ドイツはここ連日、寒い雪の降る日が続いています。暖冬が続いたこの数年ですが、こんなに雪が積ったのは何年ぶりのことかと時間を振り返りながら、ロックダウンの中で一日の生活のリズムを見つけるのに苦労しています。
ドイツのコロナ感染者数は、このところ下降減少を示していますが、毎日1万4-5千人とまだまだ総体的に数値が高く、さらに1日の死亡者数が900人前後で推移していることが、「まだ、これからどう変化するか分からない」と先行きへの不安を隠しきれません。この背景には、言うまでもなくコロナ変異ウイルスの流行があります。
自家製マスク禁止、FFP2または医療用マスク着用が義務付け
10日前から規制が一段と強化され、公共交通機関(バス、電車)、病院、買い物でのFFP2あるいは医療用マスク着用が義務付けられました。個性的な布による自家製マスクは禁止になり、行き交う人々を眺めていると、さながらサイエンスフィクション小説に出てくるように社会が〈ユニフォーム化〉されていくように思われ、こうしてすべてが一色に塗り替えられていくことへの危険性も感じられながら、「それ以外の手立てがない現状では」と考えると、社会の変化に注意を怠らないでおこうと自分に言い含めています。
これを書いている1月27日は、昨年ドイツで初めてのコロナ感染者がバイエルンで発生してからちょうど1年経ちます。昨年夏の段階で、「冬場を越して1年経てば」と考えていましたが、現実は複雑な様相を呈してきました。予測が立てられない状況を迎えたといえるでしょうか。
そこで変異ウイルスの流行と蓄積されてくる不安が相乗する現段階で読み取れる諸問題を、以下に整理してみます。
1.反コロナ規制運動の活性化と暴力化
先週の日曜日1月24日、午後9時頃からオランダの10以上の町々でコロナ規制に反対する街頭騒擾が引き起こされました。路上では転倒された車が炎に包まれ、また鉄道駅が破壊され、同じく駅の商店が襲撃にあい打ち壊されました。さらにPCR検査センターも攻撃され、大きな被害を被り、さらに病院にも投石され攻撃を受けています。街頭では、警官と数百人のグループとの乱闘が夜遅くまで続きました。
新聞・TV情報では、コロナ否定者(コロナはない!)、謀略論者、ネオ・ナチそしてサッカー・フーリガンの総じて25歳以下の青年たちだと伝えられています。騒擾、暴動は、今なお沈静化が見られず4日間続いています。同じような街頭騒乱は、昨年の夏にも発生していることから、コロナ危機で、とりわけ裕福中間層の将来及び経済的な没落への不安から、新しい政治運動が起きてきている証左だというのが、政治学者、社会学者の基本的な見解です。
前日土曜日から執行された夜間外出禁止令(午後九時から翌日午前4時半まで)に反対する暴動といわれ、オランダでは第二次大戦以来の夜間外出禁止令となり、この規制は2月9日までの予定です。
同日曜日には、イスラエルでもコロナ規制に反発するユダヤ人ウルトラ・オーソドックス派のメンバーが抗議行動に取り組み、テル・アビブではバスが放火され炎上しています。
また、レバノンでも同様な街頭風景が見られます。
ドイツ、アメリカでの国会議事堂突入の影響が、こうした現象に影響を与えていることは間違いのない事実で、今後どのような世界的な広がりを見せるかに注視していく必要があります。
時期を同じくしてフランスの極右党(Rassemblement National-略RM、党首Le Pen)が、最近のアンケート調査では支持率27%で、24%のマクロンを凌いだと伝えられています。
もっともトランプ効果が胡散霧消し、コロナ危機ではワクチン接種をめぐって一度は反対しながら後に言をひるがえし、また謀略論者に対する明確な方針が立てられていないのが極右党の現実です。元々のRM支持者は資本のグローバル化反対者、労働者、そして若い失業者ですが、決定的なアキレス腱は、中間層および年配者層を獲得できないところにあるといわれています。
2017年大統領選のTV二者対論では、極右派の憎悪キャンペーンと専門分野での無能さを見せつけるだけでしたが、しかし、マクロンの現在のコロナ危機管理の不手際が、今回のアンケート調査の結果に表れていると判断していいでしょう。(注)
(注) Frankfurter Rundschau Mittwoch, 27. Januar 2021
これは、単にアンケート調査結果の読み方にすぎません。見逃せないのは、この中間層が2022年春の大統領選にどのような動きをするのかという点です。逆に言えば左派、民主主義派にはコロナそして難民、労働、社会、自然環境をテーマに、どのような幅広い、各層を貫く政治方針を出し切れるのかが問われているように思われます。
現在の反コロナ規制暴動、騒擾は、その意味で社会のつなぎ目が見つけ出されていないことの反映といっていいかと思うのです。
2.危機管理に亀裂か? コロナ対策へのプレッシャー!
