パレスチナから考えるシリア問題

オバマが「一線を越えた」とシリア攻撃の意思を発表したとき、私はすぐさま2008年から09年にかけてイスラエル軍に猛爆されたガザを思い出した。犠牲者は、子ども431人を含む1440人で あった。白昼堂々、白燐弾が使われた。このとき、新大統領のオバマはこの攻撃を黙認した(ゴーサインを出したのはオバマであったという情 報もある)。その後、この戦争犯罪にかんする国連調査団の報告は、米国/イスラ エルの覇権によって握りつぶされた。

ここに紹介するのは、西岸パレスチナの大学で教鞭をとるマーゼン・クムセッヤ教授の「オバマとグローバル・インティ ファーダ」である。「パレスチナから考えるシリア問題」と名付けたのは私であるが、下段に付した著者紹介からも、パレスチナ人の代表的な 意見、願いと考えて差支えないように思う。拙訳ですが読んでいただけるとありがたい。

化学兵器使用者の特定も大事だが、いま進行している世界の構図を見抜くことがさらに大切のように思う。中東紛争の中 心にいるマーゼン・クムセッヤ教授はその見取り図を与えているが、私たちもまた、日本からのシリア問題、日本からの中東問題を考える必要 に迫られていると思う。いずれにせよ、メディアや各国政府の振りまく「人道危機」や「人道支援」という甘言に足元を掬われていては民衆の 夜明けはこないと思う。(2013年9月7日記)

※注:文中カッコ内は、若干の単語挿入以外すべて原著者のものです。

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Obama and global intifada

パレスチナから考えるシリア問題:オバマと世界的抵抗運動 (グローバル・インティファーダ)

マーゼン・クムセッヤ( Mazin Qumsiyeh)(松元保昭訳)

2013年9月2日(投 稿日8月31日)

インティファーダ・パレスタインより

シリアで争われている権力争い(パワーゲー ム)を理解することは難しくはない。あたりまえの人間であるなら、人間性の未来を決定づける対立において傍観者的立場に立つべきでは ない。(高まる)世界的抵抗運動が広がっており、戦争と覇権(ヘゲモニー)は拒絶され、現在オバマ大統領でさえその圧力に動揺している。(本当はシオニストの世紀だったのに、誤って「アメリカの世紀」と称されてきた)ほかならぬ第二次大戦後の世界秩序の土台がぐらついている、これは地震である。長いあいだシオニストのプロパガンダにさらされてきたイギリス、フランス、およびアメリカの国民が、 大変革に合流してきた。とりわけイギリス議会が戦争に反対採決したあと、政治家たちがうろたえ始めた。これは、第二次大戦以来のイギリス政治における米国/イスラエルのヘゲモニーにとって初めての大きな衝撃的な敗北であった。

米国オバマ大統領はイギリス議会の評決のあと、レバノン、シリ ア、イラン、ロシア、中国の明らかに強固な立場、そしてさらに、CNNウォルフ・ブリッツァーのようなイスラエル・メディアの手先による 扇動の試みにもかかわらず米国内の圧倒的な国民の反対に直面して、当惑させられた。とくに国連の委任もなく米国民の支持もないシリアへの 軍事攻撃の潜在的影響にかんして、彼自身の情報機関が彼に伝えたことでもまた、オバマは動転してしまった。これらの反応には、シリアの強 力な防衛能力および攻撃能力という軍事的影響が含まれていた。撃墜された「実験的」侵略には機密漏洩があった。だが検討された影響の中には、イランを弱体化するよりもむしろ強化する(そもそも、これはイラク後に起こったことであ る!)ことが含まれている。オバマ大統領は、彼のシオニストと非シオニストの助言者および重要な政府高官たち(そのグループには反シオニストがいない)との話し合いに何時間も費やした。イスラエル/米国ヘゲモニーを維持しようとするには何のオプションもないことに直面したオバマは、時間を稼ぐために議会に議論をなすりつけ、決定しないことを決定した。シオニズムにとって良いと認めること は米国市民にとって良くないことになると圧倒的に立ち上がってシリアとの戦争を拒否し、イスラエルが占拠した米国議会に圧力をかけるのは、現在、アメリカ国民次第である。

