年末に当たり、自己流で今年の世界10大ニュースを選んでみたら、以下のようなランキングになった。
1 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故
2 アラブの春でエジプトなどの独裁政権崩壊
3 欧州財政危機 ユーロ不安高まる
4 中国の軍事大国化進み、米は中国包囲網の構え
5 ウサマ・ビンラディン殺害 アフガン14年末撤兵へ
6 金正日の死亡 朝鮮半島情勢不透明化
7 米軍のイラク戦争終結
8 プーチン、オバマの人気低落
9 リビアの独裁者カダフィ惨殺
10 IT革命の天才児スティーブ・ジョブズ死亡
1)3月11日に起きた東日本大震災と津波は世界の自然災害史上でも稀な大天災だったが、東京電力福島第1原発の事故は米スリーマイル島原発事故(1978年)、旧ソ連チェルノブイリ原発事故(1986年)を上回る大人災となった。放射性物質の大量流失や事後処理の困難度などから、当初軽視していた日本政府も原発事故の重大性を示す世界基準最高度のレベル7に指定せざるを得なくなった。日本の国内ニュースとしては文句なしにトップだが、世界ニュースの観点からもトップニュースに推すべきと判断した。ちなみに米AP通信は、2011年12月27日10大ニュースの2位に指定している。
2)チュニジアに端を発したアラブの独裁政権に対する抗議運動は、ツイッターやフェイスブックなどインターネットによる交流手段を通じて、あっという間にアラブ諸国の民衆の間に広がった。アラブ諸国では30年、40年も続いた独裁政権が民衆の不満を抑え込んできたが2011年、突如として「アラブの春」に目覚めた民衆は弾圧に抗して粘り強い抗議行動を続けた。チュニジアのベンアリ政権は1月、エジプトのムバラク政権は2月、リビアではカダフィ政権が10月に崩壊した。イエメンではサレハ大統領がようやく条件付き退陣に同意、シリアでは3月から5000人の死者を出した反政府抗議運動が越年した。
インターネットを通じた抗議運動の展開という点では、富の格差拡大に抗議するために貧しい99%が決起したという「ウォール街を占拠せよ」運動の拡大・持続に同じ傾向が見られた。
3)ギリシャを始めとする欧州共同体(EU)加盟南欧諸国の財政危機は、あっという間にEUの共通通貨ユーロの弱体化を招いた。為替市場はこれに引きづられてスイス・フランと日本円が猛烈に買われ、空前のスイス・フラン高、円高が続いている。もともとユーロは加盟17カ国の金融政策を一本化しながら、財政政策は各国の自主判断に任せるという構造的矛盾を抱えていた。アメリカ系の格付け会社にギリシャ、スペイン、ポルトガル、イタリアなどの無責任財政を突かれ、これまたアメリカ系投機筋の売りを浴びて各国の国債は暴落、国債を大量に抱えた欧州の銀行の信用危機が拡大した。ドイツ、フランスを先頭とするEU首脳陣は財政政策の基準化を目指してEU基本条約の改定にまで踏み込もうとしているが、英国の反対もあって先行きは定かではない。ドル安が続く中でのユーロ安という想定外の国際通貨危機は越年する。
4)昨年日本を抜いてGDP世界第2位となり、高度成長を続けて経済大国化した中国はひたすら軍事大国化の道を歩んでいる。かつては膨大な陸軍を擁し共産党政権を守る中核だった人民解放軍は、海洋貿易と対外投資で膨張する国益を守るための軍隊に改変すべく、海・空軍力の増強に懸命だ。中国は南シナ海と東シナ海の大半を収める1992年領海法を盾に、世界最強の米国の海・空軍の接近を阻止する戦略を至上命題に掲げ、海・空軍の増強だけでなく将来の宇宙軍を目指して金に糸目はつけない方針だ。これに対して米オバマ政権はアジア太平洋への関与拡大を「最優先」とする新戦略を明らかにし、日本、韓国、シンガポール、豪州などの同盟国やパートナーに負担拡大を求め、また南シナ海で中国との領土紛争を抱える東南アジア諸国と連携しながら、新たな中国包囲網の構築に取り組んでいる。
5)ホワイトハウスが直接指揮した米海軍の特殊部隊は、現地時間5月1日未明パキスタンの首都に近い軍事都市アボタバードの隠れ家を急襲、米国の公敵ナンバーワンのウサマ・ビンラディンを殺害した。2001年9月1日の米中枢同時多発テロ攻撃を行ったとされるイスラム過激派テロ組織アルカイダの首領であるビンラディンを報復殺害したことにより、米国民一般は9・11の仇討が成就した感情を抱いた。この結果、アルカイダをかくまったタリバンを掃討する目的でブッシュ前政権が2001年に始めたアフガン戦争を続ける必要性は薄れ、米国など国際部隊は2014年末までに全面撤退することが決まった。
なお米中央情報局(CIA)の秘密作戦部隊は9月30日、イエメンで活動していた米国生まれの「アラビア半島のアルカイダ」指導者でイスラム法学者のアンワル・アウラキ師を無人機による爆撃で殺害した。アウラキ師は未遂に終わった対米テロ2件を企てた人物。