突然の感がありましたが、保健省(大臣CDU=ドイツキリスト教民主同盟)が、スピ―ドテスト(Antigen Test)の、しかも個人による実施を承認する計画だと、1月26日付各日刊新聞は報じていました。
それに合わせるように私の住むヘッセン州でも州首相(CDU)は、それより一足早くスピードテストを各自が自分で組織できる体制をつくりたいと所見を述べています。施設への親族の訪問には、これによってスピードテストが義務付けられました。(注)
手遅れの感がしないでもないですが、緊迫感は十分に伝わってくるのです。
(注) HNA Samstag, 23.Januar 2021
PCR検査を担当する試験室のスピードテストへの反発・抵抗とその背景に関しては前回に書いた通りですが、ここにきて動きが急転回しているのが実感されます。しかも急ピッチで!
私個人の印象は、変異ウイルスの流行に際してPCR検査体制が行き詰まり、他方ではワクチン接種の目途が立たず、それによって老人ホーム、介護センターがホット・スポット化し、そこで孤立させられ崩壊していく家族・社会関係を維持するための対策が緊急に求められたことになり、今回の州、中央政府の同時的な決定には、何としても危機管理の亀裂を塞がなければならない切羽詰まった危機感とプレッシャーが伝わってくるのです。
それを以下に、この間の一連の動きのなかから概観してみます。
ヘッセン州に関しては、883のシニア施設があり、生活者数は5万6,263人といわれています。その生活者の内2,919人にPCR検査の陽性結果(全体の5.2%に相当)が出され、さらに施設内従業員(看護・養護・介護士さんたち)1,377人にも陽性結果が出ている(2021年1月20日現在)という報告があります。(注)
(注)HNA Samstag, 23. Januar 2021
同様な現状は、ドイツ全般にも該当するようです。施設内生活者(「リスク・グループ」)、そして従業員双方の感染、また従業員の病欠、過労等々で人手が不足しているところへのクラスター発生と変異ウイルスの流行が追い打ちをかけます。
そこでのスピードテストの導入ですが、それを実施できる担当者が見つかりません。そこに人手を割けない現実があるからです。
そこで連邦政府は、「自主志願」を市民に訴えることになりました。まず、軍隊のサポートを得てスピードテストを定期的に行い、家族との面会を可能にしていく方向です。(注)
兵士が医療担当者からスピードテストの扱い方の研修と講習を受けている姿が、TV画像で流されていました。
ただ、私は「誰でもが」という点に関しては批判的です。研修と講習、そして認定された資格者の下で検査は行われるべきだと考えています。さもないと混乱を引き起こすのは必定です。
(注)Frankfurter Rundschau Dienstag, 26. Januar 2021
3.製薬会社の横暴とBrexit――進まないドイツ・EUの接種
2020年12月27日が、ドイツのワクチン接種の初日、スタートに当たる予定でした。各町々には、広々としたワクチン接種センターが建てられ、どう運営され、接種が進められていくのかに大きな関心が集まっていました。また、計り知れない希望もありました。
万全の体制で迎えるべく自主志願者が呼びかけられ、連れ合いは接種勤務に応募しました。すでに説明会も終えています。その際、責任者に「ヘルパーは十分か」と連れ合いが尋ねたところ、「まだまだ必要だ」との回答で、私も登録されることになりました。
しかし、初日に配分されたワクチン数は、私たちが登録されている郊外地区で、わずか260本です。集団接種には程遠い数です。それから今日まで、同じような状況が続いています。まずは老人ホーム、介護センターへの集中した移動接種が、こうして始まりました。
連れ合いは、1月に2つの老人ホームの移動接種に参加する予定でいましたが、センターから日程のキャンセルが入り、現在は待機中です。
現在の議論は、日本でも報じられていると思いますが、なぜワクチン獲得が遅れ、計画通りに接種が行われないのかという点をめぐっています。
ドイツが独自のワクチン買い入れを避けて、EUの共同計画で進める方針を決めたことは、ユーロ危機、難民問題からの教訓であったでしょう。青田買いが始まり、ワクチン・ナショナリズムが激化すれば、購入価格の吊り上げが当然予想されます。そうなれば貧しい発展途上国、さらにEU内の東—―西の対立は避けて通れなくなります。最終的には経済力が買い占めを可能にするからです。このように私は、ドイツ—EUの判断を正当に理解しています。
ところが製薬会社はそうした社会モラル、倫理からかけ離れているのが暴露されることになりました。
ドイツ—EUが購入契約を結んでいる製薬会社は、現在までのところBionTech-Pfiser, Moderna, AstraZenecaの3社です。
ここにきて3社がEUの主張する契約通りのワクチン供給が遅れる旨、通達してきました。EUは契約違反だと主張しますが、〈ワクチン生産が追いつかない〉というのが製薬会社の言い分です。
イギリス、アメリカ、そしてイスラエル(注)で進むワクチン接種のスピードを見せつけられながら、今後、EU側からはあらゆる手段を尽くした対応がなされるはずです。
(注)イスラエルの接種は、パレスチナ人およびパレスチナ地区住民を排除しているように思われるのですが、それを示す正確な資料は入手していません。