オバマが ちょうど嘘をついたとき、ロシア大統領は、彼が「常 識」と呼んだ幾つかのキーポイントを発表した。ロシアと米国は、敵・味方のすべてのグループが招請されていた政治的解決のための会議にかんする基本事項には合意していた。ロシアは、(大部分のシリア人が、西側が支援した悪党グループと西側が支援した傭兵たちとの対話に反対 したにもかかわらず)このジュネーブ会議に参加するようシリア政府を説得していた。イスラエルの圧力のもとで、米政権はそれらの合意を再 検討し始めた。そして彼らの敵が打ち負かされ降伏しない限り、敵との議論に参加することは出来ないと彼らの手先たちが公表した!次に、西 側とイスラエルが支援した原理主義者の反乱軍に対して勢いを得たシリア政府軍は、ほんのわずかな囲いにまで彼らを追い詰めていた。シリア は、ドアを開いていたし国際的な査察団も来ていた。こうした条件の下で、プーチンは正しくも指摘している:誰が化学兵器を使用する利益が あるのか:シリア政府か、あるいはシリア政府を打ち負かすことができずに西側の敗北の弁を提供しようとする反乱軍か?それは常識である。 シリア、ロシア、および中国、そして全人類は、論理的に問う:もし米国が、シリア政府が自国民(自国の兵士も含む)を攻撃するために化学 兵器を使用したという証拠をもっているなら、そのときはわれわれに証明してみせよ。なぜ国連調査団の権限がそれらを誰が使用したかを調査 することではなく、使用されたかどうか見つけ出すためにのみ制限されていたのかと、彼らは正しくも問うている。イスラエルと米国の情報機 関がイラク戦争をでっちあげた嘘の後で、現在、彼らは再び証拠を捏造することにむしろ消極的のようだ。

オバマは 多くの別のことにも嘘をついたが、おそらく真実に近づいた彼のスピーチの唯一の部分は、自分はシステムの一部であり自ら決定することが出来ないと認めたときである。現在、軍産複合体は、米国 国家政策においてどんな大統領でもそれに異議申し立てするにはあまりに堅固に確立されている。実際、異議申し立てする可能性のわずかな チャンスさえあるなら、誰も大統領になることは許されなかっただろう。だからオバマは言う:私はいつも機械とともにいます。権力を握った 以前から機能していた機械とともに私はいます。これによって、彼の「チェンジ(変化)」というキャンペーンのレトリック(修辞)は、まさ にアメリカ人の言う「まったくのはったり(ナンセンス)」であったということを彼は示していたわけだ。これが、オバマが行き詰まる理由 だ。

そういう わけで、オバマは立ち往生している。オバマ大統領が、 わずか一週間前に、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアに賛辞を呈したとき、彼は偽善者であった。有名な話であるが、米国は地球上でもっとも偉大な暴力の提供者であると、キングは語っていた。米国国民は、彼らが市民権を、女性の選挙権を、ベトナム戦争の終結を、南アの アパルトヘイトにたいする米国援助の終結を、もっと多くのことを獲得するために以前の政治家どもを強いたように、まさにチェンジをオバマと議会に強いることが出来るし、またしなければならない。

中東で もっとも不安定化している国が、米 国の何十億ドルもの血税を無条件に受け取っているという事実は依然残されたままである。核兵器を含む大量破壊兵器 を中東に持ち込み、何百万人も の難民をもたらしたその国。一般市民に劣化ウランや白燐弾を使ったその国。米国の何兆ドルもの血税を使い何百万人もの命を奪ったアフ ガニスタンやイラクが果たしたように、米国を戦争に突き進ませるため成功裏にロビー活動で働きかけ5回の戦争を 引き起こしたその国。人種差別やアパルトヘイトの犯罪に対して国際協定で議論された基準のすべてに当てはまるその国。

