トランプ米大統領が7月30日、ツイッターで大統領選の延期を発言、数時間後の記者会見で撤回した。同時に書き込んだ郵便投票批判は変えなかった。
▼トランプ郵便投票に反対、選挙延期は撤回
大統領選延期の理由にトランプが持ちだしたのは郵便投票だ。「郵便投票にすれば、2020年は史上最も不正確で不正だらけの選挙となり、アメリカは大恥をかくことになる。誰もが適切に、確実に、安全に投票できるようになるまで、選挙を延期しよう」とツイッターに書き込んだ。郵便投票で不正が行われるというトランプ氏の指摘には、負けても大統領の座に固執する思惑も見え隠れするとの指摘もある。
大統領選の日程は連邦法で決められており、変更には議会による法改正が必要だ。大統領の一存では決められない、との指摘が共和党の有力者ミッチ・マコネル上院院内総務、ケヴィン・マカーシー下院院内総務からも相次いだことから撤回に至った
▼コロナ禍で広がる郵便投票
11月の米大統領選に向けて、郵便投票制度を導入する動きが、各州に広がっている。コロナ感染予防のため、投票所に足を運ばないで済むようにする思いから始まった。
大量の軍隊を海外に派遣している米国ではかねてから、郵便による不在者投票を認めている州が多かったが、今回は不在投票ではなく、本投票として本人の意志によって、投票所に行くか、郵送による投票にするか、選択できる。郵便投票を実施しなかった自治体に対して「投票の権利を侵害する」という裁判がおこされこともあり、6月2日に実施された大統領選予備選ではメリーランド州など7州や首都ワシントンで、郵便投票が実施され、郵便投票の利便性、投票率の大幅な上昇などが実証された。
これまでにワシントン州、オレゴン州、コロラド州、メリーランド州、などで郵便投票が可能だった。ハワイ州、ユタ州、コロラド州、カリフォルニア州多くの州が今年から加わる。
▼一部州では有権者すべてが郵送?
郵便投票を選択することを登録した有権者の自宅には、およそ2週間前に投票用紙がくる。投票日に間に合うよう返送するか、厳重に管理された郵便投票箱に投函する仕組みが作られている。コロナ感染の恐れを完全になくそうと、一部の州では、11月の大統領選、すべての有権者に、投票用紙を郵送することを検討している。投票所に長い列ができ、長時間待たされることになれば、コロナ感染の恐れが非常に高まるだろう。それを避けるために、全世帯を郵便投票にしようというのだ。
投票用紙を送付しての投票はセキュリティー面で電子投票よりはるかに高いことはこれまで十分実証されてきた。
郵便投票は低所得者、黒人、中南米系などマイノリティーの有権者の多い民主党に有利に働くといわれ、トランプはそれを警戒しているものとみられる。しかし投票所から離れたところに住んでいる人、高齢者などへの利便性は党派を問わない。
▼中国が偽装票送り込み?
トランプ側近のウイリアム・バー司法長官は、「外国勢力が大量に偽造票を送り込んでくる可能性もある」と発言した(6/22)。この発言は中国を念頭に置いているとみられ、大統領の意向を代弁したのではないかと思われる。
7月19日のフォックスニュースで、選挙に敗れたらどうするか、と問われ、「不正が行われれば辞めない」と発言した。反トランプを掲げる非営利団体「スタンド・アップ」は、「負けても辞めない可能性に備えて、今から準備しよう」と訴えている。トランプは「負けても居座る」戦術を持っているのではないかとの憶測が急に広がっている。
▼非常事態宣言が居座り武器
トランプ氏が11月の大統領選に敗れても、任期は2021年1月まである。大統領選開票時は現職だ。そこで問題になるのは大統領が持つ非常事態宣言の発令権限だ。
7月28日号の日本版ニューズウィークは次のようなシナリオを描いた。「激戦州のアリゾナ、ウイスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアなどを民主党バイデン候補が制すると仮定しよう(今のところこの4州の世論調査でバイデン氏がリードしている)。するとトランプ氏は、選挙に不正があったと声を上げる。中国が郵便投票に細工して不正介入した」という(6/22トランプ―ツイート)。そして国家安全保障上の非常事態だと宣言する。この4州の議会は共和党が多数であるため、「国家安全保障に関する捜査」が終わるまで選挙人の任命は行われない。
つまり選挙結果は確定できない。長期にわたり現職が居座る、あわよくば不正認定票」で選挙結果を現職有利に書き換える可能性もあるかもしれない。
今年3月、ケーブルテレビドラマ「プロット・アゲンスト・アメリカ」(HBO)の連続ドラマで、大統領が非常宣言を活用して政治を牛耳る似通った番組が放送されことがある。もしかしたらトランプ氏はこのドラマにヒントを得たのではないか。
まさか、そのようなことが起きるはずもない。が、トランプならやりかねない。
民主主義にもとることがないよう、トランプの言動を見守る必要がある。
隅井孝雄ジャーナリスト(元 日テレ インターナショナル社長) 2020年8月4日
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