フクシマの汚染水問題こそ、日本国家の緊急事態! 東日本大地震・大津波から立ち上がりつつある被災者の皆様、福島原発震災の放射線被ばく・避難者の皆様に、心からお見舞いし、敬意を表します

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授
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2013.9.2 戦争が近づいています。シリアへの新しい戦争が。名目はシリア政府による市民への化学兵器使用。11万人の内戦犠牲者200万人の難民は事実のようです。アメリカの民主党オバマ大統領は、「アメリカの国益」から、単独でも軍事介入しそうです。週末関西から戻ってみると、一応議会に諮るようですが。かつての宗主国フランスも、社会党政権が踏み込みそうです。しかしアメリカの最高の同盟国(日本ではありません)イギリスでは、首相が下院に参戦を提案しましたが、与党からも造反の慎重論が出て否決されました。ドイツ、ロシア、中国は軍事介入反対を明確にしています。何より国連が、まだ化学兵器使用の有無を判断していません。かつて大量破壊兵器保有を口実にして何も出なかったイラク戦争多国籍軍介入の教訓から、国際社会は慎重です。アメリカでさえ世論は介入反対が多数です。アメリカにすぐに従おうとするのは、利害当事国であるイスラエルのほか、日本の安倍内閣ぐらいです。これが集団的自衛権での同盟関係なら、一緒に無条件参戦しかねない勢いです。

けれども日本だって、実は、久方ぶりの国際政治の焦点です。まずは内政こそ、緊急出動が必要です。福島第一原発の汚染水問題です。世界のクォリティ・ペーパーから日本政府の責任と緊急対応が要請されています。でも、相変わらずの鈍い反応。国会で直ちに審議すべきなのに、なんと東京オリンピック招致への影響を考慮し先送りという本末顛倒。世界が恐れているのは、海洋への高濃度汚染水流出です。すでに3・11直後から遮水壁やタンカー利用など、重大被害が予想され対策も考えられていたのに、東京電力の株主総会対策で、費用がかさむ抜本対策は先送りされ、場当たり的なタンク林立の簡易対策が採られてきた帰結とか。国家と原子力ムラの不作為責任は、明白です。膨大な予算をつぎこんだ福島県での除染も、その効果が疑問視されています。すべては、原発事故は「収束」していないことを示しています。オリンピックよりも、景気対策よりも、緊急事態宣言を出して、フクシマに取り組むべき時です。

それにしても、異常気象が続きます。台風を心配してでかけた関西では、熱帯低気圧に変わって晴れたと思ったら、突然のゲリラ豪雨。あわてて東京に戻ったら、カンカン照りの猛暑。しかも、世界的です。エジプトのその後やドイツの総選挙も気になりますが、9月締め切りの仕事を複数かかえて、現地ウオッチングは断念、次回更新予定時は、中国にいることになっています。汚れた空気や不動産バブルがどうなっているのか、よく見てきたいと思います。ただし更新日は、遅れる可能性大です。ご了承ください。昨年6月のフクシマ原発をめぐるメキシコでのラテン・アメリカ国際会議の記録が、ようやく活字になりました。書物のかたちではなく、ウェブ上にpdfにして、公式記録を残すかたちです。こうした方式は、今後も広がるでしょう。スペイン語ですが、私の報告のほか、原発技術者の藤原節男さん、地震学の島村英紀さん、社会学の長谷川公一さん、それに3・11後の官邸でボランティア対応した湯浅誠さんの報告が記録されていますから、国際的動きに関心のある方はアクセスしてみてください。日本での91日、日比谷公会堂での大江健三郎さん、小出裕章さんらの「さようなら原発講演会」とも、共鳴しています。

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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