現時点では、別の観点から製薬会社の本音を探索することにします。
小さな新聞記事が手元に切り抜いてあります。(注)
そこには、南アフリカは、アストラ・ゼネカ社からEUよりは高い値段でワクチンを買い入れたと報じられています。
EUの買い入れ価格は、一瓶1.80ユーロであるのに対して、南アフリカは4.30ユーロ支払ったというのです。ここで、私は自分の目を疑い理解力を失いました。
(注)HNA Freitag, 22. Januar 2021
以下は友人からの伝聞であることをお断りしたうえで、バングラデシュの薬品会社は、インドにあるアストラ・ゼネカ社から買い入れたワクチンを、プライベート(裕福な人たち個人)へ一瓶13.27US ドルで販売しているといいます。いくらで買い入れているのかはわかりません。南アフリカの例が、一つの指標にはなるでしょう。
こういうのを「横流し」と言わなかったですか。
また、アフリカ系友人の兄がエジプトを商用で出国したいのだが、検査を義務付けられていて、その料金が500USドルするといいます。
コロナ・ワクチン接種の周辺で、何が進行しているのかの概要がここから見えてくるのではないでしょうか。
すべてに悪態をつくつもりは毛頭ありません。しかし現状は、人間生命の維持、健康管理に必要な共有財産であるものが私的に簒奪され、貪欲な資本の利益増殖に利用されているという他はないのです。
アストラ・ゼネカ社が、昨年の春にSars-CoV-2対策でオックスフォード大学との共同開発と研究を取り組むことを決めたとき、会社代表(Pascal Soriot)は、〈これは企業競争に勝つためではなく、わが社はそこから利益を求めるものではない〉と〈非営利(Non Profit)〉の活動を強調し、こうしてオックスフォード大学との協約合意が成立した経緯があったと理解しています。
今、この理念はどこにいったのかと問い詰めたくなります。
イギリスの緊迫した状況は理解できます。だから24時間通しのワクチン接種が行われていることも承知しています。そのうえでなお、ワクチンは世界の人たちに公正に配分される必要があり、そのためのEUとの協約だったと私は理解しているのですが、現状を見るにつけ、それを管理運営する国際機構と言わないまでも各国相互の基本的な合意が欠如していると痛感されてなりません。
一方的に資本力のあるところにワクチンが独占、占有されれば、コロナ流行の温床をその対極につくり上げることになるでしょう。そこに〈生と死の2つの世界〉が立ち現れてきます。自分が生き抜くためには他者の死を求める塹壕戦は、なんとしても避けねばならないのです。
実は、この自己撞着の混乱を招いたのがBrexitの意味するところではなかったかと思われてなりません。EU離脱からナショナリズムの権限強化を求め、自国資本の利益を追求しますが、経済危機と同様にウイルスとの闘争には国境を越えた人間の共同の取り組みが不可欠なことは、最近の難民問題、ユーロ危機そして何よりも今回のコロナ禍で明らかになっている事実です。
Brexitはナショナリズムによって、今こそ必要な人間の共同性を売り物にしたといえるのです。
以上のようにパンデミックが貧富の差をさらに広げてくる経過を調査した緊急援助組織Oxfamが、その報告書を公表し、タイトルを〈不平等なウイルス(The Inequality Virus)〉と名付けています。
コロナ感染と経済格差の相関関係は、これまで感覚的に伝わってくるところでした。しかし、実態としてはテーマの幅の広さからなかなか把握できないできましたが、今回の調査報告で全体の構造が明瞭にされているように思います。
コロナ禍のなかでスーパー・リッチ(富豪)は、株式・金融相場で損害を受けながらも、例えばオンライン事業で収益を立て直し、以前以上の富を獲得しているといいます。
他方で収入力の弱い貧困層は、コロナ下で受けた経済損失を克服するのに10年あるいはそれ以上の年月を必要とするだろうと見込まれています。ただし、まだ生きていればの話ですが。
コロナ感染がこうした貧困層を直撃していることは、たとえばイギリスの貧民住居地域では、富裕者の住む地域と比べて死亡率が2倍高いという調査結果にみられます。
コロナ感染は、貧しい人たちに死を強制しているのです。
この不平等の拡大と強化は、過去100年間に見られなかった水準に達し、現在、世界でかつ同時に見られる現象となり、経済的な脅威になっていると分析しています。
男女の性別でコロナ感染の影響をみると、所得、収入で損失を被っているのが圧倒的、極端に女性です。何故なら彼女たちの仕事は飲食店、ホテル、スーパー等のサーヴィス業であり、さらに医療・健康、社会福祉分野では全職場の3分の2が女性によって占められ、低賃金で、しかもコロナ感染のもっとも危険な部署を担当しているからです。(注)
(注)Frankfurter Rundschau Montag, 25. Januar 2021
労働者が人間らしく生きられる社会とは? そのための経済制度とは? 民主主義と公正とは?
何をどう語り、そして何をすべきかが、ほのぼのと見えてくるのではないかと思います。 (つづく)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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