ドイツ通信 号外 東京オリンピックとドイツ

この1か月ほどドイツでのメディアの報道に注目していました。自分の収集できる範囲ですが、以下にまとめてみます。

1.日本の国内の状況に関しては、ドイツ特派員がきちんと問題点をつかんで報道していると思います。

皆さんから入る日本情報と矛盾するものはないので安心しています。これは、ドイツのメディアが政府の広報機関になり下がっていない証左で、社会全体、そして市民の視点からの情報を収集しているからだと思います。

一つの違いは、ドイツではアメリカからのような「日本オリンピック反対」の直接のアピールが、今のところ発信されていないことです。

日本側の決定にドイツ政府もスポーツ関係者も〈干渉すること〉を避けているからです。そういう発言を折につけ聞きます。

しかし、最終的には昨年のように、いくつかの国のスポーツ連盟が〈不参加〉を決めたように、近いうちに同じような動きが世界で出てくることが予想され、それが決定的な役割を果たすことになるように思われます。

2.非常事態体制で、感染率が増大し、接種が十分に行われていない状況で、日本の一般市民と世界各国からの選手の健康及び生命、そして医療制度の崩壊をどう守るのかが争点として指摘されています。さらにフクシマ原発問題が加わります。コントロールされていない原発事故、および避難された住民、家族への生活保障をめぐる財政問題。それを日本政府はどう判断するのかということへの視線です。

オリンピックをキャンセルすることによって生じる財政負債ゆえに、上記の社会的な問題を無視して「スポーツの祭典」を強行する意味がどこにあるのかという問い詰めです。

ここで、日本で取り組まれているオリンピック反対の署名運動をはじめ、有識者による反対声明も紹介され、それが特に、ドイツ・オリンピックスポーツ連盟(DOSB)と選手などへどのような影響をあたえるのかが、今後のドイツ側の決定に重要な役割を果たしてくるはずです。

3.選手側の現状を見れば、日本でのオリンピックを待ち望んでいる声が聞かれます。事実、DOSBの報告によれば、これまで300人近くの参加資格を取った選手のうち、不参加を表明した選手は誰もいないということです。しかし、内心で葛藤している姿も伝えられてきます。例えば、ドイツのテニス選手で、確か23歳だと思いますが、世界ランキングの3‐5位につけているアレクサンダー・ツヴェレフという若手がいます。

東京オリンピックに参加してメダルを取るのが夢だけれど、年配者をさしおき自分が接種を受けることに抵抗を感じるとインタヴューで答えていました。これが、選手内での正直な感想だろうと思われます。私はこの選手が好きではないのですが、選手としてではなく、人間として、また人間理性として尊敬できる発言だと評価できるのです。

確かな数字は今記憶にありませんが、ドイツで選手の65%ぐらいがすでに接種を受け、また中には接種しない意思を表明している人たちも10%以上いるとも伝えられていました。(この数字は資料的な裏付けがなく記憶によります)

4.1人の日本学学者(Dr.Barbara Holthus)のインタヴューが、新聞(HNA Samstag,15.Mai 2021)に掲載されています。彼女は「ドイツ日本研究協会」の東京代表で、オリンピックのボランティアに登録している1人です。その彼女の発言が、現在のドイツの基本的な見解を代表しているのではないかと思われ、ここに要約しておきます。

世界200国から1万人以上もの選手に加え、数千人のコーチ等の帯同者、メディアそれにパラリンピックの選手。更に11万人のボランティア。果してコロナ感染からすべての人たちを守り切ることができるのか?

彼女の回答は明快です。スーパースプレッダー・イヴェントになりかねないのです。

以下はその理由です。

・少ない検査では、感染者の実数が不明で、そこから感染数に信頼がおけなくなります。陽性結果が出ても、保健所でテストされた人だけが政府に登録され、他の人たちは登録されないからです。また、コロナに感染しても、当人がそれを公然と口にできない、また口にできない社会環境にあるからだといいます。

・ボランティアには、体温測定、睡眠、良い食事が薦められますが、テストも接種もありません。また「笑顔で対応するように!」といわれても、マスクをしているから人には見せられないです。そのマスクですが、FF2は使用されないといいます。日本の夏は暑すぎるからです。

このあたりで彼女から伝わってくるのは、コロナ感染への実に、〈幼稚な〉というしかありませんが、政府の対応です。

問題はそれだけではありません。変異ウイルス(への感染)を、選手が祖国を持ち帰ることが十分に予測できるとも言います。

・最後に一番の問題は、接種・キャンぺ-ンが日本で遅れていることを指摘しています。その結果が、500人の看護師と200人の医者の無料でのオリンピックへの動員要請です。こうした立て続けのスキャンダルが、国民の80%がオリンピックに反対する理由だと分析しています。

以上ですが、これを書きながらはっきりしてくるのは、最早あれこれの論議ではなく、キャンセルによる経済的な負債が重きをなすのか、人間(国民、選手、帯同者、メディア関係者)の健康と生命か、の選択だろうと思われます。人が健康であれば、経済は時間とともに持ち直しますが、その逆ではないはずです。

ドイツがどちらに舵を切るのかに注目しています。       (2021.5.18受信)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion10900:210520〕