6)北朝鮮の最高指導者金正日国防委員長・労働党総書記が12月17日急死した結果、後継者に指名されていた3男金正恩大将(28)なる人物が、この国の最高権力を継承することになった。北朝鮮の国営メディアは挙げて、金王朝を築いた初代の金日成国家主席に似た風貌のこの青年を「英明な領導」「最高司令官」と持ち上げて、権力の継承が順調に進むかのように宣伝している。しかし後継者として公表されてから僅か1年3カ月。あまりにも経験の浅い首領が王朝3代目の血筋というだけで、食糧危機や経済困難に苦しんでいる国を率いていけるのか。もともと秘密主義で内情が不透明なこの国をめぐる問題はますます不透明になりそうだ。国境を接する中国に多くを依存せざるを得ない客観的条件の下で、中国に対する歴史的葛藤を抱える民族精神をどう調和させていくかを考えても、若い指導者には任が重いだろう。
7)ブッシュ前米大統領が、イラクのサダム・フセイン政権は①大量破壊兵器を隠している②同政権はアルカイダと秘密のつながりを持っている-との理由を掲げ、対テロ戦争の本番として2003年3月に始めたイラク戦争は、去る12月14日オバマ大統領が終戦を宣言して終わった。この9年近くの戦争は、独裁者フセイン大統領を処刑したものの大量破壊兵器は見つからず、アルカイダとの関係もなかったことが判明。1兆ドルもの戦費を使い米兵4500人、イラク市民11万5000人(推定)もの犠牲を払って得たものはマイナスばかりだ。民主的に選ばれたイラク政府は、多数派のイスラム教シーア派を通じて米国の宿敵イランの影響下にある。イラク全土に造った米軍基地を存続させ米軍を残留させ、中東における米覇権を維持しようとした米軍の目的は実現できなかった。米石油資本もイラクの石油資源への優遇を得られなかった。かくてイラク戦争は米国の大失敗だった。
8)2012年春に大統領復帰が確実視されてきたロシアのプーチン首相と与党「統一ロシア」の人気が急落した。12月初めに行われたロシア下院選挙で「統一ロシア」の得票率は4年前の64%から49%に落ちた。この得票率に不正があるとして抗議する大衆集会がモスクワなどで2回にわたって開かれ、「プーチンなきロシア」を叫ぶかつてない大規模の反政府デモが行われた。プーチン首相が来年3月の大統領選に立候補、08年からプーチン氏に代わって大統領を勤めてきたメドベージェフ氏が首相に回るとの「双頭体制」構想にロシア国民が反発したためだ。
2008年の米大統領選で圧勝した初の黒人オバマ大統領は、2010年ころまで60%台の高い支持率を得ていたが、「小さい政府」を掲げる超保守派のティーパーティー運動が猛威を振るった2010年の中間選挙で下院共和党が大勝して以来、支持率が40%台に落ちている。リーマン・ショック以来の米景気の低迷で、失業率が高止まりしていることが響いている。
9)リビアでカダフィ体制が崩壊したのは「アラブの春」の一環だが、リビアの場合は英、仏、米の欧米旧帝国主義勢力が軍事介入して、反政府勢力に加勢してカダフィ体制を追い詰めたという点で他の独裁崩壊の例とは異なる。旧植民地本国のフランス政府から庇護を受けていたチュニジアのベンアリ大統領が、1カ月近く続いた反政府デモの前に政権を投げ出してサウジに亡命したのは、フランスが独裁政権から民主化勢力への支持に切り替えたためだった。エジプトのムバラク政権が倒れたのも、長らく同政権を支えてきた米国が見限ったからである。これに対してカダフィ大佐の場合は、政権を獲得した1969年以来一貫して欧米の旧帝国主義勢力に敵対したという経歴が違う。OPEC(石油輸出国機構)を通じ欧米石油資本の独占体制を打破して産油国の収入を高め、その富を使ってパレスチナや第3世界を支援してきた。反帝闘争が高じて米国やフランスの民間航空機を空中で爆破するというテロ戦術にまで手を染めた。だから欧米諸国に嫌われて報復されたわけである。主観的には、彼は最期まで反帝革命の旗手のつもりだったろう。国外亡命の道を敢えて拒否して革命を続けたのに、結果は彼からすれば味方のはずの自国の若者に惨殺されたのだ。
10)10月5日、56歳でこの世を去った天才スティーブ・ジョブズ氏の若すぎる死については、IT音痴の筆者が語るまでもない。「すまほ」とはスマートフォンのことだと最近覚えてばかりの老人である。たまに上京して電車に乗ると、周りの老若男女がたいてい「すまほ」の表面を指でなぞっている。1年前までは、たいていの人が携帯電話のキーを押していたのに。日本の隅々、否世界の隅々まで拡がった、使いやすいIT機器を次々と生み出したスティーブ・ジョブズ氏の死は、世界に大きな衝撃を遺した。
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