トランプもNRA(全米ライフル協会)も「恥を知れ」。「ふざけるな」。

昨年(2017年)10月1日のラスベガス銃乱射事件での驚愕の思い冷めやらぬうちに、2月14日またまたフロリダ州の高校での大量殺人事件が起こった。ラスベガスでの犠牲者は58人、政府も政治もこの大事件に何らの対応策を打てないうちに、また17人の若い命が犠牲になった。明らかに、アメリカは病んでいる。

この事態に、現地から声が上がっている。2月17日の抗議集会でのことだ。伝えられているところでは、追悼集会ではなく、銃を規制しない政治家たちへの抗議集会の模様なのだ。鋭い発言をした高校生のエマ・ゴンザレの名が、話題となっている。

AFPは、こう伝えている。
「米南部フロリダ州で行われた反銃集会で、同州パークランド(Parkland)のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校(Marjory Stoneman Douglas High School)で14日発生した銃乱射事件の生存者である女子生徒が熱弁を振るい、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領と全米ライフル協会(NRA)の関係に辛辣な言葉を投げ掛けた。
 同校生徒のエマ・ゴンザレス(Emma Gonzalez)さんは、米大統領選でトランプ陣営がヒラリー・クリントン(Hilary Clinton)元国務長官に勝つためにNRAから数千万ドル(数十億円)の支援を受けた事実を攻撃し、『NRAから寄付金を受け取る全政治家、恥を知れ!』と発言し、集まった人々も『恥を知れ!』と繰り返した。

 同校の生徒や保護者、地元当局者が参加した集会で演説したゴンザレスさんは、『もし(トランプ)大統領が私に向かって、(今回の銃乱射事件は)恐ろしい悲劇だったけれど何の対策も行われないと言うならば、私は喜んで彼(トランプ大統領)にNRAからいくら献金を受け取ったのかと尋ねます」と述べ、次のように続けた。「でもそれはどうでもいいことです。私はもう知っていますから。3000万ドル(約32億円)です」
 そしてその金額を米国で今年これまでに起きた銃乱射事件の犠牲者の人数で割れば『1人の命の値段は幾らになるのでしょうか、トランプさん?』と問いかけた。
 このパワフルな演説はインターネット上ですぐに拡散し、ゴンザレスさんの名前はツイッター(Twitter)でトレンド入りした。」

CNN(ネット日本語版)の伝えるところは、もっと辛辣だ。
「事件現場に居合わせた同校3年生のエマ・ゴンザレスさんは演説で、連邦議会に銃乱射事件の発生を防ぐための法改正を強く求めた。
『大人たちは「これが現実」と言うのが習慣になっているかもしれない』『でも皆さんが行動を起こさなければ、人々は死に続けます』と訴え、銃規制に反対する全米ライフル協会(NRA)から献金を受け取っている政治家に『恥を知れ』と抗議した。また、銃規制を強化しても銃暴力は減らないと主張する政治家らを『ふざけるな』と非難した。

ゴンザレスさんに続いて、数百人の聴衆も『恥を知れ』『ふざけるな』と声を上げた。

集会の冒頭では、州上院議員のゲイリー・ファーマー氏が殺傷能力の高い銃や部品を禁止し、登録制度を強化する法改正を要求。学校の警備強化で対応しようとの案は「的外れ」だと批判し、警備が強化されれば銃を持った者が公園や教会で乱射するだけだと指摘した。

集会の参加者は『銃ではなく子どもたちを守れ』などと書いたプラカードを掲げ、銃規制に反対する議員を追放しようと気勢を上げた。」

**************************************************************************

『恥を知れ』『ふざけるな』と言われたトランプは、今回もだんまりのままだ。しかし、ラスベガス事件の前には、彼がなんと言っていたか。これも、AFPが明確に伝えている。

【2017年4月29日 AFP】ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は28日、ジョージア(Georgia)州アトランタ(Atlanta)で開かれた同国最大の銃ロビー団体「全米ライフル協会(NRA)」の年次総会で演説し、自身は同団体の「真の友人で擁護者」だと表明した。
NRAは米国の選挙に大きな影響力を持っており、共和党の候補者がその支持を得ようと競い合うことはよくあるが、現職大統領がNRAのメンバーに向け演説するのは異例。昨年の大統領選でNRAは早期からトランプ氏を支持していた。
大統領就任100日目の節目を翌日に控え、NRAの第146回年次総会に出席したトランプ氏は、ロナルド・レーガン(Ronald Reagan)元大統領以来、ほぼ35年ぶりに同総会で演説した現職大統領となったことを「誇りに思う」と表明した。
また、「米国民の大統領として、人々が銃を所持する権利は絶対に侵害しない」と宣言。銃乱射事件の頻発を受け銃規制強化を目指したバラク・オバマ(Barack Obama)前政権を念頭に、「過去8年間におよぶ修正憲法第二条(銃所持の権利保護を定めた合衆国憲法の条項)への攻撃は終わりを迎えた」と語った。

