「原発のほかに代替できるエネルギー源がないでしょう。だから原発は必要です。」これは、ドイツのある原発支持者が言った言葉です。この言葉は、反原発を 叫んでいるだけでは駄目なのだ、原発以外にどのようなエネルギー源を推進すべきか具体案がなかったら、彼等に対抗することは出来ないということを教えてく れました。
脱 原発を成し遂げるためには建設的な戦略法が必要です。単に脱原発を叫ぶのみだけではなく、原発を廃止するのに、原子力に代替するエネルギー源を何にするの か、その代替エネルギー案をどのようなロードマップをもって開発していくのかという具体案がなかったら、いつまでたっても原子力支持派が「電力不足やブ ラックアウト」と謂った脅しで攻め返してくることでしょう。
ド イツの脱原発が徐々に成功していっている理由のひとつは、そういった具体的な科学的調査・研究に基づいたロードマップ、「再生可能エネルギー開発プラン」 を実行実現していっているためだと思います。事実、ドイツにおける再生可能エネルギー開発の発展ぶりには目を見張るものがあります。私の住んでいる小さな村周辺の地域にも、凡そ20基の風力タービンが立ち並んでいて、生産した電力を送電網に送り込んでいます。
しかし、その一方では、大手電力会社が「再生可能エネルギーは高くつくので電力料金を大幅に値上げしなければならない」と主張するようになりました。この電力会社の「再生可能エネルギーは高くつく-プロパガンダ」はドイツ国民の脱原発見解にも影響を及ぼし始めています。
例えば、ドイツ公共放送連盟(ARD)が行った最近の調査によりますと、アンケート応答者の53%が、「よく分からないが、電力料金が値上げされないためにも、脱原発するのをもっと延ばした方が良いのではないか」と答えています。
電力料金値上げ正当化のひとつの理由として、ドイツ電力会社は、「北海とバルト海にある洋上風力発電所か らドイツ全域に電力供給するために、新しい遠距離送電線を設けることが必要である。そのためには莫大な費用がかかるから、大幅な料金値上げは避けられない」と述べています。
これに対して、ドイツ公共放送連盟(ARD)のジャーナリスト、アクセル・ヴァイス氏は、「電力供給アウトバーンの代わりに地域の送電線網を」と題された記事の中で、遠距離送電線新設の必要性について疑問を投げかけています。そして、遠距離送電線を設置することよりも、電力生産・供給を地域化させることの方が遥かに合理的であると結論しています。
大手電力会社からの(原子力)電力供給に依存しなくても、それぞれの地域が送電網所有権もしくは運営権を持ち、自分達の地域で生産したクリーンエネルギーを自分達の地域のために供 給できるというコンセプトは、「下からー庶民から」の動きから始まる、実現可能な画期的なものです。こうしたエネルギー生産・供給地域化への動きは、脱原発への最も建設的で効果的 な一つの道となることは確実だと思います。
アクセル・ヴァイス氏が、記事の中で述べている「エネルギー転換は地方から―『下から』始まる」という言葉のように、日本のエネルギー転換も、「下から」―地域の人々が立ち上がって、地域電力自給への道を開拓していくことは可能なのではないでしょうか。
下が記事原文へのリンクです。
http://www.tagesschau.de/wirtschaft/energiewende170.html
なお、日本にも、まだ小さなスケールですが、地域電力自給を推進しようとしているNPO、「地域再生機構」がありますので、そのリンクをご紹介させて頂きます。
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概説:電力供給アウトバーンの代わりに地域の送電線網を
ARD(ドイツ公共放送連盟)ニュース・オンラインー2012年6月6日
筆者:アクセル・ヴァイス(Axel Weiß)
何のために我々は、何千キロにも及ぶ高価な遠距離送電線を必要とするのか?北海とバルト海にある洋上風力発電基地から南方地域へ電力を供給するためなのか?
明 らかに、その地方・その地域で電力を生産することの方がもっと合理的である。エネルギー供給の前途は地方、地域構造の中にある。電力不足することなく、地方・地域内で電力を生産し供給することは可能である。- その幾つかの模範ケースがドイツ全体にわたって存在している。
近年において、再生可能エネルギーは充分な発達段階に達した。今では、ドイツに設置されている全ての*太陽光発電が、ピーク出力時には、原発22基分に相当する電力をドイツ全域に供給している。再生可能エネルギー技術の発展がこういった事を可能にしたのだ。:ヘッセン州、バーデン=ヴュルテンベルク州、バイエルン州における風力エネルギーが、三州あわせて凡そ10ギガワットの電力量を出力できる可能性もある。標準1.5メガワット最大出力容量を持つ最新式の風力タービン
一基で、最終的には一つの村全体の年間需要を充たす電力量を供給することができるのである。
ドイツに設置されている太陽光発電だけで ピーク出力時には
原発22基分の電力量をドイツ全域に供給できる。 写真:ARDから
無風の日には、太陽光発電を送電網に接続しなければならない。-太 陽が照っているということを前提にしてである。理論的にも、実際的にも太陽光発電システムは陽光なしでは機能しない。結局は、風のない日もある。そんな場 合は、太陽光発電が働かなければならない。それで、もし曇りだったとしたらー水力もしくはバイオガスで発電したりー発電法はその時の状況に応じることになる。はっきりしている事は:電力発電の方法が多様であればあるほど、電力供給がより確かになるということである。そうでなかったら、電力を貯蔵しておかね ばならなくなる。そして、電力貯蔵に関しても、議論の余地のある揚水発電所を別として、新しいテクノロジーがある。
