアフリカーナー(ボーア人)の指導者プレトリウスにちなむもので、この首都名変更は、「白人による抑圧と差別といったおぞましい過去との決別」という趣旨で行われたという。

ツワネ原則には全部で50の原則が示されている。ここではその一部を紹介する。詳しくは、日本弁護士連合会の英文と和文を対比した翻訳版を参照してください。
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/statement/data/2013/tshwane.pdf

Principle 1: Right to Information
原則1 : 情報に対する権利

(a) Everyone has the right to seek, receive, use, and impart information held by or on behalf of public authorities, or to which public authorities are entitled by law to have access.

(a) 何人も、公権力により、あるいは公権力のために保有された情報、又は公権力が法によりアクセスする権利をもつ情報を求め、受け取り、使用し、伝達する権利を有する。

要約すれば、「誰もが公的機関の情報にアクセスする権利(=知る権利)を持っている」ということ。

Principle 3: Requirements for Restricting the Right to Information on National Security Grounds
原則3 : 国家安全保障上の理由に基づいた情報に対する権利の制限のための要件

No restriction on the right to information on national security grounds may be imposed unless the government can demonstrate that: (1) the restriction (a) is prescribed by law and (b) is necessary in a democratic society (c) to protect a legitimate national security interest; and (2) the law provides for adequate safeguards against abuse, including prompt, full, accessible, and effective scrutiny of the validity of the restriction by an independent oversight authority and full review by the courts.

政府が、その情報の制限が、(1)(a)法に基づき、且つ(b)民主主義社会において必要であり(c)国家安全保障上の正当な利益を保護するためであると明示することができない場合、また(2)情報制限の妥当性についての独立監視機関による、そして裁判所の全面的検討による、速やかで、十全で、アクセス可能で、且つ効果的な調査を含む、職権乱用を十分に阻止するための規定を示すことができない場合は、いかなる国家安全保障上の理由に基づく情報への権利制限もできない。

わかりやすく要約すれば、「国の安全保障を根拠に、政府が国民の知る権利を制限(=秘密保護)する場合、政府はその正当性を証明する責務がある」ということ。正当性を証明できない場合は、知る権利を制限できない。

特定秘密保護法が2013年12月6日夜に再開された参院本会議で、自民、公明両党の賛成多数で可決、成立し、12月13日に公布された。公布から1年以内に施行される。

特定秘密保護法の最大の欠陥は、すべての情報にアクセスできる独立した監視機関の規定がないことだ。当初、特定秘密保護法の政府原案には監視機関の規定はまったくなく、自民、公明両党と日本維新の会、みんなの党の4党は特定秘密保護法の修正協議で、同法付則9条に「独立した公正な立場で検証、監察する新機関」の検討を加えた。菅義偉官房長官は12月5日の参院国家安全保障特別委員会で、20人規模の情報保全監察室を内閣府に新設すると表明した。しかし内閣府に新設する監察機関が「独立した公正な立場で」秘密を監察することはできない。行政の仕事を行政機関がチェックするということは、自分の仕事を自分でチェックすることに等しい。新法は国際原則から逸脱した欠陥の多い法律である。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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