これが、トランプだ。銃の販売で儲けようというものの「真の友人で擁護者」なのだ。だから、高校生たちから、『恥を知れ』『ふざけるな』と言われるにふさわしいのだ。

**************************************************************************

「ビジネスインサイダー」というサイトの日本語版の転載だが、2018年に入ってから起きた、銃に関係する事件は以下のとおりだという。日付はいずれも、現地時間。
https://www.businessinsider.jp/post-162201
1月3日:ミシガン州で31歳の男が以前通っていた元小学校の駐車場で銃を使って自殺。
1月4日:シアトル郊外にあるニュー・スタート高校で銃撃。被弾したり、負傷した人はいなかった。
1月5日:アイオワ州フォレスト・シティで、ペレット・ガン(空気銃)の弾がスクールバスの窓を粉々に。通学のため多くの生徒が乗っていたが、負傷者はいなかった。
1月9日:アリゾナ州の小学校のトイレで、14歳の男子生徒が自殺。
1月10日:カリフォルニア州立大学の建物が被弾。負傷者なし。
1月10日:テキサス州にあるグレーソン大学の学生が、インストラクターの下で銃の訓練中に誤まって銃を発射。負傷者なし。
1月15日:テキサス州マーシャルの警察に深夜、ウィレイ大学で銃声が聞こえたとの通報が入った。学生寮の1つに流れ弾が当たったが、負傷者はいなかった。
1月20日:ノースカロライナ州で、ウィンストン・セーラム州立大学のフットボール選手がウェイクフォレスト大学で開かれたイベント中に撃たれて死亡。
1月22日:テキサス州にあるイタリー高校で、16歳の男子生徒が銃を撃ち、女子生徒が負傷。
1月22日:ルイジアナ州ニューオーリンズで、ネット・チャーター高校の前に集まった生徒の集団に向かって、何者かがピックアップトラックから銃撃。男子生徒が1人、負傷した。
1月23日:ケンタッキー州の15歳の高校生が銃を撃ち、2人が死亡し、17人が負傷した。
1月25日:アラバマ州にあるマーフィー高校の外で、16歳の少年が銃を乱射。負傷者はいなかった。
1月26日:ミネソタ州にあるディアボーン高校の駐車場で、バスケットボールの試合中、言い争う2人の人間に何者かが銃を発射。負傷者はいなかった。
1月31日:ペンシルベニア州フィラデルフィアにあるリンカーン高校の外で、バスケットボールの試合後、乱闘騒ぎの結果、銃が使用された。この騒ぎに関与した生徒はいない。1人が死亡。
2月1日:カリフォルニア州ロサンゼルスにあるサルヴァドール B. カストロ中学校で12歳の女子生徒が銃を発射。1人が重傷、他にも4人が負傷した。事件はアクシデントだったと報じられている。
2月5日:メリーランド州にあるオクソン・ヒル高校の駐車場で1人の生徒が撃たれる。
2月5日:ミネソタ州にあるハーモニー・ラーニング・センターで、3年生が職員の銃の引き金を引く。
2月8日:ニューヨーク州ニューヨークのブロンクスにあるメトロポリタン高校で、17歳の少年が銃を撃つ。負傷者はいない。
2月14日:フロリダ州パークランドにあるマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で、元生徒が銃を乱射、複数の死亡者と負傷者を出した。
[原文:There have already been 18 gun-related incidents at American schools in 2018]

**************************************************************************

NRAは、米国最大のロビイスト団体として知られる。銃規制を緩和せぬよう、莫大な献金を多数の議員に浴びせている。その最大のターゲットがトランプなのだ。

NRAの言い分は、「市民がより多くの銃を持てば持つほど、国は安全になる」というものだ。エマ・ゴンザレスは怒りに震えて、この論法を『恥を知れ』『ふざけるな』と罵ったのだ。惨劇を間近に見た人、あるいは犠牲者の家族も、これに同意して唱和した。

『恥を知れ』『ふざけるな』の言葉は、NRAもトランプも、銃規制の世論を封じることで莫大な利益を得ているからだ。人の命を危険に曝すことを儲けのタネにしていることの倫理的な批判であり、憤りなのだ。

スケールは劣るが、DHC・吉田嘉明と渡辺喜美との関係とよく似ている。厳しい厚労省の規制を嫌って、規制緩和派の政治家にカネをつかませるDHC・吉田嘉明のこのやり口は、徹底して批判されなければならない。NRAがトランプに、吉田嘉明が渡辺喜美に、それぞれつかませるカネは「規制をなくして、スポンサーの眼鏡にかなった立派な政治」を期待してのものだ。刑事上の構成要件該当性はともかく、政治や政治家の廉潔性に対する社会の信用を毀損する点において、実質的に賄賂の収受と変わらない可非難性がある。

また、銃を放任する社会の問題は、国際間の軍事抑止力論争とよく似ている。核拡散の危険を示唆してもいる。大量の銃の拡散は、相互威圧による安全をもたらしはしない。社会的な管理の限界を越えることが、大量殺人や偶発事故に繋がるのだ。既に、事実がそのように物語っているではないか。

私も、エマ・ゴンザレスに唱和しよう。「トランプもNRAも恥を知れ」。「ふざけるな」。

(2018年2月19日)

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2018.2.19より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=9945

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

〔opinion7380:180220〕