このHPでは自然エネルギー発電に対して、ごく常識的な科学的な判断として、とても電力供給技術として大規模に導入することには科学的に合理性が無い、あるいは技術的に無理だと述べてきました。
ところが、自然エネルギー発電を導入しようという人たちは欧州の事例を紹介しながら、日本でも自然エネルギー発電電力に対する高額固定価格買い取り制度さえ整備すれば供給電力の大部分を自然エネルギーで供給できると主張しています。
勿論欧州と日本では自然環境が異なりますが、だからといって欧州では自然エネルギー発電が合理的に成立する技術だとは到底思えませんでした。どんな『魔法』があるのか、多少興味がありましたが、これまではあまり積極的には調べていませんでした。
福島第一原発事故以降、日本でもやっと脱原発の動きが活発になってきたことは歓迎すべきことなのですが、同時に非科学的な脱原発運動の中から短絡的な自然エネルギー導入を求める声が大きくなりつつあるのは非常に困った状況です。そこで、No.618『電力固定価格買取制度の失敗』で彼らが範とする欧州の状況をドイツとスペインについて少し報告しました。その結果、やはり魔法は無く、自然エネルギー発電はとても使い物にはなっていないことがわかりました。
今回はその続編として、既に自国の全電力消費量の20%を自然エネルギー発電、特に風力発電で賄っているという、日本では自然エネルギー導入の優等生と目されている北欧デンマークの実態について報告することにします。
まず、“National Wind Watch”のHP(http://www.wind-watch.org/)の“Key Documents”のレポート“A Problem With Wind Power:Eric Rosenbloom . September 5, 2006”からⅠ章の抄訳を紹介します。詳しくは原本をご覧ください。
●1998年、ノルウェーは、デンマークでの風力発電について研究し「重大な環境に対する影響、発電能力不足、製造コストが高い」と結論した。
●デンマーク(人口530万人)は、2002年に使用した電力の19%に当たる電力を発電した6,000個以上の風車がある。しかし、風力発電の不安定性を補い、電力需要を満たすために従来型発電所は全能力で運転しなければならないため、従来型発電所は全く止められていない。風力発電出力の乱高下は汚染と二酸化炭素の放出を増加させる。
●風車にとって風が良好な場合には、電力供給が過剰となり、他国に非常に安い価格で販売するかあるいは発電を止めなければならない。
●2003年に西デンマークの風力発電の84%が輸出された。つまり、デンマークの風力発電は自国の電力需要の3.3%を賄ったに過ぎない。【The Utilities Journal (David J. White, “Danish Wind: Too Good To Be True?,” July 2004)】
●1999年は、風力発電はデンマークの総電力需要のわずか1.7%を賄ったに過ぎない。【The Wall Street Journal Europe】
●風力発電の大量の自家消費分の電力は考慮されていない。
●2004年は、風力発電の総発電量の70.3%を輸出した。【In Weekendavisen(Nov. 4, 2005)】
●デンマークは風が吹いていないときに必要な電気を輸入しなければならないという意味において風力に十分依存してる。
●2000年は、デンマークは輸出した電力よりも多くの電力を購入した。風力発電建設補助金を含んだデンマークの電力は欧州で最も高い。
●全欧州における風力発電の定格出力に対する平均設備利用率は20%未満である。【The head of Xcel Energy in the U.S., Wayne Brunetti】
● デンマークの風力発電の設備利用率は、16.8%(2002年)、19%(2003年)でした。
●イギリスの沿岸風力発電の設備利用率は24.1%(2003年)でした。
●ドイツの平均設備利用率は14.7%(1998-2003年平均)でした。
●米国の平均設備利用率は、12.7%(2002年)でした。
●風が強すぎると風車が壊れるので運転できない。昆虫の死骸によって最大出力が半分になる。洋上風力発電ではブレードに付着した塩によって20~30%の出力低下となる。
●多くの風力発電装置を送電線網に接続する場合の技術的問題:
風力発電電力は非常に激しく変動するので変動を相殺するために付加的な通常発電装置による予備電源が必要;冷暖房高需要期と風力発電能力の低い時期が重なる;発電電力の予測が困難;送電線網に高電圧、超高電圧への対応が求められる;風力発電の増大で送電線網が不安定化する。【Eon Netz(ドイツ第3の送電線運営者),“Wind Report”(2004年)】
●「風力発電は代替ではなく、エネルギーの供給を“増加”させることになる」と言っている【Country Guardian:英国の環境保護団体】。もし風力発電が従来のエネルギーの使用を減らすことが出来ないのならば、単に風力発電装置の製造、輸送、建築のために汚いエネルギーの使用を増大させるだけである。
レポートの内容から、風力発電電力が予測不可能の激しい変動をするという特性についての評価は、当然のことですがこれまでこのHPで述べてきた通りで特に目新しい情報はありません。Eon Netzの報告から、ドイツでも送電線網に多数の風力発電を連携させることは、送電線網を不安定にしており、この問題を本質的に解決するような技術(魔法?)は存在しないと考えてよいでしょう。
このHPでは風力発電装置は既存の火力発電に比較して単位発電電力あたりの発電設備が飛躍的に大きくなると再三述べてきました。つまり、Country Guardianが述べている通り『風力発電装置の製造、輸送、建築のために汚いエネルギーの使用を増大させる』のです。
風力発電の持つ本質的な技術的問題はデンマークでも解決できていないことがわかりました。ではなぜ、デンマークでは消費電力の20%もの電気を風力発電で賄えるのか?それは技術で解決したのではなく、帳簿上の数字の魔法だったようです。
デンマークは小さな国なので、不安定な風力発電電力を国内の小さな送電線網のなかでは処理しきれないので、欧州の巨大電力市場に販売します。レポートによると西デンマークの風力発電の84%(2003年)、デンマークの総風力発電量の70.3%(2004年)が海外に販売されています。その代わりに、デンマークは海外に輸出した風力発電電力よりも多くの安定電力を購入しているのです。
これがデンマークの高い風力発電電力比率を成立させる魔法だったのです。つまり、デンマークでは電力消費量の20%に見合う量の風力発電電力を一応発電していますが、国内で変動を処理できない8割程度は海外に廉価で販売し、その代わりに安定電力を購入して自国用に消費しているのです!
その結果、デンマーク国内の電力需要に対して実質的に風力発電が賄っているのは1.7%(1999年)~3.3%(2003年)にすぎないのです。レポートによると、デンマーク国内の既存の火力発電はこのわずかな風力発電の変動を相殺するためにフル稼働しているというわけです。
菅民主党を筆頭とする我が国の無責任な政党は、こうした欧州における自然エネルギー発電の実態を科学的に冷静に分析することなく、自然エネルギー発電は無条件によいものだという思い込みで導入しようとしている愚か者なのでしょうか?それとも、実態を知りつつ、官僚やメーカーと結託してポスト原発の巨大利権構造として刹那的な利益を享受しようとしているのでしょうか?いずれにしてもわれわれ国民から法外な電気料金あるいは税金を掠め取ろうとしている彼らの行為を私たちは今度は許してはならないのではないでしょうか?
「『環境問題』を考える」 http://www.env01.net/ より転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1482:110626〕