トランプ氏勝利の可能性はやはりゼロか - ヒラリー氏のバックに米メディア界 -

著者: 伊藤力司 いとうりきじ : ジャーナリスト
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アメリカ大統領選挙の投票日11月8日(火)まで1カ月を切った10月9日夜(日本時間10日午前)、セントルイスで民主党ヒラリー・クリントン候補と共和党ドナルド・トランプ候補の第2回TV討論会が行われた。直前の10月7日にトランプ氏が女性に対する性的蔑視発言をしたことを記録したビデオが公開されたことで、トランプ氏は神妙な表情で「私の家族とアメリカ国民に謝罪する」と述べた。しかしクリントン氏は即座にトランプ氏には大統領の資格がない」と切り捨てた。討論会後の世論調査では、クリントン支持57%対トランプ支持34%という数字が出た。

これより先ニューヨーク・タイムズが10月1日に報じたところでは、不動産王のトランプ氏は1995年の所得税申告で9億1600万ドル(約928億円)の損失を計上、以後2013年まで18年間にわたって連邦所得税を支払っていなかった。アメリカでは大統領候補が過去の納税記録を公表することが慣例になっているが、トランプ氏は記録の公表に応じていない。トランプ氏に対する信用度はガクンと落ちた。

こうした事情から、共和党の歴代有力者がトランプ氏への支持を取り下げる事態が急速に進行している。トランプ氏を支持しないと宣言した筆頭にはブッシュ元大統領、マケイン上院議員(2008年共和党大統領候補者)、ロムニー氏(2008年共和党大統領候補者)、ライアン米下院議長ら共和党の有力者ばかりだ。

11月8日の大統領選投票日には同時に、下院議員全員と上院議員の3分の1が改選される。改選される共和党の議員としては、有権者に破天荒のトランプ氏と同一視されてはたまらないとする感情が一気に広がった。少なくとも110人以上の共和党上院・下院議員がトランプ氏を支持しないことを宣言するに至った。

第2回TV討論会の前々日の10月7日に発表された支持率は、クリントン48・3%対トランプ43・8%だった。肝心の競合州で見ると、フロリダ州でトランプ(以下T)42・4%対クリントン(以下C)44・8%、オハイオ州でT43・4%対C41・8%、ノースカロライナ州でT42・4%対C45・0%、ネバダ州でT41.8%対H43.2%、アリゾナ州でT41.8%対H43・2%と、オハイオ州を除いてクリントン氏が4州で勝っている。またこの時点での情勢を踏まえて行った「選挙人」の集計ではクリントン322人、トランプ216人で、クリントン圧勝の数字が出た。

アメリカのメディアでは、トランプ支持のFOX・TVや一部のローカルTV・ラジオを除けば、クリントン支持が圧倒している。米国の主要紙100紙中トランプ支持を表明している新聞は1紙もない。幾つかの新聞は「トランプでなければ誰でもよい」と表明、ニューヨーク・タイムズなど17紙がクリントン支持を明らかにしている。

こうした中でワシントン・ポストが10月7日、トランプ氏が女性蔑視発言したビデオを公開した。2005年9月にTVタレントのトランプ氏が、TV業界の人々とスタジオへ移動中の車の中でした猥談を録画したものだった。「俺は金持ちで有名人だからプッシー(女性器を表す隠語)に触ることなど簡単だよ」といったセリフがばっちり録音されていた。

トランプ氏は9日のTV討論で謝罪するとともに「これは男性のロッカールーム(更衣室)での会話だ」と弁明した。男性の聴視者はある程度納得したかもしれないが、これを聞いた女性有権者が許容したとは思えない。「トランプ氏を勝たせたくない」というアメリカ・メディア界の空気が如実に反映したエピソードだ。

トランプ氏はこの日TV討論会に先立ち、ヒラリー氏の夫であるビル・クリントン元大統領に性的な辱めを受けた経験があると訴える3人の女性を集めて記者会見を開いた。自分の性的スキャンダルを相殺しようとする試みだが、なぜかヒラリー氏よりはるかに好感度が高い、ビル・クリントン氏の悪口を言っても始まらないのが米国社会の現実である。

トランプ氏の猥褻(わいせつ)ビデオが公開されたのと同時期に、当局の秘密暴露で健闘している「ウィキリークス」がヒラリー・クリントン氏の“秘密”を暴露した。夫のビル・クリントンが大統領だった当時、クリントン基金がロシアの国営企業「ウラニウムワン」からリベートを受け取っていたこと、ウォール街から1回の講演料22万5000ドル(約2300万円)をもらって全面的な自由貿易主義を唱えていたのに、現在大統領候補者としての彼女がTPP(環太平洋自由貿易協定)に反対していることの矛盾を暴露したのである。

しかしアメリカのメディアは、圧倒的に「クリントン支持・トランプ憎し」だ。トランプ支持の分厚い「プアーホワイト」=高卒の現場労働者階層と、その周辺はトランプ支持に燃えているが、クリントンびいきのメディア攻勢で日に日に分が悪くなっている。10月19日には、ラスベガスで3回目で最後のTV討論会が開かれる。トランプ支持のFOXテレビの主催だ。この機会にトランプ氏が起死回生のドラマを演じられるかどうか。常識的にはもう間に合わなくて、ヒラリー・クリントン勝利の卦が出ているのだが。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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