冷蔵倉庫を電力貯蔵に
例えば、国際連合環境計画の前事務局長、クラウス・トゥッフェー氏は、ドイツの港にある大規模な冷蔵倉庫を電力貯蔵のために利用する事を提言したい。
余剰電力がある時には、余剰電力で冷蔵倉庫の温度を更にもっと低下させておき、電力が比較的不足している時間帯には、それに応じて電力消費量をもっと減らすようにする。このような方法で、冷蔵倉庫の低温を一貫して保つことが出来る。
また、スーパーマーケットの食品冷凍庫の電力消費量も電力供給の状況によってコントロールすることが可能であり、これに関しての実行可能性を検討する研究も既に為されている。
地域レベルでの電力供給
地域レベルでの電力供給を可能にするために必要な条件は:例えば、ウィンドファームから村に電力を送電できるよう
「低圧送電網」を、その地域が持ち合わせているという事である。こういった送電網は多くの場合、大手電力会社の手の中にあって、彼等は必ずしも市町村が自立したエネルギー供給資源を持つことを支持するような興味を持ってはいない。
あまり協力する用意はない**ヴァッテンフォール(Vattenfall)子会社
ブランデンブルグ州の南西に位置する小さな村、フェルトハイムは、ヴァッテンフォールにはさんざん苦労されられているので、ヴァッテンフォールについてはたくさん言うことがある。
地域エネルギー自給自足への唯一の道は、地域所有の送電網を新しく設けることであった。-これまでの送電線網の運営者、ヴァッテンフォール・コンツェルン子会社は、そのために協力をしたがらなった。
そんな中で、200人の住民で成り立つフェルトハイム村は、「地域レベルのエネルギー供給は可能である」という事を実証する模範的な村として見なされるようになったのだった。
また、ラインラント=プファルツ州にあるモルバッハやヴァイラーバッハ、もしくはオーストリアのギュッシング市などの地方自治体が他の範例として挙げられる。
コッ トブス大学の社会学者、コンラッド・クンツェ氏は、「地域の電力転換を可能にするために最も好適な諸条件を備えているのは、その土地の状況を総括的な視点から見通すことが出来る、より小さな地方自治体です。-地方自治体で電力転換を推進しようとする関係者たちー 市町村長さん、牧師さん、プロジェクトに関 心を持った市民たち、中小企業関係者などー彼らはお互いをよく知っていますし、お互いに理解しあうことも容易いですし、お互いに信頼もしあっているからです。」と述べる。
要するに、地域における電力転換は、上からの命令で出来るようなことではないということである。なお、コンラッド・クンツェ氏の著書「エネルギー転換の社会学(Soziologie der Energiewende)」が近いうちに出版される予定である。
政治家は遠距離送電線と大手電力会社にとらわれたままの状態
大事な事は範例を示すことである。もし公共の建物に、経済的であるミニ風力機やコジェネレーション(熱電併給)、太陽光発電などが既に備えられていたとしたら、懐疑者たちを説得することが出来る。そして、地域レベルのエネルギー供給プログラムに関与する人達やそれによって経済的な利益を得る人達が多ければ多いほど、より早く、懐疑者たちはこのシステムを支持するようになる。
しかし:「現在、ドイツで追求されている政策シナリオは、エネルギー供給の地域独立解決策も地域化も組み入れてはいませんし、遠距離送電線と大手電気会社にとらわれているパラダイムから依然として離れないままでいます。」とクンツェ氏は言う。
一方、わが国には、何百という数のエネルギー協同組合が存在するようになった。多くの場合、エネルギー協同組合は、この課題に真剣に打ち込んでいる市民達によって発足され、支持・運営されている。
ク ンツェ氏は「もし、誰かが(地域エネルギー供給に関する)最もポジティヴな経験を集めて、それに基づいてひとつの地域電力供給の模範モデルを建設するとします。そうすれば、そのモデルをベースにして、他の人達も自分達がどのような方向に進むべきかという方向付けをすることができますし、ドイツ全域にわたっ て『地域エネルギー供給』を紹介できるチャンスが生じてくるわけです。」と述べる。
方向転換する好機
これからの2年 間には、多くの送電網の運営免許期限が満期に達することになるので、市町村が地域の送電網の運営権を取り戻すことが可能になってくる。ハンブルグ市は既にそれを実行している。ベルリンや他の都市も同様に送電網運営権を取り戻す方向に動いていっている。この事は、地域レベルでのエネルギー供給が容易くなる重 要な方向転換の好機であることを示している。
消費生活センター連邦協会 (Verbraucherzentrale Bundesverband)は、 それぞれの州が、再生可能エネルギー・インフラに関しての達成すべき目標を与えられ、義務づけられる「再生可能エネルギー・インフラストラクチュアー開発 法」の設定を提唱している。この事は、遠距離送電線が新設される数が著しく制限されるようになることを意味している。
明らかな事はひとつだ。:エネルギー転換は、ドイツの地方からー「下から」始まるということである。
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*太陽光発電:原文には「Solarzellen-太陽電池」となっていますが、厳密には「Photovoltaik-太陽光発電」という名称の方が適確と思いましたので、そのように訳しました。
**ヴァッテンフォール(Vattenfall AB):スウエーデンのストックホルムに本社をおく大手エネルギー会社。フィンランド、デンマーク、ドイツ、ポーランドなど、北欧だけでなくヨーロッパに企業の手を伸ばしている。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0920:120628〕