最近イス ラエルが引き起こした紛争は、シリアにおける政府の形 態にかんするものではないというのが事実である。米国/イスラエルが支援した1ダースものアラブ諸国の独裁者たちは、シリアのバッシャール・アサドよりもはるかに、はるかに悪 い。パレスチナ人の大義を破壊するためにアラブ世界の傀儡独裁者たちに援助し、シオニスト・ロビーの影響下で国務長官を通じた米国に よる明らかな策謀であるという事実が依然として残っている。この範域(パラメーター)は明白である:占領された西岸の一部をパレスチ ナ人の傀儡連中がヨルダンとの連邦で国家と呼べるようなパレス チナ人の自治の制限、彼らの家や土地に帰還する難民の権利などパレスチナ人の諸権利の粛清。これらは、イスラエルというアパルトヘイ ト国家の「ユダヤ人」を確実なものにするだろう。ガザは、エジプト政権に帰属させられるか、あるいはイスラエル高官の一人が語ったよ うに「ガザの(あらゆる部門を)ダイエットさせることによって」その管理を継続するだろう。この計画に貫かれていることは、抵抗運動 を無益に思わせることである。イスラエルは、ボイコット、資本引き上げ、および制裁措置と闘うためにハイレベルの行政委員会を配置し た。ヒズボラ―シリア―イラン枢軸を破壊しなければならないと、イスラエルは米国に伝えた。発展途上のアラブ諸国は、潜在的には、イラクで始まっている宗派主義および別の闘争(分断統治)の渦中にあってば らばらにされるだろう。彼らは、シリアが、処分されたリビアと同じやり方で取り除くことのできる次の弱い環であると考えたのだが、そ の悪魔のような分断統治の陰謀に対する拒絶の程度を、彼らはみくびったのだ。

実際に 起ったことは、正反対である。むしろ強固になった障害 は、イランで始まり、イラクおよびパレスチナ、そして全世界に広がって発展した。反革命的な努力は失敗しており、幾つかの場面では、抵抗 運動を一体化し強化して逆の効果を生み出している。レバノンにおいては、宗派間の争いを燃え上がらせる幾つかの試みが、惨めな失敗に終 わった。中国、ロシア、ヴェネズエラ、および他の政府の立場は、米国/イスラエル の覇権に抵抗する国際的な合意を反映するようになってきた。中立の立場を主張できる政府はないし、そんな人間はどこにもいない。何百万ドルという代価を払って、まさにわずかの人々の利益のために世界を支配しようとするこうした悪魔の試みがあるとき、中立はむしろ無意味であ る。すべての国々(パレスチナ、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国など)の圧倒的多数の人々は、さらに破壊的な対立の中に世界 を引きずり込もうというシオニストの策謀に反対してもう一方の側に立っている。明白なことは、ここでの勝利がパレスチナの勝利であり世界の全民衆の勝利であるということだ。

シリアの 民主主義を話題にする前に、地球上の圧倒的多数の人々 が要求している事実を私たちは尊重しなければならない。イスラエル・ロビーに仕えるために市民を無視しあるいはプロパガンダで市民を方向 付けあるいは市民を窒息させようとする代わりに、西側の諸政府が自分たちの市民の意思を尊重することを地球上の人々は要求しているのだ。 シリアの民主主義を話題にする前に、私たちはイスラエルのアパルトヘイトを終わらせなければならない。とりわけ、米国によって支援される それらアラブ産油諸国の抑圧的な体制を終わらせなければならない。おそらく、いわゆる「シリア反政府軍」(彼らの大部分が傭兵であること が判明している)と呼ばれる殺人者たちへ資金援助のために湾岸諸国が数十億ドルも注ぎ込んでいる、これが理由である。ネタニヤフとオバマ が共に神経質になっている理由も同じである。シリアを破壊しパレスチナ人の大義を破壊する米国/イスラエル の計画が失敗するとき(そうなるだろうが)、すべては御破算になる。人々は暴政に向かって立ち上がっている。人権のために立ち上がってい る。それが、いくつもの政府(米国、イスラエル、サウジアラビア、トルコなど)が狼狽し始めている理由である。ピープルズ・パワーが到来 している、私たち一人一人はその一部にちがいない。だから、彼らが心配するもっともな理由もそこにある。みんなのためにより良い世界を構築して抑圧者と被抑圧者を共に解放するこの世界的な抵抗運動(グ ローバル・インティファーダ)に参加するよう、私たちはあなたがたにお願いする。

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■Mazin Qumsiyeh教授は、占領下パレスチナのベツレヘム大学およびビルゼイト大学で研究と教育に勤める。彼はまた、人民間和解のため のパレスチナ・センターの会議議長、およびベイト・サフール入植地と分離壁に反対する民衆委員会のコーディネーター(責任者)を務めてい る。著書に『カナーンの地の分かち合い:人権とイスラエル人/パレスチナ 人の苦闘』および『パレスチナにおける民衆の抵抗運動:希望と権利拡大の歴史』。

(以上、 翻訳終り)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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